“偶然”ではなく“必然”だった!?
ミュージカルとの出会い
『1789』写真提供:東宝演劇部
「大雑把にこういう業界の仕事がしたいなとおもっていたくらいで、明確な目標は持たずに東京に出てきました。当時はマネジャーからも“結局、何がやりたいの?将来の設計を立てなさい”とよく言われていたんですけど、そういうビジョンって、年齢を重ねてこそわかってくるものなのですよね。ひとくちに芸能界と言ってもいろんなジャンルがあるから、自分の可能性を知るためにも、できるだけいろいろなことにチャレンジしたいと思っていたし、来るものは何でも拒まずやっていました。そうした過程で、自分ができることの範囲であったり、やりたいものが見つかってきたんです。へたくそだったけど楽器も練習したし、体固いくせに(笑)ダンス教室に通ったり、ボーカルトレーニングもいろいろやっていましたね」
――憧れの人はいらっしゃいましたか?
「今も好きですが、福山雅治さんですね。歌も俳優もされていて、二足の草鞋っていいなと憧れていましたが、実際それをやってみるとめちゃめちゃ大変で(笑)。作品を生み出しながら、体調管理して継続してゆくことのなんと難しいことか。昔は何もわからなかったので、無邪気に“福山さんみたいになりたい”と思っていました」
――そんななかで、次第にご自身のなかで“俳優”の比重が大きくなってきたのですね。
「なってきました。ずっとWaTというデュオをやっていて、ストリートライブをやってインディーズからメジャーへと少しずつ成長して、俳優と二足の草鞋でやってきたのですが、役者の仕事が増える中で音楽がおろそかになってしまい、新曲も出せなくてファンの方々にも申し訳ない、という思いが自分たちの中で大きくなりすぎたので、30の節目に解散という形をとらせていただいたんです」
――そして13年、『メリリー・ウィー・ロール・アロング(舞台写真はこちら)』でミュージカル初出演。ミュージカルとの出会いは偶然だったのでしょうか、必然でしょうか?
「何なのでしょう……。実は『メリリー』まで演出の宮本亜門さんとはお会いしたこともなかったので、なぜ僕にお話をいただいたのか、思い返せば、不思議です(笑)。初ミュージカルはとにかくソンドハイムの音楽が難しくて、音が一個ずれると掛け合いとかが大変なことになる。無知だったからこそ夢中で走り抜けられたのかな、と思います。キャストが全員20代で、ミュージカルだからと身構えることなく、みんなで刺激を受け合いながら作り上げていけましたね。今、振り返るとよくできたな、と身震いするけれど、ミュージカルとの出会いとして、すごくよかったのかなと思います」
――最初が大変だっただけに、その後だんだん楽になってきましたか?
「なってないです(笑)。楽曲は、ほとんどが難しいんです。今年はロックっぽい楽曲のミュージカルが多かったからまだとっつきやすかったけれど、でも技術的な部分だとか、ハイキーだったり、ただ(声を張って)歌っているだけでは公演期間もたないぞというミュージカルも増えてきて、いい積み重ね方はしてるなと思います」
――個人的に鮮烈だったのが、『デスノート』のL役です。漫画のキャラクターのビジュアルを踏襲されているばかりでなく、その前傾姿勢のまま、相当の声量を必要とするフランク・ワイルドホーンの楽曲を歌いあげていらっしゃり、日生劇場の広い舞台空間を飲み込まんばかりでした。
『デスノート』初演より(写真提供:ホリプロ)。17年の再演では再びLを演じる。(詳細はこちら)
僕はふだん役を引きずらないタイプなのに、あの時は稽古が終わっても役に入っちゃっていましたね。人に会いたくなくなって、家でも暗い部屋で、椅子にあのポーズでずっと座っていたり。飲みに行ったりもせず、どんどん痩せて目の下にクマもできたし、ずっとLのことを考えていました。来年の再演では、またそんなふうになってしまうかもしれません(笑)」
――そして今年は『1789』の主人公ロナン役で、帝劇デビューを果たしました。
「『1789』では初めてダブルキャストを経験しました。ダブルってこういう感じなんだな、貴重な体験だなと思いながら稽古していましたね。(ダブルキャストの)加藤君の稽古の時? 僕はガン見していましたよ(笑)。お互いに稽古を見て思ったことを言い合ったりして、それでも本番ではそれぞれのロナン像が出来上がったのが、新鮮な体験でした」
