青空の休暇

2017年12月26~27日=シアター1010

【見どころ】
『青空の休暇』

『青空の休暇』

かつて真珠湾攻撃に参戦した3人の男たちが、半世紀ぶりにパールハーバーを見ようとハワイに旅立つ。それぞれに事情を抱えた3人は、現地で50年前に不時着した爆撃機がひそかに保存されていたことを知り、それに乗って再び大空を舞うことを決意。少年のように夢中で機体を修理する彼らの姿は、周囲の人々を驚かせるが……。

辻仁成さんの原作小説を中島淳彦さんの脚本、吉田さとるさんの音楽、鵜山仁さんの演出で劇団イッツフォーリーズがミュージカル化、2011年に初演。駒田一さん、宮川浩さん、井上一馬さんら充実のキャストで、失われた青春を取り戻し、生きる意味を見つけようと奔走する男たちのドラマが、コミカルな中にも切なく、あたたかく描かれそうです。

【主演・駒田一さん、宮川浩さん、井上一馬さんインタビュー】
(左から)井上一馬さん、駒田一さん、宮川浩さん (C)Marino Matsushima

(左から)井上一馬さん、駒田一さん、宮川浩さん (C)Marino Matsushima

――今回、客演される駒田さんと宮川さんにとって、イッツフォーリーズはどんなカンパニーでしょうか?

駒田「僕はもともと(前身の)劇団フォーリーズにいて、当時はまだ(創立者である作曲家の)いずみたくさんが存命中でした。辞めてから20年以上経ちますが、当時の空気を継承している気はしますし、色も変わってない気もします。『ミラクル』という作品でも客演していますが、参加する度に“戻ってきた”という感じがしますね」

宮川「客演って、よその家に行く感じがするものだけど、ここはみんな優しく受け入れて下さるし、居心地がいい。とても素晴らしい劇団だと感じています」

――初演は6年前の2011年。70代のおじいちゃん役ということで、皆さん気構えなどありましたでしょうか?

井上「私はそれまでも70くらいの役はちらほら演じていたけれど、親の世代の役、それも戦争が一つのテーマということもあって、ハードルは高かったですね」

宮川「初演の時には(辻仁成さんの)原作はもちろん、資料にもあたって研究しました。今回また原作を読んで、この台詞はちゃんと言わなくちゃいけないという部分を再認識しています」

駒田「最近は動画サイトもあるから、調べ物もしやすくなりましたよね。ただ、戦争が主なテーマというわけではない、ということは意識してます」

――日米開戦時に若者だった3人が、半世紀経って当時見つからなかったものを見つけようとする物語ですね。

駒田「50年間隠されていた爆撃機に出会ったことで、彼らは理屈でなく、それを飛ばそう、乗ってみようという気になるんです」

宮川「役者の物語にしても成り立つかもしれないね。50年前に役者をやめた男が、もう一度、帝劇に出たいと思う、出られるわけないと誰もが思うけど、やってみないとわからないと言ってチャレンジするとか……。これはまあ、無理だな(笑)」

井上「(笑)。それと、このミュージカルは“命”もテーマになっていて、主人公たちは自分の人生、このままで本当にいいのかなと思っているし、駒田さん演じる白河は家族の命のことで秘密も抱えています。また彼らは半世紀前、自分たちの落とした爆弾が命中して歓喜していたけど、それは自分たちの側の歓喜でしかなかった、という事実もある」
『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

『青空の休暇』過去の舞台より。写真提供:オールスタッフ

――重く深いテーマも含んでいますが、歌やダンスが加わることで、全体的には決して暗い方向には行かないのですね。

駒田「僕の中ではハッピーエンドですね」

宮川「生と死がテーマとは言っても、3人は生を追い求めているので、そこまで重たくはないと思います。それより、自分たちのために何をするかというのが主になってくるかな。彼らは半世紀ぶりにハワイに行って、何かを確かめる。誰のためでもない、自分のために飛ぶ。理屈じゃなく、自分を納得させたいのかなと思いますね」

――理屈でなく、まず行動というのは“男の子”っぽい発想ですね。

宮川「そう、少年なんですよ」

駒田「男のロマンなんですよね。それを微笑ましく見守る女性たちのナンバーもある」

宮川「75歳のおじいちゃんたちなんだけど、秘密基地を作ってる男の子みたいに夢中になっていくんです」

――初演から6年。再演を重ねるうちに“おじいちゃん”が演じやすくなってきたでしょうか?

