不眠・睡眠障害

あなたも隠れ不眠?不調の原因は潜在的睡眠不足かも…

「自分は睡眠不足とは無縁」と思っている人も、実は「潜在的睡眠不足」の状態かもしれません。睡眠不足はストレス症状や認知機能、肥満体質にまで影響してきます。自覚がなくても睡眠量が足りていないと、睡眠の質やホルモン分泌に影響するのです。日本人の睡眠時間を検討した研究から、体調との関連性や理想的な睡眠時間の求め方を解説します。

坪田 聡

執筆者:坪田 聡

医師 / 睡眠ガイド

日本人は睡眠が足りてない?! 50年間で睡眠時間は1時間減少

机で寝ている女性

「自分は大丈夫」と思っている人ほど 危ないかもしれません

NHK放送文化研究所が5年ごとに行っている「国民生活時間調査」によると、2015年の国民全体の睡眠時間は、平日7時間15分、土曜7時間42分、日曜8時間3分でした。睡眠時間の減少は止まってきていますが、過去50年間で約1時間、睡眠時間が減っています。国際的にみても日本は、韓国などとともに世界で最も睡眠時間が短い国のうちの1つ。

慢性的に睡眠が不足しているのに、そのことに本人が気づかず深刻な眠気に悩んでいる状態を「睡眠不足症候群」といいます。これは国際的にも認められている、れっきとした睡眠障害の1つなのです。中には眠気の自覚すらない状態で、強い疲労感や体のだるさ、無気力、意欲低下、落ち着きのなさなどを訴えて、来院する患者さんもいます。詳しくは、「睡眠不足に本人が気付かない! 睡眠不足症候群」をご覧下さい。

あなたは大丈夫? 現代人に多い「潜在的睡眠不足」

睡眠不足症候群よりもっと怖いのが、「潜在的睡眠不足」です。2016年に国立精神・神経医療研究センターから、現代人の多くが自分では感じていないけれど、かなりの睡眠不足(睡眠負債)を抱えているという実験結果が報告されました。研究グループはこの状態を「潜在的睡眠不足」と名付けています。

■研究方法
実験は、健康な成人男性15名(平均年齢23.4 歳)を対象として行われました。実験前の睡眠時間は、平均7.37時間(7時間22分)でした。これは、全国調査の同年代の睡眠時間と、ほぼ同じ睡眠時間です。

この人たちに、眠れるだけ眠るように指示して、9日間の実験が行われました。理想的な環境でもう二度寝できないまで眠ると、初日の睡眠時間は10時間以上に達しました。その後は少しずつ睡眠時間が減りましたが、実験中は自宅でのいつもの睡眠時間を上回る水準でした。

■研究結果
実験が終わった後に参加者たちの必要睡眠時間を計算すると、平均8.41時間(8時間25分)となりました。実験に参加した15名中13名(86.7%)で、必要睡眠時間が普段の睡眠時間より長くなっています。そして、その差の平均は約1時間でした。つまり、睡眠不足を感じていない人でも、8割の確率で約1時間の睡眠不足(=潜在的睡眠不足)があるということです。

驚きの結果が! ホルモンバランスの乱れやストレス症状にも

この実験では、潜在的睡眠不足により引き起こされる体内の異常について、様々な面から検討が行われました。潜在的睡眠不足は、身体のあらゆる部分に影響を及ぼします。

■記憶力や身体の疲労度との関係
まず、自宅での睡眠と実験中の睡眠の違いは、「浅いノンレム睡眠」と「レム睡眠」の時間が増えたことです。なお、深いノンレム睡眠の量は変わりませんでした。ノンレム睡眠は主に「脳の眠り」です。深いノンレム睡眠は脳の休息時間であり、浅いノンレム睡眠は記憶と関係があります。一方、レム睡眠は「体の眠り」がメインで、記憶の定着など脳のメンテナンスも行われているようです。長時間の睡眠をとった今回の実験で浅いノンレム睡眠やレム睡眠が増えたことから、潜在的な睡眠不足が記憶などの脳の機能低下や身体の回復遅延を引き起こす可能性が示唆されたのです。

■ホルモン分泌量の変化・糖尿病との関係
十分な睡眠をとってもらうと、血糖値やインシュリン、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)などの分泌量が変化しました。空腹時の血糖値が低下し、インシュリンや細胞の代謝に関係する甲状腺ホルモンの分泌量は増加したのです。つまり、潜在的睡眠不足のときは、糖尿病になりやすくエネルギーを有効に使いにくい状態であったと言えます。

■ストレスとの関係
ストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモンやコルチゾールの濃度は、実験後に低下しました。十分な睡眠がとれたことでストレスが減り、ストレスホルモンも減ったものと思われます。ストレスが長期的に続くことは、うつ病や認知症のリスクファクターと考えられています。潜在的睡眠不足の人は、これらの病気の予備軍なのかもしれません。

何時間不足しているの? 本当に必要な睡眠時間の求め方

この実験から、「毎日どのくらい睡眠が足りていないか」を求める方法も見つかりました。実験初日の睡眠時間といつもの睡眠時間の差が、潜在的睡眠時間と関連することがわかったのです。

実際に不足している睡眠時間を求めるには、まず、寝室をできるだけ暗く静かな環境にして、休日に目覚ましをかけずに眠れるだけ眠ります。いくら目をつぶってももう眠れない、となるまで眠ります。その時の睡眠時間といつもの平日の睡眠時間の差が2時間以下ならば、睡眠不足はほとんどありません。しかし、その差が3時間なら睡眠不足は1日につき1時間、差が4時間なら2時間/日、差が5時間なら3時間/日の睡眠不足があることになります。

実験では、9日間続けて十分眠っても、まだ睡眠不足が残ってたようです。休日だけ長く眠れば平日の睡眠不足は簡単に解消する、というわけではなさそうです。時間のやりくりは大変でしょうが、健康な毎日を過ごすために、睡眠不足にならない睡眠時間の確保を目指して頑張りましょう。睡眠不足対処法についてさらに詳しく知りたい方は、「理想の睡眠時間・睡眠不足対処法」を併せてご覧下さい。

【参考サイト】
「潜在的睡眠不足」の解消が内分泌機能改善につながることを明らかに(国立精神・神経医療研究センター)
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