北翔海莉 星組トップスターへ
(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ
『THE MERRY WIDOW』の楽しさを思い出したのが『こうもり』。華やかなコスチューム・プレイ、大勢で歌う軽快な「シャンパンの歌」などの歌曲、個性的な人物たちが織り成す喜歌劇は、ただただ楽しく、これこそ宝塚。「このスターにぴったり」な作品ではなく、「このスターにしかできない」作品でした。
最後の役は、「人斬り半次郎」の異名で知られた桐野利秋の半生を描いた『桜華に舞え』。
真心と勇気と義を持って、国のために命を捧げた最後のサムライ、桐野利秋は、宝塚にすべてを捧げた北翔海莉さんそのもの。発するすべての気持ちよさ、風格、表現力の豊かさは絶品でした。
北翔海莉さんはチャレンジ精神旺盛な人で、『THE SECOND LIFE』や『THE ENTERTAINER!』でピアノの弾き語り、『想夫恋』で龍笛、『風の次郎吉-大江戸夜飛翔-』では三味線、またライブではお得意のSAXを披露し、観客を驚かせ、感動させました。
(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ
とりわけ原語でのジャズは最高で、『THE ENTERTAINER!』やライブで歌った「Take Five」のなめらかさとリズム感には酔いしれました。
また、アドリブの天才でもありました。伝説となったのが『オーシャンズ11』のジョンソン医師(106歳!)で、そのセンスと間の良さには脱帽。
「なぜそこまで頑張る?」と思ってしまう弾き語りもアドリブも至芸。きっと「できるから」ではなく、「観客を喜ばせ楽しませるため」のものだったに違いありません。
そして、観客へはもちろん、共演者やスタッフ、関わる人たちすべてへの感謝の姿も忘れられません。「先生」という肩書を持つ演出家などや、衣装部さんのように身近にいて「○○さん」と呼べるスタッフだけではなく、名前を知らない様々なポジションのスタッフに対しても、変わらぬ思いで感謝を示していた北翔さん。そうなるにはおそらく、常に多くのものを見て感じ、想像して、気遣って、心を動かしていたんだなぁ……と。トップスターなら、もう少し自分本位の我儘でも許されるのに、決してそうはならなかった。
彼女の舞台がいつも深く繊細で温かかったのは、自身の人柄が多いに影響したからだと痛感します。
トップスターを形容する言葉によく「孤高の」や「頂点に立つ」などとありますが、北翔海莉さんには似合いません。実力は「頂点」でも、実る稲穂のように謙虚でいた……。
演じることにおいては、どんなに上級生になっても、決して雰囲気で流さない。誤魔化さない。一言ずつ一音ずつ一歩ずつ大切に、演じ歌い踊ってきた……。
それが「品格のある舞台人」だということを、多くの生徒さんが知り、薫陶を受けたことでしょう。
宝塚音楽学校に最下位で入学し、揺るがぬ想いで頑張ってきた北翔海莉さんは、「この作品に北翔海莉がいて良かった」「北翔海莉が主演で良かった」と実感できるレベルの高い、そして観ていて楽しい作品を、いつも観させてくれました。
最高のエンターティナーでした。