駒田「ぱっと見は変わらないけど、お互いいろんな経験をしてきましたからね。6年前は“おじいちゃんを演じなくちゃいけない”と意識していたけど、今は等身大でちょうどいいくらいかな、と思っています」

宮川「だって松本幸四郎さんや橋爪功さんなんてね」

駒田「動きは“すたたたた~”だものね(笑)」
『青空の休暇』稽古より。(C)Marino Matsushima

『青空の休暇』稽古より。(C)Marino Matsushima

――共演を重ねる中で、発見する部分もあるかと思いますが、駒田さんから見て宮川さん、井上さんはどんな役者さんですか?

駒田「宮川さんは、こう見えて繊細なんですよ」

宮川「ふふふふふ」

駒田「ちょっと武骨なイメージがあるかもしれないけど、本を書いたり演出をする人で、繊細なものを作るんだな、と長い付き合いの中で感じています。だからこういう感じで芝居をするんだな、と。そういう意味では彼(の本質)を知らない方も多いと思うので、舞台上でそれが引き出せるよう、考えていますよ。

一馬は自分でも言っているけど、いつもはストイックなところがあるんですよね。でも今回は壁を開こうとしていて、今までとは違うアプローチをしているんだなと感じます。こちらも(共演にあたって)うまくバランスがとれればと思っています」

井上「今度お弁当作ってきてあげようか?(笑)」

駒田「いや、買ってきたものにして(笑)」

――宮川さんから見たお二人は?

宮川「井上さんは今喋っている、そのままの感じの役者さん。僕も武骨と呼ばれてるけど、井上さんも武骨ではあるのかな。劇団の長(おさ)だから気遣いもされる方で、“ごめんね、今日飲みに行けないんだ”と言ってくれるけど別に誘ってないよ、ということもあったりして(笑)。

駒田さんは付き合いも長いし、僕が演出するライブでアルプスの少女ハイジをやってもらったりもしているけど(笑)、器用で、なんでもやってくれます。帝劇ではエンジニアみたいな主役もやるし、サンチョみたいにフォローするような役もやっていて、なんでもできるんだなこの人は、と感じますね。今回の舞台で“お前は何でも立ち向かう男たい”という台詞があるけど、本当にそういう感じ。めげることもあるんだろうけど、なんか前に進んでるな。今、演劇界で一番前に進んでる役者なんじゃないかな……って、いいところを言えばね(笑)」

駒田「もちろん、いいとこばかりじゃないから(笑)」

――では、井上さんから見たお二人は?

井上「以前、駒田さんと共演したとき、“一馬の頭の中はおもちゃ箱をひっくり返したみたいだね”と言ってくれて、彼は適切な評価をしてくれる、人のことを良く見てる人なんだなと思って、その印象は今も変わらないですね。あと、声を(使いすぎて)しゃがれ始めたところからぐっと鳴り(響き)始めて、いい声なんですよ。僕は枯れ始めるととことん枯れますから(笑)。

宮川ちゃんはとにかく歌を歌っているときの太い感じが凄くて、羨ましい。それと、こう見えて、ちょっと間違ったりするとものすごい気にしたりして(繊細で)、そういう二面性が見てて楽しいです」

――話は作品に戻りますが、本作にはいずみたくさんの既成の曲「青春(帰らざる日のために)」が挿入歌として登場します。どんな効果をあげていると感じますか?

