宝塚ファン/宝塚歌劇団 トップスターの変遷

星組トップスター・北翔海莉、妃海風―退団(3ページ目)

2016年11月20日、星組トップスター・北翔海莉さん、トップ娘役・妃海風さんが、グランステージ『桜華に舞え』-SAMURAI The FINAL-、ロマンチック・レビュー『ロマンス!!(Romance)』の千秋楽(東京宝塚劇場)に宝塚歌劇団を退団しました。

桜木 星子

執筆者:桜木 星子

宝塚ファンガイド

北翔海莉 星組トップスターへ

『ガイズ&ドールズ』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

本公演でのお披露目は、初演は大地真央さん、再演は紫吹淳さんが主演した『ガイズ&ドールズ』のスカイ。北翔さんの人柄が出たのか、ギャンブラーでありながら、堅物な女性サラへの優しさが全面にあふれる、包容力ある大人の男に仕上がりました。スーツの着こなし、ソフト帽の扱い方の美しさも、強く印象に残っています。

『THE MERRY WIDOW』の楽しさを思い出したのが『こうもり』。華やかなコスチューム・プレイ、大勢で歌う軽快な「シャンパンの歌」などの歌曲、個性的な人物たちが織り成す喜歌劇は、ただただ楽しく、これこそ宝塚。「このスターにぴったり」な作品ではなく、「このスターにしかできない」作品でした。

最後の役は、「人斬り半次郎」の異名で知られた桐野利秋の半生を描いた『桜華に舞え』。
真心と勇気と義を持って、国のために命を捧げた最後のサムライ、桐野利秋は、宝塚にすべてを捧げた北翔海莉さんそのもの。発するすべての気持ちよさ、風格、表現力の豊かさは絶品でした。

北翔海莉さんはチャレンジ精神旺盛な人で、『THE SECOND LIFE』や『THE ENTERTAINER!』でピアノの弾き語り、『想夫恋』で龍笛、『風の次郎吉-大江戸夜飛翔-』では三味線、またライブではお得意のSAXを披露し、観客を驚かせ、感動させました。

『こうもり』

(C)宝塚歌劇団 (C)宝塚クリエイティブアーツ

そうして楽器を弾きこなす北翔さん自身が「楽器」。伸びやかで張りがあり、響きの深い声で、宝塚やミュージカルのナンバーはもちろん、難解なオペラやジャズ、小唄に至るまで、どんなジャンルも歌いこなす、宝塚の枠を超えた歌唱力の持ち主でした。
とりわけ原語でのジャズは最高で、『THE ENTERTAINER!』やライブで歌った「Take Five」のなめらかさとリズム感には酔いしれました。

また、アドリブの天才でもありました。伝説となったのが『オーシャンズ11』のジョンソン医師(106歳!)で、そのセンスと間の良さには脱帽。
「なぜそこまで頑張る?」と思ってしまう弾き語りもアドリブも至芸。きっと「できるから」ではなく、「観客を喜ばせ楽しませるため」のものだったに違いありません。

そして、観客へはもちろん、共演者やスタッフ、関わる人たちすべてへの感謝の姿も忘れられません。「先生」という肩書を持つ演出家などや、衣装部さんのように身近にいて「○○さん」と呼べるスタッフだけではなく、名前を知らない様々なポジションのスタッフに対しても、変わらぬ思いで感謝を示していた北翔さん。そうなるにはおそらく、常に多くのものを見て感じ、想像して、気遣って、心を動かしていたんだなぁ……と。トップスターなら、もう少し自分本位の我儘でも許されるのに、決してそうはならなかった。

彼女の舞台がいつも深く繊細で温かかったのは、自身の人柄が多いに影響したからだと痛感します。

トップスターを形容する言葉によく「孤高の」や「頂点に立つ」などとありますが、北翔海莉さんには似合いません。実力は「頂点」でも、実る稲穂のように謙虚でいた……。

演じることにおいては、どんなに上級生になっても、決して雰囲気で流さない。誤魔化さない。一言ずつ一音ずつ一歩ずつ大切に、演じ歌い踊ってきた……。
それが「品格のある舞台人」だということを、多くの生徒さんが知り、薫陶を受けたことでしょう。

宝塚音楽学校に最下位で入学し、揺るがぬ想いで頑張ってきた北翔海莉さんは、「この作品に北翔海莉がいて良かった」「北翔海莉が主演で良かった」と実感できるレベルの高い、そして観ていて楽しい作品を、いつも観させてくれました。

最高のエンターティナーでした。

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