ストレス

恋愛依存やドライな家族関係に陥る「愛着障害」とは

仕事でもプライベートでも、相手に過剰に執着したり、逆に親密な関係を回避してしまったり……。こうした人間関係の特徴に心当たりがある場合、「愛着障害」の可能性が感がられます。「不安型」「回避型」のそれぞれのタイプに現れやすい傾向とよく見られるパターン、愛着障害への対処法を解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

「不安型」「回避型」に分けられる愛着障害のタイプ

スマホを見る女性

恋愛関係や友情、家族関係がいつもうまくいかない――その根底には「愛着障害」があるのかもしれません

あなたは、「愛着障害」というものを知っていますか? 「愛着」とは、親などの主たる養育者との間で築かれる特別な情緒的きずなを意味します。愛着は、子どもが泣いたりぐずったりしたときに、養育者がやさしく声をかけて愛撫し、不安な気持ちに寄り添うことによって形成されると言われています。

子どもは、乳幼児期に養育者に対する愛着を確立することによって、安心して外の世界に興味を広げ、家族以外の他者とも信頼関係を築きながら自分の世界を広げていきます。しかし、養育者との間で十分な愛着が形成されないと、子どもは一人になることへの不安や人間への不信感を抱えるようになります。

そして、大人になってもその特徴を引きずり、生きにくさや対人関係面でのストレスを感じるようになってしまうのです。その代表とされるものが「不安型」と「回避型」に分けられる愛着障害です。

不安型の愛着障害の傾向…見捨てられ不安で、顔色を伺う

「不安型」は、信頼した人から無視されたり、相手にされなくなることを極度におそれる愛着障害のタイプです。常に相手の顔色をうかがい、少しでも冷たくされると過剰に不安になり、いてもたってもいられなくなります。わざと相手の愛情を試すような行動をしたり、相手に好かれたいがために無理をして相手に合わせ、嫌なことでも受け入れたりしてしまうのがこのタイプの人たちです。

このタイプの人には、「見捨てられ不安」がよく見られます。信頼した相手に見捨てられることへの不安が強すぎるために、しつこくつきまとったり、相手に冷たくされると絶望的になり、自暴自棄になったりしてしまうことが多いようです。見捨てられ不安については、「友情や恋愛で感じる「見捨てられ不安」とは?」で詳しく解説しましたので、ご覧ください。

不安型愛着障害の例:恋愛依存するA子さんのケース

不安型の愛着障害の例として、このようなケースがあります。幼い頃から親が忙しく、甘えられなかったというA子さん。そんなA子さんは、中学時代から非行に走り、夜な夜な男性と遊び歩くようになりました。A子さんは付き合う男性に求められると、自分の気持ちにそぐわなくても、いつでも体を許してしまいます。拒否して見捨てられるのが怖いからです。初めて付き合った男性に捨てられた後、A子さんは自暴自棄になり、自分の体を求める男性の元を渡り歩くようになりました。

A子さんは自分が求められていることがうれしく、すぐに肉体関係に応じてしまいます。そして一度関係を持つと四六時中会いたがったり、1日に何十回も連絡を入れてしまうため、結局は相手の重荷になり、捨てられてしまいます。A子さんはそのたびに絶望しますが、自分の体を求める男性が現れるとまた身を任せ、依存を繰り返してしまうのです。

これは極端なケースではありますが、「不安型」の愛着障害タイプの人は、信頼した相手から常に愛され、関心を向けられることを渇望します。そのため、愛情や好意を向けてくれた相手には、とことんのめりこみ、見捨てられることを恐れてしがみつます。その結果、重荷に感じた相手から距離を置かれ、絶望を繰り返すパターンが少なくないのです。

回避型の愛着障害の傾向…親密性を避け、ドライな関係に

窓の外を見る男性

社会的には成功を収め、何不自由ない生活をしている――でも身近な人との関係がいつもうまくいかない場合、「愛着」に問題がある場合も

「回避型」は愛着をあきらめた結果、信頼関係や共感性を信じられなくなってしまったタイプです。このタイプの人は、対人関係を便宜的なものと捉えすぎる面があります。したがって、表面的には恋愛関係・友人関係を保っていても、親密になることを拒否し、一定の距離を保とうとします。

このタイプの人は、対人関係が非常にドライです。他者と共感しあうこと、胸襟を開いて信頼関係を築くことに意味を求めません。感情を挟まずに物事を処理できるため、合理性は高いのですが、他者と協力し、人の面倒を見るような場面を回避したがる傾向があります。

回避型愛着障害の例:愛ある家庭を築けないB男さんのケース

回避型の愛着障害の例としては、このようなケースがあります。会社員のB男さんの生家では、子どもが親に甘えられる雰囲気はなく、家庭内ではいつも事務的な話と知的な会話だけが交わされていました。そんなB男さんの成績は、いつも学年トップクラス。中学、高校、大学を通じて超一流の学校に通い、超一流企業に就職をしました。そんなB男さんは、友達ができても、友達選びはいつも損得勘定で考え、得にならない相手との関係はバッサリ断ち切ってしまいます。B男さんは30代で結婚をしましたが、パートナー選びも「自分にふさわしいか」という観点で選び、相手との情緒的関係には一切関心を持とうとしません。

そんなB男さんは、妻が病気で寝込んだり、精神的に追い込まれたりしてもそのつらさに寄り添うことができず、「自分に甘いからだ」「妻としての役目を果たすべきだ」となじります。そんな夫との関係に妻は耐えられず、うつ状態になってしまいました。愛情を向けない父、うつ状態の母の元で育った子どもは情緒が不安定で、母子分離ができず、幼稚園に通えない状態です。

家庭や職場でも安定した関係が築きにくい「愛着障害」

このように、愛着障害はタイプによって対人関係問題のベクトルは異なりますが。しかしどちらも健康的な関係性が持続しにくいため、自分自身を傷つけ、家族や仲間を傷つけて苦しめてしまいがちという傾向は共通しています。

自分の子どもとの間でも健康的な関係性を育むことができないため、子どもに過剰に執着して支配や依存をしたり、それとは逆に愛着を求める子どもを煩わしく感じてしまい、育児放棄につながってしまうケースも少なくありません。社会生活においても、たとえば職場においては特定の上司に過剰に執着して甘えたり、信頼関係を軽視し、成果ばかりを求めてパワハラをしたりと、安定的で発展的な関係性を築きにくくなることが少なくないのです。

愛着障害の治療・対応に有効な心理カウンセリング

自分自身の生きにくさの根本に愛着障害があると感じる場合には、一度心理カウンセリングを受けてみることをお勧めします。カウンセリングによって、自分自身の考え方や対人関係の傾向を見つめてみましょう。そして、愛着障害に気づいた場合、心の底にある正常な愛着関係への希求心を取り戻し、カウンセラーとの関係性の中から、対人間の正常な愛着形成を学んでいくことが大切だと思います。

また、子どもの愛着スタイルについては、「ストレンジ・シチュエーション法」という有名な心理学実験があります。「「愛着」のスタイルで分かる!子どものこころの健康度」でも詳述しましたので、興味のある方はぜひご覧ください。
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