建築家・設計事務所

吹抜けの下で料理を楽しむ[鎌倉長谷の家]

建築家・松岡淳さんが手掛けた建築実例をご紹介します。鎌倉の大仏や紫陽花寺のほど近くに建つセカンドハウスです。「料理を楽しめる家」をテーマにして、大きな吹抜けの下に広くて明るい開放的なダイニングキッチンが造られました。

執筆者:川畑 博哉

鎌倉の長谷寺の近くに2階建ての住宅が軒を連ねる閑静なエリアが広がっています。その一角に大きなウッドデッキと黒い外壁が目を惹くEさんのセカンドハウスが建っています。
普段は北海道で暮らしながら、奥様のご実家に近い湘南で別荘のように住むための住宅を望まれたEさんは、地元を良く知る友人の勧めで、この絶好の土地と建築家の松岡淳さんに出会ったのです。

広場の緑を背景にした黒い家

外観
ガルバリウム鋼板の屋根は樋の小口が見えないように褄側にも軒樋を付けている。外壁は塗壁仕上げ。写真:鈴木賢一
外観
2段のウッドデッキはアマゾンジャラ材で出来ている。
外観
ウッドデッキは室内と段差を無くすように高さを揃えている。写真:松岡淳
夜景
夜には窓やテラスや玄関の明かりが外観のアクセントとなる。写真:鈴木賢一
玄関
ポストが仕掛けられたコンクリートの柱が玄関のアプローチの前に立つ。写真:松岡淳

裏の広場の豊かな緑を背景にして黒い切妻の家が建っています。ここがEさんのセカンドハウスです。正面の家型のシルエットに2階の白いテラスと緩やかな階段状のアプローチ先に待つ白い玄関が全体のアクセントになっています。
この敷地は隣の土地を買い取ることで南側の庭の広がりを確保しています。家の奥にはその庭に向けて2段のウッドデッキが庭に張り出しています。

大きな吹抜けの下のダイニングキッチン

DK
キッチンから玄関と和室を見る。和室の上は寝室の内窓。屋外という設定により照明はほぼ全て間接照明になっている。
DK
寝室から吹抜けを見下ろす。天井高は5.3m。写真:鈴木賢一
DK
和室からダイニングキッチンを見る。背後の縦長の窓は住宅用のサッシを使用。框を隠すための特別なデザインを施している。写真:松岡淳
台所
アイランドタイプのシステムキッチン。カウンターの跳ね出しの寸法や幅木の高さなど、製作限界値で製作した。写真:鈴木賢一
台所
キッチンをシンク側とコンロ側に分けて、レンジフードを壁の中に取込むことで開放感を保っている。写真:鈴木賢一

この家の設計に当り、建て主のEさんは松岡さんに「料理を楽しめる家に」とだけ希望されました。
松岡さんの頭に浮かんだのは「青空の下のバーベキュー」と「小学校の調理実習」の時に感じた、広々とした場所で友人たちと過ごした和気あいあいの雰囲気でした。
そこで、室内でありながら、まるで家の外のような広くて明るい空間の下にキッチンセットとダイニングテーブルを置いたのです。キッチンはアイランド型にして、集まった仲間と一緒に料理を楽しめるようになっています。
ダイニングキッチンの南側の大きな窓をフルオープンにすると、そのまま庭に張り出したウッドデッキに出ることができます。ウッドデッキは敷地に高低差を利用して2段になっていて40cmの段差があります。これは一般的な椅子の座面の高さと同じなので、下の段にテーブルを置けばその段差がそのまま椅子の代わりとして腰かけることが出来るのです。

落着いた小上がりの和室

和室
室内に自然を演出するシマトネリコは、基礎に造られたピットにプランターが置かれてる。メンテナンスの際には蓋となっているフレキ板の床は簡単に取り外せる。写真:鈴木賢一
和室
和室の障子を閉めれば個室になる。障子は破れにくいワーロン紙。写真:鈴木賢一
和室
明かりを灯せば和室と寝室が行灯の風情となる。写真:松岡淳
和室
和室の北側の掃き出し窓の上は壁収納。写真:鈴木賢一
階段
洗面ボウルは信楽焼き。写真:鈴木賢一
階段
2階から階段室を見下ろす。突き当たりは収納の扉。

玄関から入ったすぐ右手は小上がりの和室になっています。広さは約8帖で縁無しの畳が12枚敷かれています。和室からダイニングに目をやると、まるで縁側から庭を眺めているかのような不思議な感覚にとらわれます。これは屋内と屋外が家の中にある「入れ子」の構成によって生み出された開放感なのです。
また、ここは二面を障子で締め切れば個室になります。夜に灯を点してダイニングから眺めると、大きな行燈のような和の空間として浮かび上がるのです。
この家は全館空調になっています。床下を温める基礎断熱工法を採用し、1階の床全体が床暖房のような効果を発揮。輻射熱による冷房も暖房もできる穏やかな空調が施されています。

借景を楽しむバスルームと寝室

風呂
洗面室からバスルームを見る。洗面台は陶器の置きタイプ。床は20cm角のタイル張り。写真:鈴木賢一
風呂
バスルームのガラス窓から広場の樹木の緑を眺める。写真:松岡淳
風呂
バスルームから洗面所を見返す。写真:鈴木賢一
寝室
寝室の内窓から広場の緑を眺める。写真:松岡淳
寝室
寝室の東側に朝日の差し込む2つの窓が設けられている。写真:鈴木賢一

この敷地の西側は半永久的に建物が建たない緑豊かな広場になっています。その景色を全面的に取り入れた2階のバスルームでは、露天風呂感覚で入浴を楽しむことができます。また、吹抜けに繋がる寝室の内窓を開けると、ベッドに居ながらにしてこの景色を眺めることが出来るのです。まさに敷地のメリットを最大限に活かした設計になっています。
この家には特別なキッチン設備や高価な仕上げ材を使用していません。どこでも手に入る汎用品のみで、そのデザインとディテールを追求することにより、Eさんが望まれた「料理を楽しむ家」を実現しました。この空間は料理と生活に彩りを添えるうえで欠かせないスパイスとなっているのです。

[鎌倉長谷の家]

松岡淳[松岡淳建築設計事務所]プロフィール

大学院在学中に日本建築界の重鎮、故内井昭蔵氏に師事。2012年に独立。「『いま』と『これから』について対話を繰り返し、自然環境を巧みに、時には大胆に室内に取り込み、五感を通じて『心地いい』と感じられる住宅を提案していきたい」というポリシーで住宅を設計してきました。
    
松岡淳建築設計事務所
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           松岡 淳 [Matsuoka Atsushi]


これまで登場した松岡淳建築設計事務所の住宅

◆[港南の家]Top
所在地: 神奈川県鎌倉市
構造・規模: 木造 地上2階
竣工年月: 2018年1月
敷地面積: 165.00m2
建築面積: 64.60m2
延床面積: 99.79m2
設計・監理: 松岡淳建築設計事務所
構造設計: 羽田野構造設計室
TTel.046-848-1525
http://www.matsuoka-architects.com/
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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