夜神月役・浦井健治さんインタビュー
「世界がめまぐるしく変わってゆく中で、
2017年の『デスノート』はとても“怖い”
仕上がりになっていると思います」

浦井健治undefined東京都出身。2000年に『仮面ライダークウガ』でデビューし、04年『エリザベート』以降、『アルジャーノンに花束を』『ヘンリー四世』第一部・第二部をはじめ数々の話題作に出演。第67回芸術選奨新人賞など様々な演劇賞を受賞している。(C)Marino Matsushima

浦井健治 東京都出身。2000年に『仮面ライダークウガ』でデビューし、04年『エリザベート』以降、『アルジャーノンに花束を』『ヘンリー四世』第一部・第二部をはじめ数々の話題作に出演。第67回芸術選奨新人賞など様々な演劇賞を受賞している。(C)Marino Matsushima

――浦井さんは原作漫画への思い入れがひとしおだそうですね。

「はい、原作の夜神月を“崇拝”していると言っていいくらいの大ファンなので、初演の時にはこの役をやらせていただくことが凄く光栄に思えましたし、同時に世界で愛されている夜神月という役を演じることの重圧をすごく感じました。演じるにあたっては、アニメで宮野マモちゃん(宮野真守さん)の演じた夜神月のイメージが僕の中で大きかったので、そのイメージにひきずられる感は強かったですね。そこを忠実にやるということはもちろん、声の出し方、たたずまい、癖などいろいろ吟味して(演出の)栗山(民也)さんと作ったつもりです。

それから2年が経って、自分だけでなく日本という国も変化していく中で再演にあたって感じたのが、フィクションなのに台詞に現実味があって、リアルな感触があるんですね。他人事ではないなというか、時代を映す鏡というか、『デスノート』の世界にはものすごくリアリティがあるぞと。もちろん“デスノート”なんて言うものは存在しないのだけど、何が正義なのか、それに対峙するためにいろんな人がいろんな思いを持っていて、人として一番大切なものは何か、といったことを考えさせるような、演劇的な作品になったのだなあと、この役を通して感じています」

――この2年間での日本の変化というと、例えば……?

「日本で生活していると、皆が常に携帯に向き合っていて、いろんな情報がものすごい速度で入ってくる。何十年か前には考えられなかったような景色がひろがっているじゃないですか。僕らが置かれている状況が危険なのだろうなということは、いやがおうでも感じざるをえなくて、そんな中で自分が何を信じ、どう生きていけばいいんだろうかというのは誰もが漠然と考えていると思うんです。そういう意味で『デスノート』にはすごくリアリティがあると思います。夜神月は新世界を、平和な世界を創造したいと、自分勝手な思いから作られた神の領域に達してしまったがために崩壊していくという(突拍子もない)物語ではありますが、そのとっかかりにはものすごくリアリティがあるなと思います」

――はじめは純粋な正義感から行動し始めた夜神月が、次第に変わってゆくのはなぜだと考えていらっしゃいますか?
『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ

『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ

「僕の解釈では、月自身は、きっと変わってはいないんだろうと思います。やるべきことを遂行していくなかで、Lの台詞にもありますけど、月の負けず嫌いであるとか、完璧主義、プライドといったもののために暴走してゆくのですが、それは正義感ゆえの暴走であったり、天才対天才の心理戦の中での高揚感であったりというのが一つの要因であったのかなとは思います」

――神の領域に達した、という快感は彼の中にあったのでしょうか?

「どうなのでしょうか。再演にあたっては、快感ということは全く考えなくなりました。月は自分がしなければという使命感から正義をふりかざし、デスノートを使っての殺人を行ってゆくけれど、Lたちから言わせればただの殺人鬼。人間としては罰せられるべき存在です。だけど、そんな彼が、最後にリュークに自分の名前を書かれたときには、きっと最初と同じ景色を見ていたのではないかなと。新世界を作りたいという純粋な思いが。そんな夜神月を作っていけたらと思っています」

――ノートに名前を書かれたことで、その思いが達せられないじゃないかと抗議しながら死んでゆく……という感じでしょうか?

「きっと月のなかでは、自分の中で答えは出ていないながらも、世間に対して牙を向いて、若気の至りと言われるかもしれないけど、信じた正義を貫こうとした若者が描かれているとするならば、リュークという死神にとりつかれて、デスノートを拾った時から、実はセコンドの音が聞こえているような夜神月を作っていけたら。生き急いだというか、本当なら父、妹、そしてミュージカル版では登場しない母にとっての理想の息子、普通の青年が巻き起こしてしまった悲劇を演劇的に描ければ、誰しもに起こりうるかもしれない、人間味のあるデスノートの世界を作れるのではないかなと思っています」

――本作は漫画が原作ですのでいわゆる“2.5次元”ジャンルにカテゴライズすることもできるかと思いますが、“2.5次元ミュージカル”では演じ手が“キャラクターに寄せる”ことも多いといいます。
『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ

