世界遺産/アジアの世界遺産

青の都サマルカンド/ウズベキスタン

荒野にたたずむシルクロードのオアシス都市・サマルカンド。「青の都」「イスラム世界の宝石」「東方の真珠」と称されるこの都市は、古代から三蔵法師・玄奘や大王アレクサンダーをはじめ多くの旅人や王たちを引きつけてきた。今回はイスラム世界随一を誇る建築芸術はもちろん、砂漠や草原・星空の景色、名物のナン、無形文化遺産のパラフをはじめ、エキゾチックな魅力を満載した世界遺産「文化交差路サマルカンド」を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

荒野に花咲く「青の都」サマルカンド

グリ・アミール廟のイーワーン

グリ・アミール廟のイーワーン(門状の構造物)。中央下が廟のドームで、この下に「青の都」を築いたティムール朝のアミール(君主)、ティムールが眠っている

中央アジアの大半は砂漠やステップと呼ばれる半砂漠。大地に立てば360度の地平線に囲まれて、空は圧倒的に大きく深く、夜は信じられないほどの星々に包まれる。

バスや電車に何時間揺られても、車窓はいつまでもどこまでも延々と続く灰と茶の荒野。数千年前から、人はこんな荒野をラクダやウマで行き来していた。

レギスタン広場のティリャー・コリー・モスク・マドラサ

青のドームが美しいレギスタン広場のティリャー・コリー・モスク・マドラサ

数時間後、遠くに緑と白の街並みが。中央アジア特有の青いタマネギ帽子の建物が深い青空とよく調和している。間違えようがない。青の都、サマルカンドだ!

荒野を旅していくと、『西遊記』三蔵法師のモデル・玄奘(げんしょう)や、ヨーロッパからアジアにかけて大帝国を築いたアレクサンダー大王が、サマルカンドの美しさに魅了されたその理由がよく理解できる。

 

サマルカンドが宝石や真珠にたとえられる理由

シャーヒ・ズィンダ廟群

「青の都」の名にもっともふさわしい空間、シャーヒ・ズィンダ廟群。権力者の霊廟やモスク、マドラサなど24の主要建築物からなり、聖地として崇められている

イスラム世界の宝石、青の宝石、東方の真珠……サマルカンドがしばしば宝石にたとえられる理由はいくつかある。

理由その1、オアシス都市。先述したように砂漠やステップに花咲く姿は華麗のひとこと。

理由その2、シルクロード。サマルカンドは中国、ヨーロッパ、アラブ、ペルシア、インド、ロシアをつなぐ要衝。たとえばサマルカンド・ブルーで有名な青タイルは、イランやトルコのコバルトやターコイズが中央アジアで中国の磁器と出合うことで誕生した。サマルカンドは世界の文化が集約した先端都市だった。

シェル・ドル・マドラサ

シェル・ドル・マドラサ。偶像制作が禁じられたイスラム教では珍しく、ライオンや擬人化した太陽像が描かれている

理由その3、ティムール。13世紀にモンゴル帝国によって破壊されたサマルカンドだが、14~15世紀にティムールは金を惜しまず世界一の美都を目指して名建築家や芸術家を集めて再興した。これにより青で統一された美しい都が誕生した。

理由その4、イスラム教。偶像の制作が禁じられたイスラム教において、神は美によって代弁された。祈りの場であるモスクや廟にはイスラム芸術の粋が集められ、庭園は天の楽園パラダイスを模して築かれた。

 

サマルカンドでは「花」と「食」を楽しもう!

グリ・アミール廟の装飾

グリ・アミール廟のイスラム紋様アラベスク。上部はタイルの小片を貼り合わせたモザイク、下部はタイルに絵を描いた彩釉タイル。一部に石をはめ込んだ象眼が使われている

ステップの花々

草原の花々。春になるとステップは色とりどりの野花に覆われる。中央アジアでは日本人にあまり馴染みのない「草原」は必見だ

建物以外にもサマルカンドには多くの見所がある。ぜひ体験したいのが「花」と「食」だ。

花といえばサマルカンド・ブルーの花々。モスクは青の彩釉タイルや象眼細工の草花紋様で彩られている。全体も美しさもさることながら、細部の造形もまたとんでもなく精巧で美しい。

