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シェーンブルン宮殿:オーストリア・バロックの最高峰

フランス・ブルボン家のベルサイユ宮殿に対抗して、オーストリア・ハプスブルク家が贅と粋を尽くした夏の離宮シェーンブルン宮殿。バロック、ロココの装飾が美しいだけでなく、動物園や植物園からクラシックコンサート、オーストリア料理、宮殿ホテル(宿泊)まで、さまざまなアトラクションで観光客を魅了する。今回は世界遺産「シェーンブルン宮殿と庭園群」の見所・歴史・アクセスや観光情報を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

絶対に負けられない戦い、ブルボン家VSハプスブルク家

世界遺産「シェーンブルン宮殿と庭園群」

世界遺産「シェーンブルン宮殿と庭園群」の宮殿本館と庭園グレート・パルテール

15~18世紀、フランスとオーストリアは互いに「宿敵」として激しい対立関係にあった。特にルイ13~15世を輩出するフランス・ブルボン家と、神聖ローマ皇帝を独占するオーストリア・ハプスブルク家は、西ヨーロッパの覇権を巡って激しくしのぎを削っていた。

17世紀にルイ14世がベルサイユ宮殿を建築して世界の度肝を抜くと、ハプスブルク家のレオポルド1世やマリア・テレジアはシェーンブルン宮殿を建設・改修して対抗した。

どちらも巨大で豪華な宮殿だが、実際その場に立ってみると印象はかなり違う。ベルサイユ宮殿は重厚・豪壮で圧倒的な威圧感を受けるのに対して、シェーンブルン宮殿は軽快・優美でどこか人なつこい温かみを感じさせる。

シェーンブルン宮殿(Googleマップ)

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母マリア・テレジアとシェーンブルン宮殿のぬくもり

ネプチューンの泉と凱旋門グロリエッテ

庭園から見たネプチューンの泉と凱旋門グロリエッテ ©HeinzLW

ベルサイユ宮殿の男性的な豪壮さは「太陽王」ルイ14世に、シェーンブルン宮殿の女性的な優美さは「女帝」マリア・テレジアに由来するものなのかもしれない。「朕は国家なり」「私の中には太陽が宿っている」と神のように振る舞うルイ14世に対し、マリア・テレジアの人生は苦難の連続ながら人間味あるエピソードにあふれている。

マリア・テレジアは6歳のとき15歳のフランツ・シュテファン(のちの神聖ローマ皇帝フランツ1世)に出会って恋に落ち、自由恋愛のすえ18歳で結婚。ふたりの仲はむつまじく、16人の子を授かった。
グロリエッテ

プロイセンと戦った七年戦争・コリンの戦いにおける戦勝を記念したグロリエッテ ©Gugerell

シェーンブルンは「美しい泉」の意味。もともと宮殿のある場所はウィーン川が流れる王の狩猟場で、緑あふれる土地だった。自然を征服して造られたベルサイユ宮殿に対し、シェーンブルン宮殿は川の畔で丘を囲み、自然を取り入れて設計された。子供たちをこんな環境で育てたい――。そんな思いが込められているのだろう。宮殿にはロココの調度品と一緒に子供たちの肖像画や娘と一緒に作った手作りの刺繍なども飾られている。母マリア・テレジアの温かさがそこかしこから伝わってくる。

そしてマリア・テレジアは初恋の人フランツ1世が1765年に亡くなると、1780年に亡くなるまで喪服ですごし、ルイ16世の王妃となったマリー・アントワネットの身を死の直前まで案じていたという(マリー・アントワネットは1789年にフランス革命で処刑される)。

ウィーン・ロココの最高峰シェーンブルン宮殿の装飾

グローセ・ギャラリー

「会議は踊る、されど進まず」で知られる1814~15年のウィーン会議の舞台グローセ・ギャラリー。白と金のロココの空間が特徴的 ©Ralf Roletschek

シェーンブルン宮殿の軽さはバロック様式から発展したロココ様式の影響でもある。

バロック建築は楕円やねじれといった曲線・曲面と、建物と一体化した装飾が特徴で、室内はスタッコ細工やステンドグラス・彫刻・絵画・レリーフといった装飾で覆い尽くされている。

