定年・退職のお金/老後の生活費と家計管理

老後資金が足りない人は「人的資本」を大事にしたい

老後を迎えるまでの準備として、資産の山をできるだけ高く築き、一方で生活のダウンサイジングする必要があると述べてきました。生活のダウンサイジングは、誰でも、また明日から始めることができますが、資産の山を築くのは一朝一夕でできるものではありません。相応の資産を老後を迎えるまでに築くのが難しい人は、誰もが持つ「人的資本」を錆びつかせることなく長く使えるようにするのが最後の手段といえそうです。

深野 康彦

執筆者:深野 康彦

お金の悩みに答えるマネープランクリニックガイド

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50代の貯蓄ゼロ世帯は1割以上にも

金融広報中央委員会が公表している「家計の金融行動に関する世論調査(令和2年調査)※」によると、50歳代の2人以上世帯では13.3%、単身世帯では41.0%が貯蓄0円という調査結果です。貯蓄0円とはいかないまでも現在の貯蓄額は数百万円、退職金を含めても老後を迎える時の金融資産額は、1000万円前後という世帯もかなりいると推測されます(※調査時期は令和2年8月7日~9月15日)。

 
50代で貯金がない人の対策

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1000万円も貯蓄があるのであれば、老後は何とかなると思われるかもしれませんが、大まかにいえば男性59歳(女性54歳)以下の人は公的年金は65歳からの支給になるのです。それより上の人も、63歳または64歳から部分年金が受け取れるに過ぎないのです。仮に60歳で完全リタイアしてしまえば、1000万円の貯蓄額はあっという間に使い果たしてしまうのです。

65歳まで働いたとしても、収入は大幅に減少していることから、積み上げられる貯蓄額は数百万円がいいところ。数百万円でも積み上げられればよいですが、生活のダウンサイジングがおぼつかない世帯は、65歳までに貯蓄額が減少しているケースさえあるのです。数百万円を積み上げ、65歳時に1200万円の貯蓄額になったとしましょう。

総務省が公表している2019年の『家計調査』によれば、65歳以降の赤字額を平均すると月2万5000円前後、年間30万円です。1200万円あれば、40年強、言い換えれば105歳まで持つ計算になりますが、その間に家のリフォームや車の買い替え、海外旅行、子どもの結婚資金の援助などを行えば、瞬く間に資金は底をついてしまうのです。余裕などないに等しいといえるのです。また、家計調査の平均値で生活している世帯がどれだけいるのかも考慮しなければなりません。
 

最後の切り札「人的資本」を長く活用する

将来受け取る公的年金額が少ないほど、老後のために準備するお金は多額になります。また、受け取る公的年金の額が多くても、生活水準が高い人は、同様に多額の準備が必要になります。とはいえ、誰もが多額の老後資金を、退職時までに準備できるわけではありません。そこで、多額のお金を準備することができなくても、誰もが持っている「人的資本」を長く活用することができれば、それも立派な老後の準備になるはずです。

老後の準備、中でも退職時までにいくら準備しておけばよいのか?という質問の回答には、万人に共通の正解はないと答えざるを得ません。人それぞれライフプランやライフスタイルなどが異なることがその理由ですが、老後の準備において、万人に共通する正解の1つに「人的資本」をしっかり確保しておくことをあげることができるでしょう。

人的資本は誰もが持ち合わせているもので、簡単に言えば働く力(勤労)です。この働く力を長い間キープすることができれば、たとえ多額の老後資金を準備できなくても、あるいは将来公的年金の支給開始年齢が引き上げられても乗り切れる可能性が高いと考えられるのです。

一般的には、高齢になればなるほど人的資本は錆びついてしまい、収入を得る力がなくなります。人的資本が錆びつく前(老後を迎える前)に、しっかりと資産を積み上げておきましょうとなるわけです。

しかしながら、人的資本が錆びついていなければ収入を得ることができるのですから、老後までに積み上げる資産は錆びついている人と比較して少なくて済むのです。このように述べると一生働かせるつもりか、老後(セカンドライフ)がないまま一生を終えるのか等々の反論があると考えられますが、何も一生涯朝から晩までのフルタイムで働きましょうと言っているわけではありません。
 

心身ともに気を付けて人的資本を大切にすること

セカンドライフを楽しみながら、空いている時間をうまく活用して働けるようにするだけでも金銭部分には大きな違いがあるのです。しかし巷で言われているのは、健康寿命と平均寿命の間には、概ね10歳前後の差があるということです。

あくまでも筆者の実感ですが、若年層でも精神疾患などで休職していたり、仕事を辞めようと悩まれている人が多い気がしてならないのです。ここで休職したら、仕事を辞めたらと無理する気持ちもわからなくはありませんが、無理がたたって人的資本を一部削いでしまったり、最悪、人的資本をなくしてしまうことの方が、将来を俯瞰すればより大きな損失となってしまうのです。

老後の準備は早いうちから行った方がよいといわれますが、その際たるものはお金の準備よりも、誰もが持っている人的資本を錆びつかせない、あるいは無にしないことだと思われるのです。お金の心配よりも、人的資本を衰えさせずに如何に歳を重ねていくのかが、万人に共通の老後の準備と思えてならないのです。

人的資本を錆びつかせない、わかりやすく言えば健康に留意することですが、この場合の健康は肉体的なものと、精神(心)的な面の両方を健全に保つことを心がけるべきなのです。極端な言い方になりますが、人的資本さえあれば何とかなる、それだけ人的資本は「大切」かつ「優れもの」といえるのです。

【参考文献】55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣(明日香出版社)

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