着物で歩いて楽しいのは
ヒューマンスケールな街
由比ガ浜大通りからかいひん荘へ向かう細い路地を抜けるといきなり現れたのが江ノ電の線路。通常の電車と違い、生活に密着した路線であることが分かる
浅草、
谷根千などの下町に
鎌倉、
神楽坂など、着物姿が似合うイメージのある街を並べてみると、共通項があることが分かります。それは歩いて回れる範囲の中に必要な施設、観光的に言えば見所などがコンパクトにまとまった街、ヒューマンスケールな街ということ。人は歩いて移動するものだった時代にその原型が作られ、そのサイズにあった街という意味です。つくばのように、車で移動することを前提に作られた街と比べてみると、スケールの違いがお分かりいただけるでしょう。
着物で歩くと、
段差、トイレが気になる
由比ガ浜大通りにあった公衆トイレ。鎌倉では主な観光スポットにはトイレが用意されているため、安心して歩ける。ただし、それ以外の場所を歩くときには注意が必要
また、着物を歩くと街を見る目が変わります。代表的なものが段差とトイレ。特に女性は大股では歩きにくくなりますし、あまり汚い場所には行きたくないと思うようになります。自然、街のバリアフリー度などをチェックすることになるわけです。食事や買い物も同様で、どうせなら、ちょっとしゃれた、きれいな店がある街のほうが散策も楽しいはずです。
着物に似合うのは
江戸~昭和初期の風景
散歩の最後にコーヒーブレイクしたのは古い一軒家を改装した、雰囲気抜群のお店。元々はお蕎麦屋さんでカフェも併設している
そこで今回、着物散歩の行き先に選んだのは鎌倉。海と山に囲まれた街なので、段差は少ないとは言えませんが、ハイキングコースを選ばなければOK。観光スポットにはトイレも設置されていますし、しゃれた店も選び放題。着物姿で写真を撮った時に絵になる江戸~昭和初期くらいまでの寺社、洋館などにも事欠きません。
御成通りにある安保(あんぼう)歯科医院の診察室でポーズを取る増田さんこと下関マグロさん。建物の雰囲気とばっちり合っています!
参加したのは
散歩ガイドの増田剛己(下関マグロ)さん、
着物・着付けガイドの黒柳聡子さん、
雑貨ガイドの江沢香織さん。増田さんは住まい選びの際、必ずその街を散歩してから決めるそうで「しかも一度ではなく、時間帯を変えながら何度も歩いてみることをお勧めしますね」と私以上に街選びのプロ。どうして着物にはまるようになったかは黒柳さんの記事にアップされますから、男性諸氏はぜひご一読を。そういう観点もあったか!と思われるはずです。また、当日のコースは
増田さんの記事に紹介されますので、歩いてみたいと思った方は参考になさってください。
着物姿でのポーズが絵になっている着物・着付けガイドの黒柳聡子さん。せっかく着物で散歩に行くならキレイに撮られるノウハウも身に着けたいものです
黒柳さんには着物で街歩きの際のポイントを教えていただきました。「いつもよりも丈は短めに」が鉄則で、それ以外の詳細は
黒柳さんの記事で。個人的には下駄よりも草履のほうが段差のある街は歩きやすいように思いますが、これは慣れの問題もあるかもしれません。個人的には途中で帯締めがおかしなことになっていたのに気付かず、ちょっとトホホな写真になってしまったのが残念……。
ランチは江沢さん(もちろん、写真左)に紹介していただいたお店で野菜中心のヘルシーなお膳を。同じメニューでも一人ひとり器が違い、目でも楽しませてくれるお店でした
江沢さんは御成通りの器屋さんを取材。街を歩いてみて器屋さん、雑貨屋さんが多い街は、生活にこだわる人が多い街とも言えるはずですから、鎌倉はその意味でも住んでみたい人が多いのが分かる街のひとつです。
古都と洋館、鎌倉の2つの顔を
楽しむ散歩
最初に訪れた本覚寺の名物は2センチほどの小さなにぎり福というお守り。愛、福、学、財、健と一文字ずつ書かれており、自分の願いに合わせて選ぶのですが、さて、あなただったらどれ?手書きで顔そのものもぞれぞれ違います
当日のコースは午前中に本覚寺、
鶴岡八幡宮など古都を思わせる鎌倉駅近くを散策、鎌倉野菜のランチを小町通りにある人気店「
なると屋+典座」さんでいただいてから、午後は由比ガ浜大通り周辺の洋館を眺めて歩くというもの。鎌倉には古都のイメージが強くありますが、もうひとつ、明治以降の別荘地としての顔もあり、由比ガ浜~長谷にかけてはお金持ちの別荘だった建物が多く残されています。
由比ガ浜大通りにある鎌倉彫の寸松堂さん。寺院建築、城郭建築に洋風も入り混じるという不思議な建物
有名なものとしては現在
鎌倉文学館として公開されている、加賀藩の前田家の建物がありますが、それ以外にもクラシカルな洋館が多いのです。ただ、公開されていない建物も多く、外から眺めるだけしかないのが残念なところ。鎌倉市ではそうした建物をまとめたリーフレット
「鎌倉の景観重要建築物」を作っていますから、建物散歩の際には入手しておくと便利です。
鶴岡八幡宮、小町通り、長谷周辺に江ノ島は混雑スポットなので、ゆっくり散歩と思ったらそれ以外の場所を選ぶほうが無難かも
最後に着物で鎌倉その他の観光地を散歩をする際に注意したいのは混雑度。特に女性の場合、通勤電車で着物姿は辛いものがありますし、修学旅行生などで一杯の寺社では裾を踏まれたり、ソフトクリームを押し当てられたり(!)という危険もあります。それにそもそも、混雑している場所では雰囲気を味わう散歩自体が難しくなりますから、平日の比較的空いている日を選ぶなど、工夫が必要だろうと思います。でも、それさえ注意すれば、着物で散歩は視点が変わり、楽しいものです。着物をお召しになるようになったら、ぜひ、出かけてみてください。