不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

空き家対策はどうなっている?主な動きをまとめてみた

空き家問題が年々深刻化し、国も本格的に空き家対策へ取り組み始めています。しかし、対象が幅広いため分かりづらい面も少なくありません。そこで法律や制度を中心に、最近の主な動きをまとめてみました。

執筆者:平野 雅之

最近は空き家問題がテレビ番組や新聞で取り上げられることも多くなってきましたが、これは決して「新しく生じた問題」ではありません。

戦後からしばらく住宅難の時代だったものの、1960年代後半には総住宅数が総世帯数を上回り、その後も50年ほど、世帯数の増加を上回る数の住宅が供給され続けてきたのです。

それと同時に各地で空き家が生まれ始めたわけですが、空き家数が徐々に増えることによって次第に「地域問題」として認識されるようになり、2000年代前半には「空き家バンク」を運営する自治体も表れるようになりました。

また、2010年7月には埼玉県所沢市が全国で初めて「空き家条例」を制定(同年10月1日施行)し、その後2014年10月時点では401の自治体が「空き家条例」を制定しています。

破損が進んだ空き家の屋根

放置された空き家は周囲にも影響を及ぼす


しかし、国が空き家対策に本腰を入れ始めたのはここ数年のことです。その背景には国内の人口減少が本格化してきたこと、世帯数の減少も目前に迫ってきていることなどもあるでしょう。

近年は民間によるリノベーションへの取り組みが盛んになり人々の関心も高まっているほか、国は「既存住宅流通の促進」にも重点をおいています。

リノベーションや既存住宅流通も空き家対策と密接に関連するものですが、ここではそれ以外の「空き家対策を盛り込んだ法律や制度」などについて、最近の主な動きを整理してみました。


空き家対策のベースとなるのは、新たな住生活基本計画(全国計画)

現在、さまざまな観点から推し進められている空き家対策は、原則として「新たな住生活基本計画(全国計画)」(2016年3月18日閣議決定)で示された方針に沿って策定されています。

住生活基本計画には「3つの視点、8つの目標」が掲げられ、そのうちとくに空き家を対象とするのが「視点2:住宅ストックからの視点・目標6:急増する空き家の活用・除却の推進」です。

このなかで基本的な施策として次の7つが提示されました。
(1)空き家増加が抑制される新たな住宅循環システムの構築
(2)空き家を活用した地方移住、二地域居住等の促進
(3)古民家等の再生・他用途活用
(4)介護、福祉、子育て支援施設、宿泊施設等の他用途転換の促進
(5)定期借家制度等の多様な賃貸借方式を利用した既存住宅活用促進
(6)利活用の相談体制や、所有者等の情報の収集・開示方法の充実
(7)生活環境に悪影響を及ぼす空き家について、計画的な解体・撤去を促進

また、その数値目標として「空家等対策計画」を策定した市区町村数の全市区町村数に対する割合(2014年時点でゼロ)を2025年におおむね8割とすること、賃貸・売却用等以外の「その他空き家」の増加を抑制し、2025年時点で400万戸程度(2013年時点は約318万戸)にすることなどが掲げられています。

空き家対策といえば、すぐに「老朽家屋の取り壊し」が思い浮かぶ人も多いかもしれませんが、空き家には「まだ新しい住宅」「まだ使える住宅」もたくさん含まれています。

そのため、空き家を「除却」するだけでなく、その発生予防、個々の状態に応じた適正な管理、再生・活用、市場での流通(売却・賃貸)など、幅広く対策が進められようとしているのです。「既存住宅流通の市場整備」も空き家対策に寄与するものと考えてよいでしょう。


空家等対策の推進に関する特別措置法の施行

老朽化が進んだ「特定空き家」の強制撤去措置などを含む「空家等対策の推進に関する特別措置法」は2015年2月26日に一部施行、同年5月26日に全面施行されました。

国土交通省のまとめによれば、進捗状況は次のようになっています。
市区町村による空家等対策計画の策定等
  2017年3月31日時点で357市区町村が策定済み
  2018年3月31日までに891市区町村が策定見込み
法定協議会の設置(市区町村長、地域住民、関連団体など)
  2017年3月31日時点で370市区町村が設置済み
空家等の実態把握・所有者の特定等
空家等およびその跡地の活用
特定空家等(放置することが不適切な空家等)に対する措置
  (法施行から2017年3月31日までの累計)
  助言・指導6,405件、勧告267件、命令23件、代執行11件、略式代執行35件

破損が進んだ放置空き家

空き家対策特別措置法により強制撤去された「特定空き家」(撤去工事数日前の状態)



2016年度における主な「空き家対策」の動き

2016年度の税制改正により、相続した空き家の譲渡にかかる3,000万円特別控除の制度が導入されました。一定の要件を満たす空き家、または空き家を解体した後の敷地を売却したときの税額を軽減するものです。

この特別控除制度の適用期間は2016年4月1日から2019年12月31日までとなっていますが、初年度(2017年3月31日まで)の適用数(確認書の交付数)は4,477件だったようです。

また、直接的な空き家対策ではないものの、2014年8月1日に施行された「改正都市再生特別措置法」にもとづく「立地適正化計画」の作成は2016年度中に大きく進みました。

2016年4月時点で立地適正化計画を「作成・公表済み」の市町村は2市にすぎませんでしたが、2017年4月30日時点では106市町まで増加しています。

これから作成する市町村も多く、空き家対策における今後の方向性を考えるうえで、それぞれの市町村で定められる「立地適正化計画」の内容を十分に理解しておかなければなりません。

さらに、空き家を活用した地方移住や二地域居住などを促進するための支援制度が2016年度に創設されたほか、2016年12月27日には「開発許可制度運用指針」が一部改正され、市街化調整区域における空き家対策を念頭に用途変更などの規制が緩和されました。


2017年度は「空き家対策」が加速!?

「空き家所有者情報の外部提供に関するガイドライン(試案)」および市町村の職員などに向けた「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」が2017年3月に策定・公表されています。

これらは空き家対策を円滑に進めるためのものですが、誰が権利を持っているのかはっきりしない「所有者不明土地」は大きな課題です。2017年9月12日に設置された「国土審議会土地政策分科会特別部会」で所有者不明土地問題に関する制度の方向性についての検討が始まりました。

その一方で、空き家・空き地と密接な関係にある「都市のスポンジ化」も対策が急がれており、2017年2月15日から社会資本整備審議会都市計画基本問題小委員会で検討が重ねられてきた内容は、8月10日に「中間とりまとめ」として公表されています。

また、「全国空き家対策推進協議会」が2017年8月31日に設立されました。47都道府県および926市区町村、業界関連の専門家など24団体が設立当初のメンバーとなっているようですが、これから参加する市町村も多く見込まれるでしょう。

国土交通省のモデル事業として「全国版空き家・空き地バンク」の構築も進められています。現状でバラバラの仕様となっている全国自治体の空き家バンクなどの情報を集約・一元化するもので、株式会社LIFULLが2017年9月28日にβ版のサービス提供を開始しました。

この「LIFULL HOME’S空き家バンク」の本格稼働はまだしばらく先になりますが、地方移住や二地域居住を検討する際にも役立ちそうです。

改正住宅セーフティネット法(新たな住宅セーフティネット制度)は2017年10月25日に施行されますが、これには空き家となっている一戸建て住宅の積極的な活用(シェアハウス化の推進)も盛り込まれています。

さらに、不動産特定共同事業法の一部を改正する法律が2017年12月1日に施行されることになっており、空き家・空き店舗などの再生・活用を促進するための仕組みづくりや環境整備、規制の見直しなどが図られました。

それ以外にも、空き家の転用や用途変更など「ストック活用」が円滑にできるように建築規制の合理化、あるいは各種の助成や支援制度、クラウドファンディングなどを活用した資金調達手段の多様化に向けた検討が進められています。

そして、2018年6月には住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行が予定されているため、民泊用物件として空き家を活用するケースも多くなるでしょう。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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