――もう一本、この夏を盛り上げてくれたのが『キンキーブーツ』。工場存続のために奮闘する靴工場の跡取り息子チャーリー役として、物語を力強く牽引していました。
『キンキーブーツ』写真提供:フジテレビジョン
――チャーリー役で驚いたのが、後半、口論のシーンが三つも連続していたこと。婚約者、工場員、そしてローラと異なる相手に対して、チャーリーはそれぞれものすごい勢いで感情をぶつけていました。日本のミュージカルでこういう作り方をする作品はまずないと思いますし、演じる小池さんのタフさにも驚きました。
「あれは……やばかったですね(笑)。確かに日本のミュージカルではありえない。一日二回公演の日は、マジでヤバかったです。はじめて本読みの稽古をしたとき、僕、最後まで声が持たなかったんですよ。最後、声がかすかすになっちゃって、歌も歌えなくなって“大丈夫かな?”と(笑)。それでも最終的に演じ切ることが出来たのは、全体的な声の消費バランスがとれるようになったからです。ここはみんなと一緒に歌うから抑えめにするとか、ここからはちゃんと出すとか、技術的な調整ができるようになりました」
――ウエンツ瑛士さんも最近、ミュージカルで活躍を見せています。
「面白そうなものばかり出ているな、と思いながら観に行っていますが、毎回歌い方が変わっていたりして、進化していると感じますね。ライバルという感覚はほとんどないです。確かに彼が頑張っているとこちらも刺激はされるけれど、普通に彼の成長と作品を楽しみに観に行って、終演後に“あの曲、難しくなかった?”“あれはどうやって練習したの?”と聞いたり。ほとんど身内、家族の感覚です(笑)」
――映像のお仕事の方でもご多忙かと思いますが、今後どの程度ミュージカルへの出演を考えていらっしゃいますか?
「出られるものなら、ミュージカルにはめっちゃ出たいです。もちろんストレートプレイもやりたいけれど、ミュージカルは“全部ができる”というか、お芝居も歌も出来る。生の舞台で、自分が芯のシーンでは、全員のお客様に注目していただける。いわば視聴率100パーセント状態なわけで(笑)、こんなに素敵な仕事はないです。課題も次々と見つかるし、まずは自分の辿り着きたいところまで力をつけていって、そこから次を考えたいです」
――“全部ができる”ということはすなわち、相当の訓練も要するということですよね。だからこそミュージカルに魅力を覚える、というのは以前、城田優さんもおっしゃっていましたが、“面倒なことはしたくない”という若い世代が多い中で、小池さんの言葉は心強く響きます。
「そうですか?優とは同級生ですが、二人ともザ・昭和の体育会系。茨の道は大好きですよ(笑)。だって“楽な仕事”って、面白くないじゃないですか。こうやりたい、こうなりたいというものがどんどん見つかるのが、ミュージカルの面白さ。これからもいつでもミュージカルに取り組めるように、体を鍛えておきたいし、喉も動かしておこうと思っています。
最終的に目指すもの、ですか? そうですね、どこまで自分の体が持つかはわからないけど、『ミス・サイゴン』の市村正親さんのキレッキレのお芝居を観たりすると、“いつまでも動ける人”でありたい、と思いますね。舞台って、体が動かないと立てないし、ストイックな体調管理がとても重要です。表には出てこないそういう部分を大事にして、いつまでも当たり前に、人の前に立てる自分でありたい、と思っています」
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“大雑把に”芸能界での活躍を夢見て上京、様々な経験を経て、ひょんなことからミュージカルに出会ったという小池さん。しかし地道な準備と“華”とを同時に要するミュージカルは、思いのほか彼にフィットしていたようです。“いつまでも舞台に立てるように”と今や長期的ビジョンでミュージカルに対峙している小池さん。まずは“名作”と呼ばれるミュージカル『キャバレー』でどんな実力と煌めきを見せてくれるか、17年の幕開けが楽しみです。
*公演情報*
ミュージカル『キャバレー』17年1月11~22日=EXシアター六本木、1月26~29日=KAAT神奈川芸術劇場 ホール、2月4~5日=フェスティバルホール、2月10~12日=仙台サンプラザホール、2月18~19日=刈谷市総合文化センター大ホール、2月24~26日=福岡サンパレスホール