ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2017年7~8月の注目!ミュージカル(2ページ目)

この夏は華やかな歴史ロマン『魔都夜曲』やロック・ミュージカルの傑作『RENT』に加え、『アンデルセン』『ひめゆり』『ピーターパン』『にんじん』と、子供と一緒に楽しめる演目が大豊作。開幕後は随時観劇レポートもアップしますので、どうぞお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


RENT

7月2日~8月6日=シアタークリエ、8月10日=愛知県芸術劇場 大ホール、8月17~22日=森ノ宮ピロティホール、8月26~27日=福岡市民会館

【見どころ】
『RENT』

『RENT』

96年、作者ジョナサン・ラーソンがプレビュー前日に逝去という衝撃的なニュースとともに開幕、たちまち小劇場からブロードウェイへと場を移し、90年代を代表するミュージカルとなった『RENT』。日本でも上演を繰り返し、熱狂的なファンを持つ本作が、2年ぶりにシアタークリエに戻ってきます。病魔に侵され、貧しさに震えながらも“過去でも、未来でもない、今”を力の限り生き、愛し合う。そんな若者たちの姿が世代を問わず、胸を打つ舞台に今回挑むのは、前回に引き続きマーク役の村井良大さん、ロジャー役の堂珍嘉邦さん、ユナクさん、ミミ役のジェニファーさんら前回からの続投メンバーに加え、ミミ役の青野紗穂さんら新キャスト。どんな化学反応が起こるか、注目の最新版です。

【観劇レポート
時代の枠を超え、リアルに
“今、この一分一秒”を生ききる
若者たちの群像劇】

『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』(C)Marino Matsushima

AIDS(エイズ)というワードが“絶望”を想起させる時代に生まれた『RENT』。その上演においては長らく、この”圧倒的時代感”の中で“今をどう生きるか”が問いかけられてきました。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』マーク(村井良大)(C)Marino Matsushima

しかし時を経て2015年、前回の日本公演では、作品のスピリットは継承しつつもより“普遍的な人間ドラマ”としての真価が現れ(演出:リ・ステージ=アンディ・セニョールJr.さん)、今回の最新版も、さらにリアルな青春群像が立ち現れる舞台となっています。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』ロジャー(ユナク)(C)Marino Matsushima

NYのイーストヴィレッジで、家賃(レント)が払えず、電気や暖房を止められてもなお、映像作家を夢見る青年マーク。ルームメイトのロジャーを始め、そこでの仲間たちの多くは貧しく、HIVポジティブ(HIV感染者)でもあるが、自由でクリエイティブな生活の中でそれぞれに愛を育む。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』ミミ(青野紗穂)(C)Marino Matsushima

自分が生きた証を残すことを切に願うミュージシャンのロジャーと、今この時を謳歌しようとするダンサー、ミミの不器用な愛。暴漢に襲われたコリンズと彼を介抱したエンジェルの、穏やかな無償の愛。そして奔放なバイセクシャルのモーリーンと彼女に翻弄されるレズビアン、ジョアンヌの、喧嘩の絶えない激しい愛。それぞれの愛が交錯しつつ確かな“生”の軌跡を描くさまを、マークはカメラ片手につぶさに見守る……。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』エンジェル(平間壮一)(C)Marino Matsushima

前回公演からの続投キャストと新規参加組が混在し、新たな息吹がもたらされた今回、舞台上の人物像はさらに深化。中でも出色なのが、泰然と構えながらも、内面では“自分だけが取り残されてゆく”ことに焦燥を抱くマークを、稀有なナチュラル感で演じる村井良大さん。そして傷ついたコリンズや言い合いをする仲間たちに対して、はにかみながらも優しく接し、無償の愛を体現するエンジェル役の平間壮一さんです。二人の明確な人物像が、“青春ドラマ”であり“愛”のドラマとしての本作の骨格に大きく貢献していると言えましょう。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』(C)Marino Matsushima

またロジャー役の堂珍嘉邦さんは、魅力的な歌声とまるで“体の一部”であるかのようなギターの扱いがロジャーそのものであるのに対して、同役のユナクさんはミミに言い寄られても氷のように心を閉ざす“孤高の人”像が美しく、終盤、力尽きた(と見える)ミミを抱きしめるくだりでは、背中のシルエットに哀しみを凝縮。ミミ役のジェニファーさんはパワフルかつ惜しみなくミミの内面をさらけ出し、青野紗穂さんは19歳のミミのティーンならではの強気を漲らせます。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』右・ロジャー(ユナク)(C)Marino Matsushima

コリンズ役の光永泰一朗さんは抜群の安定感で喜怒哀楽を細やかに歌い、もう一人のエンジェル役・丘山晴己さんは積極的で茶目っ気があり、「Today for you」でははっとするような身のこなしを披露。マークの元・恋人でもあるモーリーン役は上木彩矢さんがシャープさと勢いを見せるのに対して、紗羅マリーさんはPOPな空気感。そんなモーリーンに振り回されながらも彼女を愛さずにはいられないジョアンヌ役の宮本美季さんは、特に中低音の歌声が小気味よく、エリートの知性をうまく醸し出します。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』左・コリンズ(光永泰一朗)、右・ロジャー(堂珍嘉邦)(C)Marino Matsushima

