荒野に花咲く「青の都」サマルカンド
グリ・アミール廟のイーワーン(門状の構造物)。中央下が廟のドームで、この下に「青の都」を築いたティムール朝のアミール(君主)、ティムールが眠っている
バスや電車に何時間揺られても、車窓はいつまでもどこまでも延々と続く灰と茶の荒野。数千年前から、人はこんな荒野をラクダやウマで行き来していた。
青のドームが美しいレギスタン広場のティリャー・コリー・モスク・マドラサ
荒野を旅していくと、『西遊記』三蔵法師のモデル・玄奘(げんしょう)や、ヨーロッパからアジアにかけて大帝国を築いたアレクサンダー大王が、サマルカンドの美しさに魅了されたその理由がよく理解できる。
サマルカンドが宝石や真珠にたとえられる理由
「青の都」の名にもっともふさわしい空間、シャーヒ・ズィンダ廟群。権力者の霊廟やモスク、マドラサなど24の主要建築物からなり、聖地として崇められている
理由その1、オアシス都市。先述したように砂漠やステップに花咲く姿は華麗のひとこと。
理由その2、シルクロード。サマルカンドは中国、ヨーロッパ、アラブ、ペルシア、インド、ロシアをつなぐ要衝。たとえばサマルカンド・ブルーで有名な青タイルは、イランやトルコのコバルトやターコイズが中央アジアで中国の磁器と出合うことで誕生した。サマルカンドは世界の文化が集約した先端都市だった。
シェル・ドル・マドラサ。偶像制作が禁じられたイスラム教では珍しく、ライオンや擬人化した太陽像が描かれている
理由その4、イスラム教。偶像の制作が禁じられたイスラム教において、神は美によって代弁された。祈りの場であるモスクや廟にはイスラム芸術の粋が集められ、庭園は天の楽園パラダイスを模して築かれた。
サマルカンドでは「花」と「食」を楽しもう!
グリ・アミール廟のイスラム紋様アラベスク。上部はタイルの小片を貼り合わせたモザイク、下部はタイルに絵を描いた彩釉タイル。一部に石をはめ込んだ象眼が使われている
草原の花々。春になるとステップは色とりどりの野花に覆われる。中央アジアでは日本人にあまり馴染みのない「草原」は必見だ
花といえばサマルカンド・ブルーの花々。モスクは青の彩釉タイルや象眼細工の草花紋様で彩られている。全体も美しさもさることながら、細部の造形もまたとんでもなく精巧で美しい。
モスクの人工美もすばらしいが、特筆したいのは草原の草花。ステップは半砂漠地帯ではあるが、雨が降る春になると草原となり、色とりどりの花で覆われる。赤い花、黄色い花、白い花がパッチワークのように大地を覆う様は圧巻のひとこと。中央アジアを訪れるなら春が断然イチ押しだ。
ウズベキスタンの方々も大量購入に訪れる、名物サマルカンド・ナン (C) Ismael Alonso
もう一例はパラフ(プロフ)。一説によると、中国からもたらされた米を使った炒め料理=パラフが中央アジアで発達し、アレクサンダー大王が遠征後にトルコやヨーロッパに伝えたのがピラフなのだという。カザンと呼ばれる巨大な鍋で作られるパラフの食感は抜群だ。
この他にも中華のマンティ(餃子や饅頭)、ロシアのシチー(ボルシチ)、インドのサムサ(サモサ)をはじめ、各地の料理の源流あるいは影響を受けた料理が見受けられる。
世界遺産「文化交差路サマルカンド」の構成資産
3棟のイスラム神学校=マドラサが立ち並ぶサマルカンドの象徴、レギスタン広場。左からウルグ・ベク・マドラサ、ティリャー・コリー・モスク・マドラサ、シェル・ドル・マドラサ
- アフラシャブ考古地区(アフラシャブの丘)
- 中世ティムール地区とヨーロッパ地区
- ウルグベク天文台
- アブディ・ダールーン廟とイシュラット・ハナ廟
- ナマツゴー・モスク
カザン鍋で調理されたパラフ(ピラフ)。こちらは「パラフの文化と伝統」としてユネスコの無形文化遺産に登録されている
観光の中心となるのは中世ティムール地区で、レギスタン広場やビビハニム・モスク、グリ・アミール廟、ルハバット廟、シティ・ガーデンなどの見所が並ぶ。
アフラシャブ考古地区はモンゴル帝国が破壊する以前のサマルカンドの中心地。土に覆われた廃墟が広がるが、シャーヒ・ズィンダ廟群やアフラシャブ博物館などの見所が点在している。ウルグベク天文台はアフラシャブ考古地区の北東にあるのでぜひ足を伸ばしておきたい。
以下ではサマルカンドで必見の三大建築を紹介しよう。
サマルカンド芸術の最高峰、グリ・アミール廟
グリ・アミール廟。右がイーワーン、左右に立つのがミナレット(塔)、中央のドームが廟の中心
入口に立つイーワーンと廟のドーム、2本のミナレットからなる建物で、外観はシンプルながら気品があり、神秘的な空気をまとっている。
圧巻はイーワーンと廟の装飾だ。鍾乳石を模したムカルナス、タイルや宝石に宝石をはめ込んだ象眼細工、幾何学図形や草花を紋様にしたアラベスク、アラビア文字を図案化したイスラミック・カリフラフィー等々、細部まで細かな装飾が施されている。
これらを見ているだけで何時間でもすごせてしまう圧倒的な芸術空間だ。
シルクロードのハイライト、レギスタン広場
ライトアップされたレギスタン広場。グリ・アミール廟など主要な建物はライトアップされるので夜景もお忘れなく!