モスクの人工美もすばらしいが、特筆したいのは草原の草花。ステップは半砂漠地帯ではあるが、雨が降る春になると草原となり、色とりどりの花で覆われる。赤い花、黄色い花、白い花がパッチワークのように大地を覆う様は圧巻のひとこと。中央アジアを訪れるなら春が断然イチ押しだ。

 

サマルカンド・ナン

ウズベキスタンの方々も大量購入に訪れる、名物サマルカンド・ナン (C) Ismael Alonso

シルクロードは食でも体感したい。一例がナン。ナンはインド料理だと思われがちだが、メソポタミアで発明された小麦粉が中央アジアでナンになり、やがてインドに持ち込まれたもの。厚い皮の中のモチモチした部分がたまらない。

もう一例はパラフ(プロフ)。一説によると、中国からもたらされた米を使った炒め料理=パラフが中央アジアで発達し、アレクサンダー大王が遠征後にトルコやヨーロッパに伝えたのがピラフなのだという。カザンと呼ばれる巨大な鍋で作られるパラフの食感は抜群だ。

 

この他にも中華のマンティ(餃子や饅頭)、ロシアのシチー(ボルシチ)、インドのサムサ(サモサ)をはじめ、各地の料理の源流あるいは影響を受けた料理が見受けられる。

世界遺産「文化交差路サマルカンド」の構成資産

サマルカンドの象徴、レギスタン広場

3棟のイスラム神学校=マドラサが立ち並ぶサマルカンドの象徴、レギスタン広場。左からウルグ・ベク・マドラサ、ティリャー・コリー・モスク・マドラサ、シェル・ドル・マドラサ

「文化交差路サマルカンド」は下記の5地区からなり、この中に23の構成資産、100を優に超える建物が含まれている。

    無形文化遺産「パラフの文化と伝統」

    カザン鍋で調理されたパラフ(ピラフ)。こちらは「パラフの文化と伝統」としてユネスコの無形文化遺産に登録されている

  1. アフラシャブ考古地区(アフラシャブの丘)
  2. 中世ティムール地区とヨーロッパ地区
  3. ウルグベク天文台
  4. アブディ・ダールーン廟とイシュラット・ハナ廟
  5. ナマツゴー・モスク

観光の中心となるのは中世ティムール地区で、レギスタン広場やビビハニム・モスク、グリ・アミール廟、ルハバット廟、シティ・ガーデンなどの見所が並ぶ。

 

アフラシャブ考古地区はモンゴル帝国が破壊する以前のサマルカンドの中心地。土に覆われた廃墟が広がるが、シャーヒ・ズィンダ廟群やアフラシャブ博物館などの見所が点在している。ウルグベク天文台はアフラシャブ考古地区の北東にあるのでぜひ足を伸ばしておきたい。

以下ではサマルカンドで必見の三大建築を紹介しよう。 

サマルカンド芸術の最高峰、グリ・アミール廟

グリ・アミール廟

グリ・アミール廟。右がイーワーン、左右に立つのがミナレット(塔)、中央のドームが廟の中心

1307~1507年に栄えた大帝国ティムール朝の創始者であるティムールとその家族の霊廟。

入口に立つイーワーンと廟のドーム、2本のミナレットからなる建物で、外観はシンプルながら気品があり、神秘的な空気をまとっている。

圧巻はイーワーンと廟の装飾だ。鍾乳石を模したムカルナス、タイルや宝石に宝石をはめ込んだ象眼細工、幾何学図形や草花を紋様にしたアラベスク、アラビア文字を図案化したイスラミック・カリフラフィー等々、細部まで細かな装飾が施されている。

これらを見ているだけで何時間でもすごせてしまう圧倒的な芸術空間だ。

シルクロードのハイライト、レギスタン広場

ライトアップされたレギスタン広場

ライトアップされたレギスタン広場。グリ・アミール廟など主要な建物はライトアップされるので夜景もお忘れなく!

