住宅を活用して旅行者などを有償で宿泊させる、いわゆる「民泊」が国内でも急速に普及しています。そのルールなどを定めた「住宅宿泊事業法」(民泊法)が成立し、2018年6月に施行されることとなりました。
民泊解禁は宿泊施設の不足解消だけでなく、空き家活用の側面もある
そこで、住宅宿泊事業法のあらましとともに、民泊事業には関わらない人も知っておいたほうがよいポイントなどをまとめました。
無用なトラブルに巻き込まれないためにも、基本的な内容を理解しておくようにしましょう。
民泊法施行に向けた準備が進んでいる
「住宅宿泊事業法」(民泊法)は2017年6月9日に国会で可決・成立し、同6月16日に公布されています。そして、その施行日を2018年6月15日(一部を除く)とすることが10月24日に閣議決定されました。また、「住宅宿泊事業法施行令」「住宅宿泊事業法施行規則」「国土交通省関係住宅宿泊事業法施行規則」「厚生労働省関係住宅宿泊事業法施行規則」が10月27日に公布され、いずれも住宅宿泊事業法に合わせて2018年6月15日に施行されることになっています。
その一方で、2017年の通常国会へ提出されていた、違法な民泊の監視・罰則を強化するための「旅館業法改正案」(民泊監視法案)は、衆院解散のためにいったん廃案となっていましたが、その後の特別国会で成立する見込みで、民泊法と同時施行を目指しています。
さらに、民泊法については地域の事情を反映するように自治体の条例で制限を加えることができるため、独自規制を設けようとする検討が各地で進められています。2018年前半には、多くの自治体で条例制定が相次ぐこともあるでしょう。
民泊法の主な内容は?
まず、住宅宿泊事業(民泊)を営もうとする場合には、都道府県知事への届出(保健所設置市および東京23区はその長への届出)をしなければなりません。なお、この届出は2018年3月15日から受付が始まります。許可や認定ではなく簡易な手続きで済む「届出」とする代わりに、年間提供日数は180日(泊)が上限とされました。
ただし、この上限日数は自治体の条例でさらに制限することができ、東京都新宿区や横浜市などでは第1種低層住居専用地域および第2種低層住居専用地域を対象に、毎週月曜日から木曜日(祝日などを除く)の営業を禁止する方向で検討していることが報じられています。
金曜日から日曜日までの3日間および祝日の営業とすれば、年間160~170日程度が上限のめどになるでしょう。
ちなみに、営業日数については「住宅宿泊事業法施行規則」により、毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までの期間で判断すること、毎日正午から翌日正午までを1日とすること、民泊事業者は2か月ごとに「人を宿泊させた日数」などを報告することが定められています。
また、家主居住型の民泊では「住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置」が義務付けられ、衛生確保措置、騒音防止のための説明、苦情への対応、宿泊者名簿の作成・備え付け、標識の掲示などをしなければなりません。
さらに、自治体の条例により「周辺住民への事前説明義務」が課される場合もあるでしょう。
その一方で、家主不在型の民泊では「住宅宿泊管理事業者」に業務を委託することが義務付けられ、委託された管理事業者が上記の措置を実施することになります。
なお、民泊法による制度創設に伴い、「住宅宿泊管理事業者」は国土交通大臣への登録、民泊を仲介する「住宅宿泊仲介業者」は観光庁長官への登録が必要となり、それぞれが登録業者に対する監督を実施します。
特区民泊、旅館業法による簡易宿所とどう違う?
民泊については、これまでも2014年にスタートした国家戦略特区による「特区民泊」がありました。現在、東京都大田区、大阪府、大阪市、北九州市、新潟市で実施されています。また、旅館業法が2016年4月に規制緩和され、「簡易宿所」の許可により民泊サービスを提供することが容易になっていました。
これらの特区民泊や簡易宿所と今回の民泊法で最も大きく異なる点は、用途地域の違いに関係なく全国どこでも、つまり閑静な住宅地でも民泊事業を運営することが可能になることです。この点については、民泊に関係ない人も十分に理解しておかなければなりません。
特区民泊は旅館業法の特例を活用して認定を受けるものですが、その対象地域は建築基準法において「ホテル・旅館」の建築が認められる用途地域に限られることが一般的です。旅館業法による簡易宿所も同様に立地できる用途地域は限定されます。
いずれにしても、これまで第1種・第2種低層住居専用地域、第1種・第2種中高層住居専用地域では合法的な民泊が認められず、第1種住居地域は一定面積以上のものが認められませんでした。その立地制限がなくなるわけですから、民泊が急増することもあるでしょう。
なお、民泊事業をしようとする人の立場でみれば、営利目的・投資目的なら提供日数の制限がない特区民泊か旅館業法の簡易宿所を選択し、住宅地にある空き家や自分が住んでいる家の空き部屋を活用するなら民泊法を選択することが基本的な考え方になりそうです。
ただし、年間180日(または条例で定められた日数)以下の稼動でも採算がとれそうな地域であれば、住宅地で民泊を展開する事業者が数多く出てくるかもしれません。
マンション住民、地域住民として民泊にどう対処するべき?
民泊解禁。あなたの街ではどう受け入れる?
マンションではオートロックなのに旅行者が勝手に入ってくることなど、防犯面での危惧もあるでしょう。
分譲マンションの場合には、管理規約のなかに「民泊を認めるか、禁止するか」を盛り込むことができるため、まだ決めていない管理組合は早急な対処が求められます。
ただし、住宅宿泊事業(民泊)を始める際の届出において、管理規約に定めがない場合には「管理組合が民泊を禁止する意思がない(禁止方針の決議がない)旨を確認したことを証する書面」の添付が必要です。
民泊について管理組合の決議がされていない場合でも、(ルールが守られる限りは)ただちに大きな支障が生じるというわけではありません。
また、賃貸マンションやアパートの一室を転貸する場合には、届出の際に「転貸の承諾書」が必要です。しかし、オーナー(賃貸人)と地域住民の間に意思疎通がない場合も多いため、地域の意向に反して転貸が承諾されることもあるでしょう。
その一方で、一戸建て住宅などの場合にはあくまでも当事者(所有者など)の判断に委ねられます。町内会などで話し合ってみることは必要でしょうが、たとえ反対意見が多くても町内会として民泊を禁止することは困難です。
それよりも「合法的な民泊」を前向きにとらえ、地域として受け入れ態勢を考えることも欠かせません。民泊の普及は世界的なものでもあり、これからの時代において避けることのできない流れです。
これまでトラブルなどがあった民泊の大半は「違法民泊」「ヤミ民泊」といわれるようなものだと考えられ、宿泊者への注意がされていなかったり、違法営業を隠すために所在地が分かりづらくなっていたりしたこともトラブルの要因になっています。
もちろん、今後も「違法民泊」や、合法的に始めたもののルールが守られない民泊などへの監視はしっかりとしていかなければなりませんが、合法民泊がルールを守って適正に運営される限りは、地域住民と何らかのトラブルを引き起こすような旅行者はそれほど多くないでしょう。
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