ロココはバロックが発展した様式で、柱と壁・天井のつなぎ目をなくしてより一体感を出しているほか、装飾に花や葉・蔓、貝殻やサンゴ・波といった自然の造形を取り入れて親近感を演出し、白や金・パステルカラーで軽やかに仕上げている。
フレスコ画家グレゴリオ・グリエルミの天井画

フレスコ画家グレゴリオ・グリエルミの天井画 ©Roger-Wollstadt

シェーンブルン宮殿はバロック様式で建設されたが、「マリア・テレジア・イエロー」で知られる外観の黄色はロココの影響で、内装はウィーン・ロココの代表作となっている。

ウィーンではさまざまな様式の建物を見学することができる。ゴシックのシュテファン寺院、バロックのベルヴェデーレ宮殿、新古典主義の国会議事堂、ユーゲントシュティールのマヨルカハウスなどを訪ねてその違いを体感してほしい。

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シェーンブルン宮殿に泊まって王族生活を体験しよう!

皇太子の庭園

マリア・テレジア一家のプライベートな庭園だった皇太子の庭園 ©Jordi Cucurull

4階建てのシェーンブルン宮殿の3~4階は賃貸マンションとして貸し出されており、その1室が一般の観光客に「グランド・スイート」として開放されている。

グランド・スイートはネプチューン噴水を見下ろし、グロリエッテを臨む4階に位置し、中世の内装やインテリアが忠実に再現されている。深夜や早朝の庭園は居住者のみに許された空間で、夕焼け~ライトアップ~朝焼けと刻一刻と変化する宮殿や庭園の姿を気軽に楽しむことができる。
ネプチューン噴水

ローマ神話の海の神ネプチューンと女神テティスらを描いたネプチューン噴水

167平方メートル(約92畳)に寝室とバスルーム各2室、サロン、リビング、キッチンを備え、4人まで宿泊可能。オーストリア・トレンド・ホテルズによるサービス付きで、499ユーロから。オプションで執事やシェフを付けることも可能だ。世界遺産に宿泊して王族の生活を体験するまたとない機会になるだろう。

なお、シェーンブルン宮殿には結婚式や披露宴のプランも用意されている。

[関連サイト]

シェーンブルン宮殿で本場のクラシックを堪能しよう!

シェーンブルン宮殿サマーナイト・コンサート

10万人が集まるシェーンブルン宮殿サマーナイト・コンサートの様子 ©Manfred Werne

シューベルトが生まれ、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンらが活躍した「音楽の都」ウィーン。シェーンブルン宮殿も当然、その舞台のひとつだった。

たとえば本館の鏡の間はわずか6歳のモーツァルトがマリア・テレジアの前で御前演奏をした場所。7歳のマリー・アントワネットに「お嫁さんにしてあげる」と言い放った伝説でも知られている。また、宮廷劇場オランジェリーは映画『アマデウス』で描かれているようにサリエリとモーツァルトが腕を競った場所でもある。
宮廷劇場オランジェリー C. Cossa

モーツァルトも演奏を行った宮廷劇場オランジェリー ©C. Cossa

オランジェリーではほぼ毎晩、シェーンブルン宮殿劇場管弦楽団によるクラシックコンサートが開催されているほか、マリオネット劇場ではモーツァルトの「魔笛」や「アラジン」の人形劇が演じられている。

また、年に一度、5月下旬に開催される入場無料のオープンエア・イベント「サマーナイト・コンサート」ではライトアップされた宮殿やグロリエッテを背景にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏が楽しめる。

[関連サイト]

