建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

街の隙間を間取りに活かす家[すきまちまどり]

建築家・瀬野和広さんが手掛けた建築実例をご紹介します。「隙間」をキーワードに、住宅密集地にありながらも、周囲の環境と繋がるプランニングの工夫によって、「環境共生住宅」を造りあげました。

執筆者:川畑 博哉

東京・世田谷区の住宅密集地に建つ2階建ての木造住宅です。
設計を託された建築家の瀬野さんは、まちの「隙間」を家の間取りにどう活かすかをテーマに、道に対して、隣地や隣家に対して、さらには空と地に対してと、家が関係する全ての環境を「隙間」と捉え、対話し呼応する間取りで、Wさんの快適生活の願いを叶えました。

くの字に曲がった白い家

外観
白い壁が立ち上がる西向きの正面。約1m張り出した庇がアクセントになっている。奥の屋根はアルミ亜鉛合金メッキ鋼板のタテハゼ葺き。
外観
北側の壁は庭をつくりだすために振られている。2階にキッチン・ダイニングの出窓が見える。その上には屋上の手摺が見える。
外観
庭の奥のカナダ杉のテラスにはホールと寝室の窓が面している。
外観
スチールのドアの玄関。北側の壁には横長の窓が設けられている。
外観
玄関の土間は奥行き約3mの磁器質タイル張り。

最寄りの駅から5分ほど歩いた先の、戸建て住宅やアパートが密集する古くからの住宅地の一画に、白く高い壁が印象的なWさんのご自邸が建っています。道路に面した前面はあえて1mほど後退させて短いアプローチを造り出しています。
さらに北側の壁を斜めに振ることで三角形の庭として,隣家の庭との交流も創出しています。

吹抜けに伸びる半螺旋の階段

ホール
西側のワークスペース。机と本棚は造り付け。玄関の収納壁の裏側にパネルヒーターが取付けられている。
ホール
庭に面したデッキテラスに出られる北側の大きな窓。2段上がった先に寝室の入口が見える。
ホール
南側の造り付けの本棚の前に鉄製の螺旋階段が立ち上がる。
階段
階段室の吹抜け。東側に窓がある。
階段
2階から階段と吹抜けを見下ろす。造り付けの本棚は約4.5mの高さ。

玄関の土間を抜けると大きな本棚のあるホールが現れます。室内は建築家の瀬野さんが愛用する天竜杉と漆喰壁で造られています。天竜杉は2年以上かけて自然乾燥させたもので、細胞膜が残っているため強度も高く調湿機能にも優れています。素材にこだわる瀬野さんが惚れ込んで愛用している建材なのです。
このホールで目を惹くのは北側の黒い螺旋階段と、その奥の約8mの吹抜けに立ち上がる壁いっぱいの本棚です。この吹抜けは家全体の空気の流れをつくり出す大きな空調機能をもった空間なのです。

2階はワンルームのLDK

台所
リビングからダニングとキッチンを見る。
台所
シンクとレンジのカウンターが並行する機能的なキッチン。面材を木目にして室内のテイストを揃えている。
居間
勾配天井の下のリビング。床は天竜杉の無垢のフローリング。
居間
天井の最も高い所は約4m。奥に書斎が控えている。
書斎
約2.5帖の書斎。腰掛けられる畳の下は収納になっている。

螺旋階段で2階に上がると広いLDKが待っています。西側がキッチンとダイニング、東側がリビングになっています。天竜杉の柱と梁と白い漆喰壁で造られた室内は不定形なので、オーディオの残響も少なく良い音がまわります。
LDKの間取りの振れや窪みは、空気溜まりを創り出した結果の形状になっています。ハイサイドライトのある高い勾配天井の下のリビングは、現しとした丸柱と太い梁が空間をひきしめています。

こだわりのバスルームと落ち着いた寝室

洗面
ガラスで仕切られた洗面とバスルーム。天井は天竜杉張り。洗面の壁は波模様のタイル張り。大きな鏡の下には間接照明が仕掛けられている。
風呂
ハーフユニットのバスルーム。壁は赤みがかったグレーの磁器質タイル。
寝室
白い漆喰壁の寝室。縦長の窓が一対で付いている。
寝室
寝室の床を跳ね上げると床下収納の階段が現れる。
屋上
屋上は将来デッキテラスを張り、緑化も予定している。

1階の東側にはトイレと洗面・脱衣所とバスルームが細長く一列に並んでいます。洗面を中心に南にトイレ、北にバスルームが配されています。洗面とバスルームは全面ガラスで仕切られているので、ワンルームのような感覚。さらに仕上げ材や洗面台も吟味されて、さながら高級ホテルのようです。
バスルームと隣あって約7帖の寝室があります。ほぼ正方形の落ち着いた雰囲気の部屋で、通気と採光を兼ねて北側に一対の縦長の窓があります。一方は正面の庭に、向かいの窓は裏の坪庭に面しています。
螺旋階段を昇りきると眺めの良い屋上が待っています。広さは約10帖で、今後は屋上緑化も計画されています。
建て込んだ住宅地にあえて庭を設けたWさんのご自邸。隣家との庭同士の繋がりで互いの家に奥行きを出したり、裏の坪庭を隣家との緩やかな緩衝地帯にするなど、空気の隙間を繋げるという高度なプランニングによって、地域の緑化にも貢献する「環境共生住宅」になりました。

[すきまちまどり]
所在地: 東京都世田谷区
構造・規模: 木造 地上2階
竣工年月: 2017年6月
敷地面積: 100.03m2
建築面積: 49.68m2
延床面積: 96.27m2
設計・監理: 瀬野和広+設計アトリエ
施工: 渡辺富工務店


瀬野和広[瀬野和広+設計アトリエ]プロフィール

「趣味が高じて建築の道に入った」という、今もっとも脂ののった建築家の一人です。庭師の長男として山形に生まれ、ゼネコンの設計部を経て独立して四半世紀。「住まいは世代循環を育み、住まい方を考え実践する場所であり、そんな、まち、場所を住み継ぐ家づくり」を心がけて、これまでに200軒を超える戸建て住宅を実現させてきました。また、自らの住宅設計の手法を著した本も上梓しています。

瀬野和広+設計アトリエ
TTel.03-3310-4156
http://www.senonose.com/

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          瀬野和広 [Seno Kazuhiro]


これまで登場した瀬野和広+設計アトリエの住宅


 

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