駒田「歌詞が作品にぴったりなんですよ。“生まれてきたのは何故さ”って、作品に当て書きしたような感じだよね」

宮川「“青春”と言う言葉も出てきて、“青春”って最近は使われない言葉だけど、それが恥ずかしげもなく歌われていて、この作品にしっくり来てる。僕ら(が演じる)じじいたちが歌うことに意味が出て来るんですよね」

駒田「メロディの良さは“世界のいずみたく”ですからね」

宮川「あまりにも有名な曲すぎて、オリジナル・ミュージカルにうまくはまるのかという心配ははじめあったね」

駒田「『われら青春』(中村雅俊主演の74年のテレビドラマ)の主題歌だったんだよね」

宮川「でも、今となっては全然違和感は無いよね。(作品のなかで)何かにつけて歌うし。自分の(体の)中にも入りましたよ」

――この歌の“自分はなぜ生まれて来たのか”であったり、“生きる意味は何だ”ということを主人公たちは追いかけます。そういう問いは皆さんの中にもありますか?

駒田「ありますね。“どうしてこの世界にいるんだろう”というのはしょっちゅう考えます」

井上「初演の頃より、今は考える時間が圧倒的に増えましたね」

――見えて来たものはありますか?

駒田「答えは出ない気がするんですよ。これかなと思っていても、いやもっと違うものがあるんじゃないかと。いろいろな答えが見つかっても、(その先に)もっともっと、もっともっとある気がするから、これでいいやと思うことはないんです」

宮川「抽象的だけど、“どこからきてどこへ行くのか”ということは、ずっと問うて生きてるみたいな感じはしますね」

駒田「(正解は)わからないですよね。でもまだまだ、何かあるんだろうと思ってます。だからこそお芝居をやっていられる。お芝居っていろんなキャラクターできるじゃないですか。宮川が言ってくれたみたいに、いろんな役をやっていきたいし、“僕はこういう役”っていうのはこれっぽっちも思ってなくて、100通りの役があれば、100通りやってみたいんですよ」

井上「そこでいろんな答えが出て来るんだろうね」

駒田「(要は)スケベなんですよ(笑)」

――いえいえ(笑)。では最後に、今回、どんな舞台になるといいなと思われますか?

駒田「ジェットコースターのような作品ではなく、最初は凪と言うか、ふわっと始まって、飛行機を発見するところからだんだん広がって行く作品だと思うんですけど、個々のキャラクターがちゃんと出来ているので、この(主人公)3人を見ながら、自分を当てはめていただいたり、そういう部分で楽しんでいただけたらと思います。深いけれど決して重い作品ではなく、前向きな作品だと思います」

宮川「女性が共感するところもあると思うけど、僕もじいちゃんたちに観てもらって、“もう一度(思い切り)生きてみよう”と、元気になってくれるといいなと。もう70だからとか、余生を生きればいいんじゃないかという人が多いかもしれないけど、“もう一回何かできるんじゃないか”と、奮起して下さる人が増えたらいいなと思いますね」

――女性のミュージカル・ファンはお父さんを誘っていきましょう、と。

井上「そうそう(笑)。とにかく、誰もが観終わって元気になる、それプラス、最近は命を粗末にする人が多い中で、自分の命も誰かの命も大切なんだなとどこかで感じて欲しいなと思いますね。若い人が観た時に、誰もが前を向いて生きてるんだなと」

――おじいちゃん役でもありますし、これからも上演を重ねて、本作がお三方のライフワークになってゆくといいですね。

三人「そうですね(にこり)」

【観劇レポート】
“人生最後の一途な思い”が素直な感動を呼ぶ舞台】

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

筆者はこの日、都内の演劇鑑賞会主催の公演を鑑賞。客席には“大人の男性”が多く、再再演を迎えた本作が既に着実にこの層の支持を得ていることに気づかされます。

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

真珠湾攻撃に参戦した3人の元・兵士たち(白河=駒田一さん、栗城=井上一馬さん、早瀬=宮川浩さん)が、ハワイ行きの飛行機内で語り合う場面から舞台はスタート。戦後半世紀にして初めて、自分たちが爆撃した地を訪れた彼らは、その爆撃で片足を失った元・米軍兵士リチャード(グレッグ・デールさん)に出会う。

互いに複雑な心情を抱きながらも、50年という時がもたらす“和解”を感慨深く噛みしめる彼らは、日系人の庄吉(田上ひろしさん)に案内され、真珠湾攻撃の不時着機を発見。彼らはそれを再びそれを大空に飛ばそうと決意するが……という物語が、シンプルなセットの中で滑らかに、わかりやすく展開してゆきます。白河は頑固者、早瀬はおおらかでムードメイカー、栗城はバランサーと駒田さん、宮川さん、井上さんのキャラクター造型も明確。