シェーンブルン宮殿の見所

マリア・テレジア・イエローで知られるシェーンブルン宮殿

マリア・テレジア・イエローで知られるシェーンブルン宮殿本館。ベルサイユ宮殿の豪奢に対するオーストリア・ロココのポップさは、相次ぐ戦争による予算的な問題もあった

シェーンブルン宮殿の敷地は広大で、世界遺産の資産(登録範囲)はディズニーランドの約3.7倍に及ぶ。その中から主な見所を紹介しよう。

■シェーンブルン宮殿本館
1441の部屋があり、このうち40前後が公開されている。ハイライトは大広間グローセ・ギャラリー、ロココ様式の礼拝堂・宮殿チャペル、謁見所・鏡の間、南国風景で覆われたベルグルの間、皇帝カール1世が退位した青磁の間、ナポレオンが宿泊したナポレオンの間、紫檀で覆われた百万の間など。また、カフェレストラン・レジデンツではオーストリア料理が味わえる。

■シェーンブルン庭園
本館正面の幾何学式庭園(直線で整然と区画された庭園)グレート・パルテールはベルサイユ宮殿の庭園を造園したアンドレ・ル・ノートルの弟子ジーン・トレエが主として設計したもの。周辺には中世の迷路を再現した迷路庭園や、江戸時代の庭園を再興した日本庭園、ローマの神々の像を配したネプチューンの泉、ローマ時代の遺跡を再現したローマ遺跡などがある。

■グロリエッテ
高さ60mの丘の上に立つシェーンブルン宮殿の象徴で、マリア・テレジアがプロイセンに対する勝利を記念して1775年に建設した。食堂や宴会場として使われていたが、現在はカフェとなっている。屋上テラスからの眺めがすばらしい。
大温室パルメンハウス

全長111m、鉄骨・ガラス造の大温室パルメンハウス

■パルメンハウス、砂漠館
1882年にフランツ・ヨーゼフ1世の命で建設されたガラス張りの大温室で、熱帯・温帯・寒帯の3区域に約4500種の植物が展示されている。1904年に建てられた隣の日時計ハウスは砂漠館として公開されており、サボテンを中心に砂漠の植生が再現されている。

■シェーンブルン動物園
マリア・テレジアの夫フランツ1世が1752年に造営した現存最古の動物園で、ゾウやパンダ、オランウータン、ペンギンなど700~800種を飼育している。一家がよく朝食をとっていたという六角形の皇帝パビリオンはカフェとして営業している。
シェーンブルン動物園のベンガルトラ

シェーンブルン動物園のベンガルトラ

■馬車博物館
代々の皇帝・皇后が使用した60台以上の馬車や用具を中心に王冠や衣装・絵画などを収めている。フランツ・ヨーゼフ1世の妻エリザベートが婚礼や葬祭で使用した馬車や衣装も展示されている。

■子供博物館
宮廷生活で使われた衣装や生活用品・当時のおもちゃなどが展示されており、当時の生活を体験したり衣装を着て写真を撮影したりすることができる。
日本庭園の枯山水

日本庭園の枯山水 ©User W

■オランジェリー
本館東に位置するバロック様式の宮廷劇場と庭園。王妃ヴィルヘルミーネ・アマーリエが18世紀に造営したオレンジを中心とした植物園で、温室に備えられた床暖房はいまでも稼働している。音楽会や晩餐会の会場としても使用されており、現在もコンサートが開催されている。

シェーンブルン宮殿の歴史1. フランスとの対立

グロリエッテ上部にそびえ立つ単頭のワシ

グロリエッテ上部にそびえ立つ単頭のワシ。単頭のワシは神聖ローマ皇帝、双頭のワシはハプスブルク家の紋章

14世紀、ウィーン川が流れるこの地はカッターブルクと呼ばれ、修道院が建っていた。16世紀に神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世が購入してハプスブルク家の所領となり、狩猟館を建てて狩猟場とした。あるとき狩りに訪れた四男マティアスが泉を発見して「なんと美しい泉か!」と叫んだことからシェーンブルンの名が付いたという。

