オーナードリブン気分でファントムを“乗り回す”

ロールスロイスファントム

パルテノン神殿をモチーフとしたフロントグリル、フライングレディーと呼ばれるマスコット、観音開きのドア(コーチドア)が特徴的


超絶スーパーカーたちと違って、ありそうでさほどないのが、ロールスロイスの最上級モデル“ファントム”の試乗記である。

03年に登場したから、もうすでにデビューから10年以上が経っている。そんなタイミングの新車に我々専門ライターが改めて乗ること自体がマレ。けれども、間近で見て何ら古さを感じさせないのは、さすがである。時代を超越する存在であることの証だ(街であまり見かけないから、でもある)。

ジャーナリストやメディア向けのテストカー、いわゆる広報車であるが、丸2日間、ファントムと過ごすことになった。マイナーチェンジ後のモデル(シリーズ2と呼ぶ)に触るのは、実は、今回がはじめて。顔つきが変わったのだけれど、分かるかな? パルテノン神殿グリルは健在だ。

ちなみにお値段、5064万円スタート。

ロールスロイスファントム

試乗したSWBのボディサイズは全長5840mm×全幅1990mm×全高1655mm、ホイールベースは3570mm。EWBは6090mm×1990mm×1655mm、ホイールベース3820mmとなる。価格はSWBが5064万円、EWBが5864万円


ファントムにはSWB(ショートホイールベース)とEWB(エクステンディッドホイールベース)の2ボディタイプが用意されているが、試乗車はSWB(短いといっても、3.6m近くものホイールベースだが)で、漆黒のボディ色が、ファントムのフォーマルな装いをさらに堅苦しくみせている。とてもじゃないけれど、オーナー車には見えないし、どうせならいっそ白い手袋で運転手を装った方が、落ち着いてドライブできそう。

そうなのだ。ファントムといえば、基本的にはショーファードリブン、つまり運転手付きで後席に乗るクルマ、である。とくにEWBはそうだ。けれども、実は、ファントムをオーナードリブンで乗るリッチマンも少なくない。今回は、そんな、ファントムを自分で運転する豪気な方の気持ちになって、乗り回してみた。

ロールスロイスファントム

手に触れる部分にはレザーとウッドの他はクロームのみというゴージャスなインテリア。カーペットには毛足の長いラムウールが用いられている


とにかく、誰にも負けた気分にならない

ロールスロイスファントム

2012年にシリーズ2に進化。バンパーのデザイン変更、フルLEDヘッドライトやバー形状のデイタイムランニングライトが採用されている。駐車や狭い道などで活躍する、5台のカメラを用いたシステムも備わる


久しぶりに運転する。観音開き(コーチドア)は、いかにもロールスらしい。サルーンといっても、ちょっとしたSUVかミニバンくらいの車高で、車内への乗り込みも、“よっこらしょっ”と、思わず言ってしまうほど登って座る感覚だ。

ロールスロイスファントム

最高出力460ps/最大トルク720Nmを発生する6.7リッター直噴V12エンジンを搭載


BMW製6.75リッター12気筒エンジンは、BMW製であることなどまるで感じさせず、実に滑らかに、そして静かに回り出す。のっそりと動き始めて、ブワーンブワーンと何かが耳障りに聞こえてくると思ったら、なんとリア席用のエアコンがオンになっていた。逆にいうと、そんな音が聞こえてしまうほどに静か、というわけ。

さすがにでかい。タクシーや一般車両などは、完全に見下ろしている。ミニバンと並んでも、“高さ”で負けていない。ダンプカーでも、負けている気がしない。いや、バスでも……。それくらいでやめておく。とにかく、誰にも負けた気分にならない。王様。それが、大事。

ロールスロイスファントム

アルプス産の雄牛を用いた最上級のレザーを使用。原革から職人が厳選、レーザーで裁断され手作業により縫い上げられる

ロールスロイスファントム

着座位置をフロントより18mm高く設定されたリアシート。シアターコンフィギュレーションシステムなど快適装備も多数備わる


室内は、意外に狭いと思った。いろんなものが贅沢に厚みをもって作られているからか、外で見た大きさから想像するよりも、随分と狭く感じてしまう。しかも、シートはチェア感覚。姿勢が自然と伸びる。いっそう、運転手サンな気分に。

ロールスロイスファントム

シリーズ2で6ATから8ATへと変更。燃費も複合モードで10%向上している


面白いことに、動かす前には不安なくらい“デカさ”を感じていたが、動かしてしまえば、さほどでもない。デカいデカいと言っても、バスほどじゃない。引っ越しのトラック程度なのだから、たいていの道を進むことができる。そう思えば、気もラク。次第にペースをつかんで、スイスイと走り出す。

パワートレインの反応は、それこそ“必要十分”(むかし、ロールスロイスはパワースペックを必要十分としか公表しなかった)。絶対にリア席を驚かせないように調教=制御されている。ブレーキもそう。急ブレーキなどできない。ガツンと踏んでもふわりと停まる。確実に停まるから文句はない。

中間加速は胸を空くものだった。速度のノリが心地いい。この巨体ゆえ、体感加速はかなりのものだけれども、実際に出ている速度はさほどではなかった。

ロールスロイスに乗ることは、最高の安全を確保するということ

ロールスロイスファントム

軽量のアルミニウム製スペースフレームはシリーズ2でさらに強化。固めのサスペンションやギアやブレーキのチューンを行ったダイナミック・パッケージも用意されている


それにしても、まわりに対するアピールは絶大だ。むやみに近づこうとするおっちょこちょいなど居ない。パーソナルゾーンへの侵入がないというだけでも、安心してドライブできる。事故に遭わずに済むという安心感も大きい。なるほど、お金持ちが命を預けるクルマとして、これほど安全なものはない。

要するに、ロールスロイスに乗るということは、高いお金を出して、最高の安全を確保するということなのだと、改めて知った。見栄や酔狂で乗るわけじゃないのだ。

ロールスロイスファントム

ホイールセンターに飾られたロールスロイスのモノグラムは、走行時にも常に正位置を保つ


そう考えると、ファントムをオーナードリブンで、という考え方も分かる。リアはもちろん、フロントに座っても安全なのだから、この大きさに困らないビバリーヒルズのような日常生活を日本でも送ることができるというのであれば、毎日のアシに使って最高というわけだ。

実際、ファントムと過ごした一日は、とても安楽だった。高いクルマを自分で動かしているという緊張感さえ解ければ、これほど気持ちよくドライブできる“乗用車”は他にない。

ロールスロイスファントム

1台のロールスロイスは30人の熟練した職人の手により450時間以上かけ作られる。グッドウッドの本社工場には工業用ロボットは塗装工程の2台のみ

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