夜神月役・柿澤勇人インタビュー
「日本人特有の“消極的な高校生”が変貌し、
破滅してゆく様を
演劇的に表現したい」
柿澤勇人 神奈川県出身。2007年に劇団四季に入団、『ライオンキング』『春のめざめ』等で主演を務めた後退団、『スリル・ミー』『海辺のカフカ』『ラディアント・ベイビー』等の舞台の他、TVドラマや映画などでも活躍中。(C)Marino Matsushima
「大ファンとまではいかないけれど、日本を席巻したエンタテインメント作品だなあと思って原作や映画版を観てきました。当時は僕がやることになるなんて思ってもいなかったし、ミュージカルになると聞いた時にはびっくりしましたね」
――漫画が原作ということで“2.5次元ミュージカル”にカテゴライズする方もいらっしゃるかと思いますが、夜神月を演じるにあたって、原作のキャラクターに“寄せる”ということはどの程度意識されていますか?
「僕はこの作品は、ある意味“2.5次元”ではなくて芝居の一つだと思っています。ミュージカル自体が(台)本に即した演劇だと思っていて、歌も歌というより台詞の延長線上で歌うものが僕の認識なので、もちろん漫画の衣裳だったり髪型に寄せるというのも大事な部分だけど、それよりも夜神月とはどういう人間なのか。何を思って、どうやって階段をのぼっていくのか。そういった内面的な部分を、初演の時には栗山さんと本当に細かく作っていきました」
――オリジナル・ミュージカルということで初演の時にはいろいろと“生みの苦しみ”がありましたか?
「まず、ワイルドホーンの曲がすごくキーが高い上に、終盤に発狂してものすごい声(量)を使うんです。体力的にも精神的にもけっこうきついものがあって、初演が終わった時にはへろへろでした。発狂というのは、自分が(遂にLを倒して)世界の神になったと思ったのに、リュークによってデスノートに名前を書かれ、鼻を折られてからのことです。余命があと40秒間だと分かった時の精神状態だから、実際そういう状態になったことはないけど、イメージするとたぶん言葉じゃ言い表せないような“発狂”ですよね。暴れてのたうちまわって人間らしく死ななくちゃいけない。けれど(俳優としては)喉をつぶすわけにもいかない。そのバランスをとるのが初演はすごく難しかったです。
でも初演から2年間経って、先日の富山公演ではある意味冷静にもできたし楽しめるようになって、(L役の小池)徹平(さん)との心理戦も富山ではすごく楽しかった。(演出の)栗山(民也)さんとも話してたんですけど、初演の時には、初演作品に特有の、みんなが成功に向かって一致団結したことで生まれるエネルギーである意味、押し切ってた部分があったと思います。でも今回は再演ということで、もっと細かいディテールにこだわって深めていけたらいいなあと思っています」
――本作のプロット自体はシンプルなものですが、栗山さんはそれを演劇としてどのように見せようとしていらっしゃるでしょうか?
『デスノート』2015年公演より。写真提供:ホリプロ
――その中で、夜神月はどんな人物でしょうか?
『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ
――でもデスノートを拾ってまもなくたくさん名前を書いていて、リュークがびっくりしているくだりもありましたよね。あれは正義感によるものでしょうか?
「そうですね。『デスノート』というテーマ曲を歌う間に、時間も場所も変わっていって、10何人も殺しているんですよね。初演の時には一気に書いていたんですけど、あまりにも急なので、再演では一人書いて、ちょっと時間がたって、確認して、(ここに名前を書くと)本当に死ぬんだ、それならもっと書こう、もっと書こうという段取りにというマイナーチェンジはしていますね。一曲の中でスピード感溢れる展開になっていると思います」
――再演にあたって新たに加えた要素などはありますか?
「台詞も若干変わりましたが、一番変わったのは月の家族の描写ですね。劇中にはお父さんと妹しか出てこないけど、再演では台詞の中でお母さんに言及して、より普通の家族像を描くことで、悲しさを出しています。普通の家族の一員として生活しながら、月はノートで大量殺人を犯しているというギャップを出そうということでの変更ですね。観てる人によっては、食事しながらこの人は殺人を考えてるのかなとか、お父さんはキラを追ってるけどすぐ目の前にいるじゃないかという怖さ、面白さがあるんじゃないかと思います」
――浦井健治さん演じる月も御覧になっていますか?
「健ちゃんは彼自身も言っていたけど、ビジュアルも含めて漫画に寄せるということにすごくこだわりがある気がします。原作ファンを悲しませたくないという思いがあるのかなと感じますね。僕も原作ファンを裏切るつもりはないけれど、これは演劇の『デスノート』なので、演劇の夜神月を作りたい。そこが違うのかな、と思います」
――歌うには馬力が要ると言われるワイルドホーンの音楽はいかがですか?
「初演の時は本当にへとへとになりましたが、この2年間、僕も舞台を何本かやってるので、それでついた体力というか歌に対する筋力はついてきたと思うので、すごく楽しんでというか、初演の時よりかは自由に声を操れるようになってきたかと思います。それでもやっぱりハードで、体全体を使わないといけないキーばっかりなんですけれどね」
――柿澤さんのひいおじいさまは清元界の伝説的な存在・清元志寿太夫さん、お父様は清元榮三郎さんですが、テーマ曲のサビの部分など、ちょっと長唄や清元を思わせるオリエンタルな旋律に感じませんか?
「その指摘は初めていただきましたけど、確かに日本人になじみやすい旋律かもしれないですね。歌っていても日本語をはめやすい、違和感のないメロディです」
――再演の口火を切った富山公演はいかがでしたか?
「凄く盛り上がりました。集中して観てくださっている空気感で、手ごたえはありましたし、いい初日でしたね。あの感覚で集中力を切らさず、また大阪、東京公演につなげたいなと思います」
――初演を御覧になった方に対して、今回はこういう面白さがありますよと言うとしたら?
「一部のキャストが替わったことで、確実に空気感は違っています。リュークに関しては、初演の吉田鋼太郎さんはすごく自由で、思いのままに芝居をされる方なので、ある意味コミカルにも見える時もありましたけど、今回のカズさん(石井一孝さん)は本当に真摯にリュークに向き合っていて、何も遊ばず、すごく怖くて締まる。緩む瞬間があまりないことで、この作品の主役はある意味リュークなんだと強く感じられるんです。リュークの手のひらの中で僕たち人間が踊らされてる、という構図を、カズさんが浮き彫りにしているというか。手のひらの人が変われば作品は変わるので、そこは面白いと思います。
父親役の別所(哲也)さんは鹿賀(丈史)さんとは年代が違うということもあって、本当にどこにでもいそうな父親像が、月との会話の中で見えてきます。鹿賀さんは僕から見ると本当に尊敬するお父さんという感じでしたが、今回は親近感を覚えるお父さん像。妹役(高橋果鈴さん ※高は梯子高)も今回は小柄でかわいい、新たな妹像で、それぞれに変化が楽しめるんじゃないかと思いますね」
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*次頁でL役・小池徹平さんインタビューをお送りします!