給付型奨学金の拡充や学費の減免制度は実現するか?
奨学金制度の今後はどうなる?
選挙権年齢が18歳へ引き下げられたこともあり、国会でも奨学金が政治テーマとして取り上げられるようになりました。
安倍政権が掲げる「人づくり革命」の実現に向けて設置された「人生100 年時代構想会議」でも、給付型奨学金の拡充や学費の減免制度などの検討が始まっています。
今後、奨学金はどのように変わっていくのでしょうか。
日本の奨学金制度のこれまでの歴史を振り返りながら、予測も加えて考えてみたいと思います。
<給付型奨学金が拡充で大学奨学金制度は2020年が転換期? 目次>
- 日本学生支援機構の奨学金制度は学生ローンである
- 給付型奨学金がようやくはじまった
- 2020年4月が日本の奨学金制度の転換期となる?
- 所得連動返還(学費の出世払い制度)とは?
- 所得連動返還(学費の出世払い制度)の問題点とは?
日本学生支援機構の奨学金制度は学生ローンである
日本の奨学金は1943年に発足した大日本育英会に始まります。その後、日本育英会(1953年)に改称され、無利子での学資貸付けを基本に長らく奨学金制度を支えてきました。保護者世代にとっては奨学金と言えば日本育英会を指し、“優秀な学生のための特別なもの”というイメージが強かったと思います。
事実、日本育英会では、教職や研究職に就くと返済が免除されたり、繰り上げ返済すると残額が免除されるなど、利用者の一部に対する優遇特典がありました。
現在、奨学金業務を行っている日本学生支援機構は、行政改革の一環として日本育英会を含む複数の特殊法人が統合され、2004年に設立された文科省所管の独立行政法人です。
日本学生支援機構の奨学金は金融事業に位置付けられおり、日本育英会時代にあった返済免除などの優遇措置は廃止されています。
日本学生支援機構には無利子と有利子の奨学金があり、年間の利用者数は約130万人、貸与額も年1兆円を超えるほどの規模になっています。
奨学金の返済は大学卒業後から始まりますが、数年前から奨学金の返済に苦しむ若者や滞納問題がメディアで取り上げられるようになりました。
給付型奨学金がようやくはじまった
2018年度の入学者から、給付型奨学金が本格的に始まります。先行実施として2017年度は2,502名が採用されましたが、2018年度からは採用枠数が約2万人へと拡大されました。
その内容を見てみましょう。
<対象進路>
大学、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)
<給付月額>
国公立/自宅生(2万円)、自宅外生(3万円)
私 立/自宅生(3万円)、自宅外生(4万円)
<家計基準>
住民税非課税世帯、または生活保護受給世帯
児童養護施設出身等社会的養護が必要な人
家計基準を見ればわかりますが、この給付型奨学金は、特に経済的に厳しい家庭に限定された制度です。また、給付額から考えると現行の貸与型奨学金も併用せざるを得ないのが実情です。
そんな中、政府ではさらに一歩踏み込んだ議論が始まっています。
2020年4月が日本の奨学金制度の転換期となる?
2017年、安倍晋三総理を議長に「人生100年時代構想会議」が設置されました。
同会議では、生涯学習や大学改革など様々なテーマが検討されますが、初会合となった9月11日、総理は給付型奨学金の拡充や大学等の授業料の減免拡大を検討することを表明しました。
12月の中間報告書によると、支援対象は住民税非課税世帯などの低所得家庭に限定し、国立大学では授業料を免除、私立大学では国立大学の授業料額に一定額を上乗せして免除されることが提案されています。
さらに、新入生は入学金も免除されるという内容なので、低所得家庭にとっては負の連鎖を断ち切れる可能性が広がります。
2020年の4月をこれら新制度の開始時期としていますが、一方では支援対象となる大学等の要件についても言及しています。
日本私立学校振興・共済事業団の調査によると、私立大学・短期大学を運営する全国660法人のうち112法人(17%)が経営困難な状況に陥っているとのこと(2017/12/31 読売新聞WEB版)。
2018年以降、18歳人口は長期的な減少時代に入ります。
定員割れが続き経営が悪化し、募集停止(倒産)となる大学が増えてくることは間違いないでしょう。
高等教育の無償化が市場から淘汰されるはずの質の低い大学の延命策につながってしまえば政策本来の意義が半減してしまいます。その点から言っても、大学の質の担保は重要課題です。
2018年度から本格実施される給付型奨学金も「人づくり革命」での学費の無償化も低所得家庭に限定した政策です。
では、最も層の厚い、いわゆる中間層に対する支援策はどうなるのでしょうか。
この点に関しては、予測される施策とその課題点を指摘してみたいと思います。
所得連動返還(学費の出世払い制度)とは?
「人生100年時代構想会議」の初会合では、大学等の授業料を卒業後に支払う出世払い制度についても触れられました。これは、イギリスやオーストラリアで導入されている「所得連動返還」のことを指し、卒業後の収入に応じた“学費の後払い”制度です。
簡単に言うと、大学や専門学校への授業料を学生に代わって国が立て替えて支払い、学生は卒業後の収入が一定基準を超えてから国に返済するという仕組みです。
中間層に対する高等教育の負担軽減策については、この所得連動返還(出世払い制度)を軸に検討されるであろうと考えています。
所得連動返還(学費の出世払い制度)の問題点とは?
現行の日本学生支援機構でも所得連動返還は取り入れられていますが、第一種奨学金だけに限るなど制度としては中途半端な形です。本格的な所得連動返還(出世払い制度)が導入されると、入学金等の高校在学中に必要な費用や半年ごとに必要な授業料などの現金納付が必要なくなるので、保護者と学生の直接的な金銭負担は激減するでしょう。
これによって、多くの家庭の不安が解消されることは確かです。
しかし、制度の設計如何によってはいくつかの問題が起こり得ると考えていますが、その中から特に以下の2点を指摘して締めくくりたいと思います。
(1)授業料が見えづらくなり、学費が高騰する可能性
文科省の調査では、私立大学の2016年度入学者の初年度納付額が過去最高になったことがわかりました。私立大学では、入学金を下げても施設費等を値上げしてトータル学費を上昇させるということがあります。少しでも値上げしたいというのが大学サイドの本音でしょう。
直接の学費納付が必要なくなれば、入学金や授業料に対する受験生や保護者の関心がこれまでよりも低くなります。それにより、学費を値上げし易い環境作りにつながることを懸念します。
(2)返済義務が生じる収入基準
本来の所得連動返還では、収入が一定基準を超えて初めて返済義務が発生します。この点が議論の重要課題となるでしょうが、問題は「いくらに設定するのか」です。
給付型奨学金とは異なり、所得連動返還は学費が後払いになるというだけなので、返済義務が発生する収入基準によっては、現行の貸与型奨学金の負担感と全く変わらない可能性があります。
この2点以外にも“債務の消滅期限”の設定や“保証制度”の問題など、気になる点がありますが、今後の議論の進展を見て適時意見を述べたいと思います。
「人生100年時代構想会議」では、社会人の学び直しにおける通信制大学の活用についても検討されています。
「周りと同じように……」という横並び意識が強い日本人。
受験生の保護者を見ていると、進学でも同様の風潮が今なお根強いと感じます。
通信制大学以外でも、大学の夜間部や働きながら学ぶ自力進学、または農業大学校や職業能力開発大学校など文科省の所管以外の養成学校も各地に設置されています。
政府の人づくり革命に委ねる前に、一人ひとりが「自分つくり革命」を目指して、多様な学び方の中から自分にあったベターな進路を考えて欲しいと思います。
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