ティムールが築いたティムール朝の首都サマルカンドの中心をなす広場。当時はサマルカンドに入る主要路の交差点に位置し、ここで謁見や閲兵などが行われていた。

西のウルグ・ベク・マドラサ、北のティリャー・コリー・モスク・マドラサ、東のシェル・ドル・マドラサで構成される。

3つの建物が調和した姿はきわめて荘厳であるだけでなく、イーワーンやマドラサ内部の装飾はそれぞれ異なっており、一つひとつがグリ・アミール廟に匹敵するほど精緻で華麗。見飽きることがない。

天国への階段、シャーヒ・ズィンダ廟群

シャーヒ・ズィンダ廟群のシリンベク・アカ廟

ティムールの妹を祀るシャーヒ・ズィンダ廟群のシリンベク・アカ廟。白と青のコントラストが美しい

青を基調とする建物が左右に立ち並ぶサマルカンド最大の聖地。

シャーヒ・ズィンダは「生きている王」の意味。イスラム教の創始者ムハンマドの従兄弟であるクサム・イブン・アッバースが7世紀にこの地を征服し、異教徒に首をはねられても生きていたことからこの名が付いたという。

彼は自分の首を拾って井戸の中に入り、楽園にたどり着いたと言われ、イスラム教が危機に瀕した際にふたたび現れて世界を救うと伝えられている。

この地を何度か訪れるとイスラム教徒の五行(五つの義務)のひとつであるメッカ巡礼(ハッジ)に相当するとされるほど聖地として崇められている。

サマルカンドへの道

グリ・アミール廟の内装

グリ・アミール廟の見事な内装。上部が鍾乳石を象ったムカルナス、下部がドーム天井

■エアー&ツアー情報
一般的なウズベキスタンの玄関口は首都タシケント、あるいはサマルカンド。日本からの直行便はないので、ロシアや中国の諸都市などを経由する。格安航空券で10万円前後から。ツアーは4泊6日12万円前後から。

サマルカンドはタシケントの南西約250kmで、バスや乗り合いタクシーで4~6時間、電車で2.5~4時間ほど。

■周辺の世界遺産
サマルカンドの南約70kmにティムールの生誕地である「シャフリサブス歴史地区」があり、サマルカンドの青に対して「緑の都」と呼ばれている。西220kmにはサマルカンドとともにシルクロード随一の美都といわれた「ブハラ歴史地区」があり、さらに北西400kmほどにヒヴァの「イチャン・カラ」がある。

実はタジキスタンの世界遺産「サラズムの遺跡」が南東50kmほどと近いのだが、こちらの国境は閉じていることが多い。また、タジキスタン国境には自然遺産「西天山」が広がっている。

サマルカンドのベストシーズン

ウルグ・ベク・マドラサのイーワーンの装飾

ウルグ・ベク・マドラサのイーワーンの装飾。中央はムカルナス、上部は聖典『コーラン』のアラビア語を装飾化したイスラミック・カリグラフィー

季節は日本と同じ。夏の平均最高気温は34度、同最低気温は18度で気温差が大きく、日中は東京よりも気温が高いが、夜は東京より涼しくなる。冬の平均最高気温は6度で同最低気温は-4度。真冬については東京より3~5度以上冷え込む。寒暖差が大きく、夏に40度を超えることもあれば、冬-10度以下に落ち込むこともある。

夏は非常に乾燥しており、6~8月にはほとんど雨が降らない。雨が多いのは12~5月でピークは2~3月。といっても、降水量自体は東京の冬程度で多くはない。

ベストシーズンは、草原が野花で覆われる春と、美味しい食材が増える秋。

世界遺産基本データ&リンク

シャーヒ・ズィンダ廟群最奥部

シャーヒ・ズィンダ廟群最奥部、左からトゥマン・アカ廟、フジャ・アフマッド廟、クトゥルグ・アカ廟

ビビハニム・モスク

かつて中央アジア最大を誇ったビビハニム・モスク

【世界遺産基本データ】
登録名称:サマルカンド - 文化交差路
Samarkand - Crossroad of Cultures
国名:ウズベキスタン
登録年と登録基準:2001年、文化遺産(i)(ii)(iv)

【関連サイト】
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます