メンタルヘルス

統合失調症治療のために家族で確認したい5つのこと

家族の誰かが統合失調症のような深刻な心の病気を発症してしまった場合、ご家族は問題にどう対処していけばよいのか悩むものです。長期間に渡って病気の家族を支える上で大切な、家族会議の有用性、その中で話し合い、確認し合っていただきたい5つのポイントについて、詳しく解説します。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

心の病を発症した家族のためにできること

家族

もし家族の誰かが深刻な心の病気を発症してしまったら……。しっかりと乗り越えられるよう、家族間で共通の認識を持つことが大切です

家族の誰かが、深刻なうつ病や統合失調症などの心の病気になってしまったら、ご家族の方はどう問題に対処すればよいか、難しく感じることがあるかもしれません。場合によっては心身の健康状態に影響が出てしまうほど、ご家族まで大きなストレスを抱えてしまうこともあります。

今回は家族の誰かが統合失調症を発症してしまった場合を例に、設けるべき「家族会議」の時間と、そこで話し合い、確認し合うべき5つのポイントについて解説します。

1. 「病気を正しく理解することが第一」と確認する

心の病気は、風邪などのよくある感染症等と違い、世間的にあまり馴染みがない疾患かもしれません。家族が心の病気になってしまった場合、風邪などと同じトーンで気軽に周囲に話す方は多くないかもしれませんし、それが故に、心の病気がまだ誤解を持って捉えられてしまうことも少なくないことが現状です。

場合によっては、周りはもちろん家族から、その病気を発症した原因が、その人の生活態度や成育環境にあるかのような言葉が出るかもしれません。これらはありがちな誤解なのですが、統合失調症は生まれてから発症までの長い歳月のうちに、中枢神経内に発症の素地が段階的に出来上がることで発症すると考えられています。「○○のせいで」「〇〇が悪かったから」と、単一の要因では説明することができないのです。

そして、統合失調症の発症時は、幻覚や妄想などの「陽性症状」と呼ばれる問題が現われやすくなります。何が現実で何が非現実かの区別が付きにくくなります。ご家族はまず、これらの精神症状に当惑してしまうものです。例えば幻聴の症状があると、家族が急に妙な「作り話」をしてくると感じるかもしれません。幻聴は脳内の機能に問題が生じることで現われる症状で、当人にとっては幻聴ではなく「現実に起こっていること」としてしか認識できません。このような症状は、病気を正しく理解していく上で大切な数あるポイントの一つです。

病気の家族をしっかりサポートしていく上で、理解しておきたいことは、1日2日の勉強でたやすくカバーできるとは考えない方が良いと思います。

実際、なじみのない内容をしっかり理解するためにはかなり時間が必要になるもので、数週間から数ヶ月間の期間をかけて理解していくことが大切です。もし病院などでその病気の説明会や勉強会があれば、ご家族の方は時間が許すかぎり出席されるのがよいでしょう。他のご家族と知り合うチャンスにもなり、人の輪を作ることは気持ちを軽くしていくうえで役立ちます。

また、病気を正しく理解すれば、何が病気が生み出した問題で、何がそうではない問題かの区別もつきやすくなります。家族が病気を理解することは、事態を乗り越えていくために最も重要な課題の一つだと意識したいものです。まずは、病気について時間がかかってもよいから正しく理解しようということを、最初の家族会議で共通意識として確認してください。

2. 前向きな気持ちを積極的に共有し合う

一般に何かで辛い時は悲観的な考えが頭に浮かびやすいものです。「大変なことになってしまった……」と、家族そろって肩を落としてしまうと事態がいっそう辛く感じやすいものです。「とにかく頑張ろう!」と気持ちを前に向けるためには、まずそれを口に出してみるのも有効です。

物事を前向きに見ても、後ろ向きに見ても、すぐには違いが現われないかもしれませんが、気持ちの感じ方、持ち方はかなり違ってくるものです。

家族が深刻な精神疾患を発症してしまったら、ご家族全員にとって、それまでにないような大変な事態でしょう。それによるストレスからご家族の方まで心身の健康を崩さないためにも、前向きになれる言葉を大切にしたいものです。家族同士お互いに前向きの言葉が口から出ていれば理想的ですが、まずは家族会議の場でも「頑張ろう!」といった前向きになれる言葉を積極的に口に出してみるように意識しましょう。

3. 家族全員で楽しめるイベントを考える

意外に思われるかもしれませんが、家族会議で病気のことばかり話し合うよりも、楽しいイベントについて考えることも、治療においてとても大切なことです。

家族の誰かが病気になってしまった場合、四六時中、本人の傍にいて様子を見守らなければ、と考えるかもしれません。もちろん自死を口にしているような場合など、当人の様子を見守ることを優先すべき時期もありますが、そうでない場合も付きっきりになると、当人も家族に監視されていると誤解してしまう可能性があります。当人のパーソナルスペースを尊重すること、相手の病状を見守ること、この両者にうまく折り合いをつけるには、少し時間が必要かもしれません。そして、当人だけでなく、長期間のサポートをする上では、家族もそれぞれの時間をしっかり取りリフレッシュもすることが大切です。

当人の病院への送迎や、病院へのお見舞いなど、家族が役割分担で決められることもあると思いますが、その際にできれば家族全員で楽しめるイベントについても決めていきたいものです。たとえば遠出はできなくても、皆で地域のイベントを楽しむなど、定期的に気持ちをリフレッシュすることはストレスに対処していく重要な要素です。

4. 「コミュニケーションを密に」を徹底する

一般的に深刻な事態に直面すると、家族の会話自体が少なくなってしまうなど、家族同士のコミュニケーションに問題が現われてくることがあります。そして、深刻な事態は対処を誤ると、ますます深刻化していく可能性があります。

それを防ぐためにも、ご家族同士のコミュニケーションは普段より意識して増やしたいものです。定期的に家族会議の時間を持つことで、意識して、コミュニケーションの大切さをお互いに確認するようにしましょう。また、病気の当人以外の家族を見て、タバコの本数や飲酒の量が多くなっていないかなど、ストレス状況に気づける要素があれば、家族の中でも気をつけてサポートしたいものです。

また、心の病気の症状によっては、当人と家族の間でコミュニケーションが難しくなってしまうこともあります。例えば当人の言葉が少し不明瞭になってしまうこともあります。こうした場合、基本的には主治医にアドバイスを求めるのがよいでしょう。また、何か分からないことがあればうやむやにしたり避けたりせず、積極的に相手に尋ねていくことも、病気を良く理解し、当人をより効果的にサポートする鍵にもなります。

5. 自分たちだけで抱え込まないように注意する

統合失調症などの深刻な心の病気を発症した場合、適切な治療を受け、療養生活を送り、職場や学校などに復帰できるレベルにまで元の日常を取り戻すためには、一般的に数カ月単位ではなかなか難しく、数年単位の時間が必要になってくるのが現実です。

その間、家族以外の友人や同僚などのサポートが受けられるかどうかは、気持ちの持ち方にも大きく影響してきます。もし何らかの支援の手が差し出された場合、ありがたく享受したいものです。この場合も、家族一人だけが、他の親戚や近所の人に話して回った、といったことがあると家族間のトラブルにもつながる可能性がありますので、共通認識として、ある程度は周りの信頼できる人に話すことも大切だと確認しておくことが大切と言えるでしょう。

家族が心の病気になったことを周りに知らせるかどうかは、それが良い結果につながりそうかで判断されることと思いますが、基本的に親しい方には知らせておいた方が良いと思います。一切誰にも話さずに家族のみで抱え込むことは、外からのサポートを得られる可能性をなくしてしまうことになるからです。

最後に、統合失調症は精神疾患の中ではかなり深刻なタイプのものですが、今日では元の日常生活を取り戻せることが充分可能な疾患になってきました。病気からの回復のコンセプトも一昔前とは大分変わってきていることを、ぜひ知っておいてください。
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