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

戦争という重いテーマが先に現れはするものの、次第に浮かび上がる主要テーマは、主人公たちの“生の実感”の探求にほかなりません。戦争に青春を奪われ、欠落感を引きづったまま戦後を生きてきた彼らは、攻撃機の発見を機に、理屈を超えた行動へと駆り立てられる。さらに白河は別の事情も抱えており、自分の生きてきた意味は何か、これからどうやって生きてゆけばいいのかと煩悶します。

彼の人生に関わってきた人々の幻影が現れ、言葉を交わしてゆくなかで、白河の胸中にある強い思いが生まれてゆく様が、重層的なコーラスと白河役・駒田さんの力強い歌唱で巧みに表現。抽象的な心模様を描くにあたり、ミュージカルという手法が非常に生きた場面と言えるでしょう(演出・鵜山仁さん)。

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

『青空の休暇』写真提供:オールスタッフ

人生最後の“一途な思い”に向かって奮闘する男たちと、それを見守る女性たち。カーテンコールでは自然に客席から手拍子が生まれ、場内は何とも言えぬあたたかさに包まれます。老若男女を問わず、観た人誰もが“もう一度頑張ろう”と素直に思えるミュージカルと言えましょう。


松竹ブロードウェイシネマ『ホリデイ・イン

2017年11月10~14日=東劇

【見どころ】
『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

これまでメトロポリタン・オペラの映画館上映が好評を博してきた松竹が、このほど初めてブロードウェイ・ミュージカルを上映。記念すべき第一弾として、ビング・クロスビーとフレッド・アステアが共演した42年のミュージカル映画(邦題は『スイング・ホテル』)を舞台化した、2016年の新作『ホリデイ・イン』が選ばれました。

「ホワイト・クリスマス」等、アーヴィング・バーリンの名曲がふんだんに登場するなかで、三角関係をめぐる騒動を軽快に描いた、華やかな王道ミュージカル。デニス・ジョーンズによる振付は第71回トニー賞にノミネートされており、大ナンバーでは先だって上演された『パジャマ・ゲーム』でも見られた“縄跳び”がお洒落に取り入れられるなど、イマジネーションに溢れ、見逃せません。

【鑑賞レポート】

『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

映像は場内のオーケストラピットからスタート。柔らかな笑顔でタクトを振る若い指揮者のもと、オーケストラが序曲を奏で始めると、まずはその音質の良さに驚かされます。英米の劇場独特の、(おそらくは日本よりも客席がやや丸みをもって舞台を取り囲んでいるが故の)“親密な”音色が、まるで現地にいるような感覚で体験できるのです。

音質の良さはその後も、コネチカットのホテルでショーを上演する主人公役ブライス・ピンカム(『紳士のための愛と殺人の手引き』でトニー賞にノミネート』)の軽やかな美声を引き立たせ、11台のカメラを駆使した映像も、ショー・ナンバーでの女性たちの健康的な色気を増幅。生の舞台鑑賞とはまた違う感覚が味わえます。

『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

『ホリデイ・イン』(C)BroadwayHD/Joan Marcus Photography/松竹

バーリンの作品と言えばやはり映画をもとに数年前に舞台化、日本には2年前に来日した『トップ・ハット』が思い出されますが、そこで使われていた名曲「Easy to dance with」「Cheek to Cheek」は本作にも登場。

アステア・スタイルの気品を端正に再現した『トップ・ハット』に比べ、本作ではより演劇的なアイディアをふんだんに盛り込んだ振り付けとなっています。また基本的なプロットは映画版と同様で、爆竹を使った斬新な振付も再現、映画版ファンを喜ばせるいっぽうで、映画版では主人公たちの恋が何か月にもわたって悠長に進んでいったのに対し、舞台版では短期間に凝縮してテンポよく展開。魅力的な脇役を増やしてお笑い要素も取り入れるなど、“現代のブロードウェイにふさわしい工夫”も興味深い作品です。

*次頁で『In This House~最後の夜、最初の朝~』PV撮影ロケ・独占レポートを掲載します!