西のウルグ・ベク・マドラサ、北のティリャー・コリー・モスク・マドラサ、東のシェル・ドル・マドラサで構成される。
3つの建物が調和した姿はきわめて荘厳であるだけでなく、イーワーンやマドラサ内部の装飾はそれぞれ異なっており、一つひとつがグリ・アミール廟に匹敵するほど精緻で華麗。見飽きることがない。
天国への階段、シャーヒ・ズィンダ廟群
ティムールの妹を祀るシャーヒ・ズィンダ廟群のシリンベク・アカ廟。白と青のコントラストが美しい
シャーヒ・ズィンダは「生きている王」の意味。イスラム教の創始者ムハンマドの従兄弟であるクサム・イブン・アッバースが7世紀にこの地を征服し、異教徒に首をはねられても生きていたことからこの名が付いたという。
彼は自分の首を拾って井戸の中に入り、楽園にたどり着いたと言われ、イスラム教が危機に瀕した際にふたたび現れて世界を救うと伝えられている。
この地を何度か訪れるとイスラム教徒の五行(五つの義務)のひとつであるメッカ巡礼(ハッジ)に相当するとされるほど聖地として崇められている。
サマルカンドへの道
グリ・アミール廟の見事な内装。上部が鍾乳石を象ったムカルナス、下部がドーム天井
一般的なウズベキスタンの玄関口は首都タシケント、あるいはサマルカンド。日本からの直行便はないので、ロシアや中国の諸都市などを経由する。格安航空券で10万円前後から。ツアーは4泊6日12万円前後から。
サマルカンドはタシケントの南西約250kmで、バスや乗り合いタクシーで4~6時間、電車で2.5~4時間ほど。
■周辺の世界遺産
サマルカンドの南約70kmにティムールの生誕地である「シャフリサブス歴史地区」があり、サマルカンドの青に対して「緑の都」と呼ばれている。西220kmにはサマルカンドとともにシルクロード随一の美都といわれた「ブハラ歴史地区」があり、さらに北西400kmほどにヒヴァの「イチャン・カラ」がある。
実はタジキスタンの世界遺産「サラズムの遺跡」が南東50kmほどと近いのだが、こちらの国境は閉じていることが多い。また、タジキスタン国境には自然遺産「西天山」が広がっている。
サマルカンドのベストシーズン
ウルグ・ベク・マドラサのイーワーンの装飾。中央はムカルナス、上部は聖典『コーラン』のアラビア語を装飾化したイスラミック・カリグラフィー
夏は非常に乾燥しており、6~8月にはほとんど雨が降らない。雨が多いのは12~5月でピークは2~3月。といっても、降水量自体は東京の冬程度で多くはない。
ベストシーズンは、草原が野花で覆われる春と、美味しい食材が増える秋。
世界遺産基本データ&リンク
シャーヒ・ズィンダ廟群最奥部、左からトゥマン・アカ廟、フジャ・アフマッド廟、クトゥルグ・アカ廟
かつて中央アジア最大を誇ったビビハニム・モスク
登録名称:サマルカンド - 文化交差路
Samarkand - Crossroad of Cultures
国名:ウズベキスタン
登録年と登録基準:2001年、文化遺産(i)(ii)(iv)
【関連サイト】
- ウズベキスタン政府観光局
- 日本ウズベキスタン・シルクロード財団(ビザ情報あり)