ストレス

マスク依存は克服すべき?マスクと「コミュ力」の関係

【公認心理師が解説】コロナ対策としてのマスク着用義務が緩和されましたが、「引き続きマスクをつけていたい」「マスクをしていた方が落ち着く」と考える方も多いようです。コミュニケーションに苦手意識を持つ方にとって、マスクは人前で心を落ち着かせる「心の杖」になりえます。マスクの力で人生を変えた女性のエピソードをもとに、対人関係におけるマスクの活用効果について解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

マスク依存は克服すべき? 心を落ち着かせるマスクの効果

マスクをつけようとしている女性

「今日は疲れているから、マスクを使った方が安心できる」――そうした時には、マスクを「心の杖」にして出かけていきましょう

みなさんは、マスクをつけたほうが話しやすい方ですか? それとも、マスクを煩わしく思う方ですか?

コロナ禍が始まる前から、私はカウンセリングの場でマスク愛用者にしばしば遭遇してきました。マスクを愛用するのは、コミュニケーションに自信がない方だけではありません。悩みを抱えている方、少し体調が悪い方なども、マスクをつけることで気分が落ちつき、話しやすくなると感じることが多いようです。

人は誰でも、無意識のうちに他人に気を使い、対人関係にたくさんのエネルギーを使って生活しています。自分の状態が絶好調でエネルギーに満ち溢れている時には、人とのコミュニケーションからさらなるエネルギーを手に入れることができます。一方、元気がない時には人と話をするだけでもエネルギーを消耗し、閉じこもりたくなるほど疲弊してしまうことがあります。

とはいえ、社会生活を送っている以上、私たちは人とかかわって生きていかなければなりません。そうした時、対人関係のストレスから私たちを守ってくれるものの一つに「マスク」があります。つまり、マスクは、疲れている人の心を落ち着かせる「心の杖」の役割を果たしているのです。
 

社会に出る新しい一歩を後押ししてくれた「マスクの力」

マスクをつけた女性

「マスク」をしているからこそ口下手な私でも本音を話せる――そんな人は意外に多い

また、マスクは会話に苦手意識を持つ方がコミュニケーション力を向上させるための「スモールステップ」として活用することもできます。マスクを使うことで、プチひきこもり生活から脱することができた知人の成人女性(Aさん)の体験談をご紹介します(コロナ禍前のエピソードです)。

Aさんは対人関係のストレスが強く、大学卒業後に入社した会社を数カ月でやめ、長年、実家で家事を手伝う生活を続けていました。とはいえ、Aさんには「このままではいけない」「早く仕事を見つけて自立したい」という思いが日に日に募っていました。

そんなAさんに、私がアドバイスしたのが「マスクをつけての街歩き」です。「マスクをつけてただ街を歩いて、気になった店があれば入ってみたり、本屋さんに立ち寄って雑誌をめくったりしてみませんか? できれば、毎日続けてみてください」と提案したのです。

すると1カ月後、Aさんの口から出る「話題」そのものが変わってきました。それまでは、幼少期からの劣等感や他人からの見られ方など「自分自身の問題」にばかりに意識が向いていたAさん。しかし、マスクをつけて街歩きを始めてから1カ月、Aさんの意識は街の風景やお店の情報など、「外で見つけたもの」に向かうようになっていったのです。

その後、私はAさんに「次は興味のある講習会や講座などに参加して、人とかかわりながら自分の世界をさらに広げてみませんか?」と提案しました。もちろん、「まずはマスク着用で」とアドバイスしました。

Aさんはインターネットでカルチャーセンターの講座を検索し、以前から関心のあった写真撮影を受講しました。参加者との出会いに緊張し、人と話をするたびに「どんな話をすればいいんだろう」「自分の受け答えはおかしくなかっただろうか」と不安になっていました。しかし、「マスクがあるから大丈夫」と思い直して講座への参加を続けていきました。すると、気がつけば講座のメンバーに、マスクの下で自分の気持ちや意見を少しずつ言えるようになっていきました。

こうして毎週1回、写真撮影の講座への参加を続けているうちに、Aさんはしだいにマスクの着用がうっとうしくなり、気がつけばマスクなしで外出できるようになりました。同時に講座を通じて数人の友達ができ、その友人たちと撮影旅行に出かけるほど仲良くなりました。こうした交流を通じて、Aさんの人付き合いへの苦手意識はしだいに軽減され、なんと1年後には、接客業の仕事に就くことができるようになったのです。

このようにAさんは、マスクという「心の杖」を活用してコミュニケーション力を伸ばし、自分自身の人生を大転換させることができたのです。
 

マスクのメリット・感染予防以外の効果

コミュニケーション力を伸ばすには、「外出ができること」「他人とかかわりをもつこと」「フェイス・トゥ・フェイスで会話ができること」という3つのポイントが重要ですが、誰もが最初からこうした行動をスムーズにできるわけではありません。

Aさんのようにマスクという「心の杖」に守られることで、コミュニケーション力を伸ばしていける人もいるのです。アイテムを使うことで行動化のハードルが下がるなら、まずはためらわずにそのアイテムを活用してみましょう。

「私はマスク依存症だから」などと、自分に先入観を持つ必要はありません。マスクを使うと外出しやすくなるということは、寒がりな人が上着を一枚多く羽織れば外出しやすくなることと同等、と考えてみるとよいでしょう。寒がりな人も厚着で外を歩いていれば、いずれは暑くなって上着を脱ぎたくなるものです。同様にマスクを常用する人も、マスクをつけて人とのかかわりを続けているうちに、マスクを外した方が話しやすいと思うようになるものです。

「行動」が変わると「意識」も変わります。つまり、外出や会話が苦手なら、まずは自分が楽なやり方で外出して人とかかわりをスタートさせれば、必ずコミュニケーションへの意識も変わっていくのです。そして、行動と意識が楽になれば、自然とマスクなどのアイテムに頼らなくても、コミュニケーションをとれるようになっていくでしょう。
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