『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ

「これまで日本では映画版、TV版、アニメ版があって、舞台でも浦井バージョン、カッキ―(柿澤勇人さん)バージョンがあって、今度はハリウッドでも夜神月が登場と様々な夜神月がいますが、栗山さんは“日本の社会が抱えている闇を浮き彫りにするような演劇を作る”ということを旗印にされていて、夜神月については“ごく当たり前の学生”というのが基本となっています。僕自身は、かなり原作に寄せようと思ってやっていますが、栗山さんは、デスノートには40秒の縛り(そこに名前を書かれると40秒後に必ず死ぬ)といったルールがいっぱいあるけれど、原作を読んでいないとそういう部分は分かりにくい。本作はあくまで、普通の青年がデスノートというトリッキーなアイテムを拾って、紆余曲折があって最後に崩壊して死ぬというロマンを描くんだ、とおっしゃっていて。僕はあまりにも原作が大好きで自ら2.5次元に飛び込んでいっているかもしれませんが、でも“2.5次元”と言う言葉は世間が作ったものであって、『デスノート』をそこにカテゴライズするかどうかはお客様のすること。『デスノート』が2.5次元であるとすれば2.5次元だし、演劇だと思えば演劇、と思ってもらえるような、懐の深い作品になることが、栗山さんの目指しているものなのかな、というのは肌で感じています。

もう一つ、ちょっと個人的な思いを言うと、2.5次元だからこそというか、『デスノート』、『NARUTO』『セーラームーン』と、原作が世界で愛されている作品は世界で公演できるということの凄さを、今回、台湾公演が実現したことで感じています。日本のカルチャーの中でも漫画の威力は半端ないですね」

――今回の再演ではキャストも多少替わっていますが、前回と最も変わったのはどの部分でしょうか?

「もちろんキャストも変わりましたが、何より、栗山さんが変わりました。初演は立ち上げていく過程自体に圧倒的な熱力があって、ワイルドホーンさんと栗山さんがディスカッションし、楽曲も我々の声に合わせてアレンジして……という贅沢な時間を経て開幕しました。それから栗山さんは韓国版の『デスノート』を2度演出されていて、今回は4度目ということで、解釈が深くなっているし、我々に対して求めているもののハードルも高くなっています。それとソリッドというか、そぎ落として無駄なものがなくなっているのが明らかなので、この再演はとても“怖い”です。人間の機微とか、正義感や義務や家族愛、天才と天才のせめぎあいや死神の存在といったものが描かれているけど、何より2017年の日本を感じることができる。そういう意味ではとても演劇的になっていると思います」

――初演では、吉田鋼太郎さんの演じるリュークが強烈でした。石井一孝さんが演じる今回はいかがでしょう?

「お二人の個性が違うので、圧倒的に見え方が変わるんじゃないかと思います。リュークは暇つぶしとして人間を利用しているだけだという、その残酷さはそのままに、よりチャーミングな部分が見えたりと。グラフィック的にはカズさん(石井一孝さん)のリュークは原画にものすごく似ていらっしゃるので、原作ファンの方にはたまらないかもしれません。どちらも素敵なリュークです」

――近年の浦井さんはストレートプレイとミュージカルをいいバランスで演じていらっしゃいますね。

「僕は今年に関して言うと、『ビッグ・フィッシュ』『王家の紋章』『デスノート』とミュージカルが続いていて、ストレートプレイは年末の『ペール・ギュント』だけですが、同世代の仲間たちが、小劇場に新劇、映像など、ジャンルを超えた活躍をするなかで、ストレートプレイとミュージカルの垣根が飛び越えやすくなっているし、それだけミュージカルも注目されるジャンルになってきているんだなと感じています。“2.5次元ミュージカル”も含めて、一般の方も劇場に足を運びやすい流れが社会全体でできていますよね」

――ストレートプレイとミュージカル、どちらのジャンルでもひっぱりだこの理由として、稽古中に、演出家さんから浦井さんのこういう面が求められていたのだなと感じることはありますか?

「それは作品によって毎回違います。浦井がこうだから……というのではなく、板の上に立つ者に対して真摯に向き合う演出家のかたと、ゼロから作っていくことが多いです」

――様々なリクエストに応じられる、ということなのかもしれませんね。

「それを自分で分析することは難しいです。作品ごとに、先輩、後輩、スタッフさんら、一緒に歩んできた方々と触れ合うなかで、学ぶことしかなくて、それが自分を作っていると言ってもいい。自分の人生さえも豊かにしてくれるような出会いしかなくて。なぜ演劇をやっているのかというと、実はそれが楽しいからでもあります。そしてお客様がいつも僕らの舞台を楽しんでくださって、それによって自分もそこで癒される、ということに尽きると今は思っています」

――人が好き、“人ファースト”な方なのですね。

「はい(微笑みながら頷く)」

*(参考記事 浦井健治さんへの2014年のインタビューはこちら

*次頁で月役(wキャスト)・柿澤勇人さんインタビューをお送りします!