どこから見てもMINI……を実現する難しさ
「大きなミニ……」と揶揄するような言葉も耳にしますが、今ではファミリーユースにも対応するクロスオーバーまでもラインアップに加わっているなんて、クラシックMINIの時代には想像すらできなかったことです。多彩なボディバリエーションを誇る現行MINIですが、すべてのモデルに共通点があります。それは「どこから見てもMINIである」という点です。
当たり前じゃないか……と思うかもしれませんが、それは決して簡単なことではありません。そこには開発者たちのMINIブランドに対するプライドと、連綿と紡がれてきた歴史に対する畏敬の念が込められているのです。その背景を知るために、MINIの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
開発者に課せられた厳しい開発要件
MINIが、クラシックMINI、ローバーMINIなど、いろいろな呼び方をされるようになったのは2002年にBMW MINIが登場してからのことです。もともとMINIの誕生は1959年。当時のイギリスは、スエズ動乱による深刻なガソリン不足に悩まされていた時代でした。勢い、自動車メーカーには経済性に富む小型乗用車の開発が求められることになるのですが、BMC(当時イギリス最大の自動車メーカーであったブリティッシュ・モーター・コーポレーション)のサー・レオナード・ロード社長は、
「既存のどんな小型車よりもコンパクトな外形であること。大人4人が乗れる空間を持っていること。十分な巡航速度をと経済性をバランスさせていること。BMCが所有している既存のエンジンを使用すること。もちろん、売れること……」
という厳しい要件の実現をエンジニアに求めました。複数いたエンジニアのうち、この制約をクリアし現実のものとした人こそがMINIの生みの親であるアレックス・イシゴニスだったのです。
独創的なアイディアを満載
イシゴニスが開発したMINIには、それまでの常識を覆すアイディアや技術が満載されていました。まず、イシゴニスが採用した駆動レイアウトはFF(フロントエンジン&フロントドライブ)でした。当時、VWタイプ1(ビートル)をはじめとする小型乗用車はRR(リヤエンジン&リヤドライブ)を採用しているものが多かったのですが、イシゴニスはシトロエン・トラクシオンアヴァンやDKW・F1に搭載されていた当時先進的なメカニズムであるFFに興味を惹かれていたことが理由とされています。FFレイアウトのもつ直進安定性の高さやアンダーステア傾向のコーナリング特性が、安全でありドライビングプレジャーにも通ずると考えたようです。
しかし、トラクシオンアヴァンやDKW・F1のような縦置きエンジンではボディの全長が長くなってしまい、車両の小型化を実現するのが困難になってしまいます。そのリスクを回避するためにはエンジンを横置きにするという手段がありますが、単純に横置きレイアウトにすると全幅が拡大してしまいます。この矛盾をイシゴニスは、ギヤボックスとデフをエンジン直下にレイアウトするという斬新なレイアウトを考案しました。この革命的ともいえるアイディアが「極小のボディに広い室内空間」という相反する要素を実現するための核となったのです。
加えて、車内空間を少しでも広くするために4つの車輪をできるだけボディの四隅に配置。その車輪も、イシゴニス自らタイヤメーカーに開発を依頼した10インチという小径サイズを採用しました。
さらに、室内への干渉が大きいサスペンションシステムにはラバーコーン式を採用するなど、空間効率を徹底して追求しました。ちなみにラバーコーン式サスペンションとは、スプリングの代わりにラバー性のボールを使用したシステムのことです。開発者は、アレックス・モールトン。かの“モールトン・バイシクル”の創設者です。
イシゴニスが生み出したデザインを現代に蘇らせる
こうしてMINIは、相反する要素をバランスさせるためのアイディアと技術を結集することにより、少しコミカルで愛らしく、また機能美に満ちたスタイリングを完成させるに至ったのです。そんなクラシックMINIのDNAを注ぎ込まれた現代のBMW MINI。中身こそ最先端テクノロジーが凝縮されていますが、とくに3ドアモデルはクラシックMINIを彷彿とさせるスタイリングを見事に再現しています。ここには、イシゴニスが苦心の末に完成させた機能美が生かされ、そのデザイン性は60年近くの年月を経た今でも世界中で愛されているのです。今、BMW MINIオーナーの皆さんの多くは、少なからずクラシックMINIに興味があるはずです。街なかですれ違ったときなど、現行MINIに受け継がれているデザイン的なDNAに触れると少し嬉しい気持ちになりませんか。そんな歴史的なエッセンスが今でも明確に受け継がれているモデルは、そう多くはありません。ブランドの歴史に想いを馳せながら、最先端モデルの魅力を味わう。それもMINIの楽しみ方のひとつだと思います。
写真提供:BMW Japan