この頃、フランス王国と神聖ローマ帝国は、その間にあって欧州でもっとも豊かな土地だったブルゴーニュやフランドルを巡って対立していた。ハプスブルク家は結婚政策によってフランドルを含むネーデルランド(オランダ、ベルギー周辺)、ハンガリー、ボヘミア(チェコ西部)、スペインなどを次々と手に入れ、フランスを包囲してハプスブルク帝国を築き上げた。

以来、フランスのヴァロワ家やブルボン家はハプスブルク家打倒に向けて死力を尽くし、1618年にはじまる三十年戦争ではカトリックの盟主を自認するにもかかわらずプロテスタントを支援し、1683年の第二次ウィーン包囲ではイスラム勢力であるオスマン帝国とさえ結んでハプスブルク家に対抗した。

シェーンブルン宮殿の歴史2.宮殿の成立

マルティン・ファン・マイテンス「マリア・テレジアの肖像」

マルティン・ファン・マイテンス「マリア・テレジアの肖像」セレモニーの間にて

第二次ウィーン包囲でカッターブルクが破壊されると、皇帝レオポルド1世はバロック建築家フィッシャー・フォン・エアラッハに命じてバロック様式の狩猟館を新設。1740年代にマリア・テレジアがこの地を夏の離宮に定め(冬の離宮はホーフブルク宮殿)、建築家ニコラウス・フォン・パカッシによってロココ様式に大改修された。

マリア・テレジアはドイツに興った大国プロイセンに対抗するため、息子や娘たちをフランス・ブルボン家に嫁がせて和解を実現した(外交革命)。そのひとりがルイ16世に嫁いだ11女のマリー・アントワネットだ。

その後、オーストリアとハプスブルク家は急速に衰退するが、シェーンブルン宮殿はナポレオン後のヨーロッパ世界の方向性を決めたウィーン会議や、ケネディとフルシチョフが対面して冷戦が決定的となったウィーン会談の会場として歴史にその名を刻んでいる。

シェーンブルン宮殿への道

シェーンブルン宮殿とフランス・バロックの幾何学式庭園

シェーンブルン宮殿とフランス・バロックの幾何学式庭園

■エアー&ツアー情報
シェーンブルン宮殿の玄関口はオーストリアの首都ウィーン。日本からの直行便はないのでモスクワ、北京、イスタンブール、ドバイなどを経由する。格安航空券で7万円前後から、ツアーは6日間12万円前後から。

■周辺の世界遺産
ウィーンの中心部は世界遺産リストに「ウィーン歴史地区」として登録されており、シェーンブルン宮殿は5kmほどしか離れていない。ウィーンから100km圏内には「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」「ゼメリング鉄道」「フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観(オーストリア、ハンガリー共通)」がある。

チェコやスロバキア、ハンガリーも近く、ウィーン、プラハ、ブダペストというドナウ川の美都(いずれも世界遺産)を巡る旅もオススメだ。

シェーンブルン宮殿のベストシーズン

ローマ遺跡

神聖ローマ帝国がローマ帝国の正当な後継であることを象徴するローマ遺跡

季節は日本と同じ。夏の平均最高気温は25度、平均最低気温は15度、冬はそれぞれ1度と-4度。夏は東京よりも5度ほど、冬は10度近く低い。

降水量は夏に多いが、それでも日本の冬程度で、1年を通じて雨はそれほど多くはない。ということで、ベストシーズンは寒い冬を避けた春~初秋。

世界遺産基本データ&リンク

マリア・テレジア・イエローが美しいシェーンブルン宮殿

マリア・テレジア・イエローが美しいシェーンブルン宮殿 ©Simon Matzinger

【世界遺産基本データ】
登録名称:シェーンブルン宮殿と庭園
Palace and Gardens of Schönbrunn
国名:オーストリア
登録年と登録基準:1996年、文化遺産(i)(iv)

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