ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2017年7~8月の注目!ミュージカル(4ページ目)

この夏は華やかな歴史ロマン『魔都夜曲』やロック・ミュージカルの傑作『RENT』に加え、『アンデルセン』『ひめゆり』『ピーターパン』『にんじん』と、子供と一緒に楽しめる演目が大豊作。開幕後は随時観劇レポートもアップしますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

にんじん

8月1~27日=新橋演舞場、9月1~10日=松竹座

【見どころ】
『にんじん』

『にんじん』

家族に愛されず屈折しながらも懸命に生きる少年を描いた、フランスの小説を舞台化。79年に初演された音楽劇が、久々に上演されます。当時22歳で主演をつとめた大竹しのぶさんが、ご自身の希望により、38年の歳月を経て再び“にんじん”少年役にチャレンジ。先日の製作発表開始前にはその初演での大竹さんの歌声が流れましたが、山本直純さん作曲のメロディには文部省唱歌のような親しみやすさがあり、大竹さんも「今回再演のことを話したら、38年前に一度しか観ていない家族がすぐに劇中歌を歌い出したほど、山本さんのメロディが優しく覚えやすく、胸に響くのです。私自身、当時は舞台だけでは歌い足りなくて、帰宅後に家で歌っていたほど(好きでした)」と、久しぶりの歌唱を楽しみにしているそう。
『にんじん』製作発表での大竹しのぶさん

『にんじん』製作発表での大竹しのぶさん

「“にんじん”は寂しい、愛されたいと(劇中)叫び続けますが、最後に、みんな一人ぼっちなんだ、それでも頑張って生きていくんだと思いを新たにする。当時と同じように、今回も愛を求めて叫びたいです」と語っていました。積み重ねて来られたキャリアが再びの“少年”役にどう生きるか、観る側としても楽しみな舞台です。

【観劇レポート
“光”を効果的に使い分けたリアルな演出で
“誰にも愛されない少年”が
愛を求め、叫ぶ】

『にんじん』(C)松竹

『にんじん』(C)松竹

幕が上がると、そこはフランスの小さな村。人々が牧歌的な生活を楽しげに歌う中で、花道からとぼとぼと現れた少年“にんじん”(大竹しのぶさん)は、姉(秋元才加さん)の手にネズミの死体を乗せ、彼女がキャーと叫ぶ様子に悦に入るも、すぐに母親(キムラ緑子さん)に雑用を言いつけられます。本当は父(宇梶剛士さん)の狩りのおともをしたかったのに、母の視線を感じて「行きたくなくなった」と言わざるをえない“にんじん”。本名の“フランソワ”とは呼ばれず、誰からも愛されないこの少年を、大竹しのぶさんはぐっと顎を引き、悔しさを噛みしめるように全身に力を込め、演じます。
『にんじん』(C)松竹

『にんじん』(C)松竹

ふだんは無視され、何か事件が起これば自分のせいにされる。母親役・キムラさんの始終イラついた様子、妻の前では毅然とした物言いが出来ない父役・宇梶さんの決まりの悪さ、兄役・中山優馬さんの“自分はこんな小さな村に相応しくない”という違和感によるワルっぷりが束となり、にんじんは遂に自殺未遂を図るほど追い詰められてゆく……。山本直純さんによる易しく、口ずさみやすいメロディと、唯一“にんじん”をなぐさめる“名付け親”役・今井清隆さんのおおらかさ、そして最近、この家にやってきた女中アネット役・真琴つばささんのマイペースぶりが救いですが、栗山民也さんの容赦ないリアルな演出、明暗を効果的に使い分ける服部基さんの照明は、一般的なファミリー・ミュージカルのイメージからは程遠い、“大人”の舞台に大きく貢献しています。大竹さんが魂を込めて歌い演じる少年が、つらく、出口の見えない日々の彼方に何を見出すのか……。近くの客席では、ご高齢の女性までもがかたずをのみ、歌声の一言一句を噛みしめるように耳を傾けていました。




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