そして裕福な娘と結婚し“大家”となったことで皆に“裏切り者”扱いされるベニー役のNALAWさんは、彼なりの正義を明朗な歌声と堂々としたたたずまいで好演。本作のテーマ曲とも言える「Seasons of Love」でソロを歌うMARUさんや場面が変わる度に「Christmas Bells are ringing……」と皮肉たっぷりに歌う岡本悠紀さんはじめ、アンサンブルの皆さんも確かな存在感を見せています。
『RENT』(C)Marino Matsushima

『RENT』エンジェル(丘山晴己)(C)Marino Matsushima

全編これ名曲といっても過言ではない本作、観る方によってハイライトはそれぞれかと思われますが、決して派手さはないもののじっくりと見守りたいシーンが、1幕中盤。外出したエンジェルとコリンズ、そしてマークが小さな事件に遭遇し、気を取り直そうとコリンズが夢を語る「Santa Fe」以降のくだりです。おそらくは叶うこともないだろう夢を楽しげに語る彼に、エンジェルは愛を告げ、中古のコートをプレゼントする。歌と仕草で進行するそのやりとりに、ドラマティックな要素はありませんが、互いへの思いやりに溢れ、ささやかな日常の幸福に光を照らすかのよう。キャストの好演によって、その後の悲劇的展開と対を成す、さりげなくも忘れ難いシーンとなっています。

ひめゆり

7月13~18日=THEATRE 1010

【見どころ】
『ひめゆり』

『ひめゆり』

第二次大戦末期の史実に基づく、ミュージカル座渾身の代表作が今年も上演。沖縄で戦争に巻き込まれた“ひめゆり学徒隊”のエピソードの数々を、丁寧に描きます。主人公のキミは昨年に引き続き、はいだしょうこさん。“歌のお姉さん”として多くのファンを持つはいださんですが、「私が出演することで戦争の真実に興味を持っていただけたら」と、真摯に取り組んでいらっしゃいます。ほか、キミが憧れる上原婦長役に木村花代さん、戦争の地獄を見てきた檜山上等兵役に中井智彦さん、冷酷なまでに現地の人々を統率しようとする滝軍曹役に小野田龍之介さん。実力派のキャストが戦争を体験したことのない世代に、その悲惨さをリアルに伝えてくれそうです。

【観劇ミニ・レポ―ト】
『ひめゆり』写真提供:ミュージカル座

『ひめゆり』キミ(はいだしょうこ)、檜山上等兵(中井智彦) 写真提供:ミュージカル座

第二次大戦末期、人々が次々に戦争に駆り出される中で、故郷沖縄の行く末を案じる女学生キミは、ひめゆり学徒隊の一人として陸軍病院に赴任する。薬も器具も満足に無い状況に愕然としつつも、少女たちは懸命に負傷兵たちを看護するも、米軍の攻撃が激化。病院をあとにした彼女たちの前には、過酷な運命が立ちはだかる……。
『ひめゆり』写真提供:ミュージカル座

『ひめゆり』滝軍曹(小野田龍之介) 写真提供:ミュージカル座

ポジティブな見通しの全く無い極限状態で、人間はどう行動するのか。強圧的に人々を支配する軍人がいるいっぽうで、少女たちに敢えて将来の夢を語らせ、希望を持たせようとする婦長も、悲惨な戦場体験によって生きる気力を失い、自らに銃を向ける兵もいる。(滝軍曹を演じる小野田龍之介さんは誤った信念というより狂気に駆られて行動して見え、婦長役の木村花代さんは毅然とした佇まいと歌声に説得力。檜山上等兵役の中井智彦さんは泥にまみれてきた風情が歌声にもよく表れています)。彼らと関わり、何度も死と隣り合わせになる中で、キミの中にふつふつと現れる「生」の実感。このキミのテーマ「生きている」を、はいだしょうこさんが透明感と芯のある歌声で力強く歌い上げ、現代の観客に「生きているということの、なんと奇跡的なことか」を痛感させます。
『ひめゆり』写真提供:ミュージカル座

『ひめゆり』上原婦長(木村花代) 写真提供:ミュージカル座

実際に起こったエピソードを数多く盛り込んだ“重い”作品ながら、芝居を音楽の中で展開させる“ポップ・オペラ”形式によって3時間、はらはらさせ通しの本作。筆者の鑑賞日にも中学生の団体が訪れていましたが、カンパニーの隅々にまで真摯な思いがゆきわたった本作は、戦争の現実に思いを馳せるための最適な教材、と言えるかもしれません。

*次頁で『アンデルセン』ほかの作品をご紹介します!
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