ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

平野綾、溢れる思いを歌に乗せ【気になる新星vol.24】(2ページ目)

声優として活躍の傍ら、『レディ・べス』などの大型ミュージカルで近年立て続けに大役を演じ、目の離せない若手女優、平野綾さん。今年は休暇をとってNYに長期滞在、復帰第一作としてミュージカル『マーダー・バラッド』に出演します。官能的で濃厚この上ない作品に懸ける胸中、そして彼女の歩みと夢をじっくり伺います!*観劇レポートを掲載しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

幼いころから抱き続けた、ミュージカルへの憧れ

『レディ・べス』写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』写真提供:東宝演劇部

――さて、ここからは平野さんの“これまで”を伺います。平野さんは小学生の頃に児童劇団に入ったそうですが、きっかけは?

「もともとミュージカルが大好きで、その勉強がしたかったんです。ミュージカルに出会ったのは保育園児の頃で、当時短い間NYに住んでいたので、ブロードウェイで舞台を観たり、(フロリダの)ディズニーワールドでショーを観たことは今も覚えています。私が“ミニーちゃんになりたい”と言ったり、ディズニー・プリンセスの歌を英語で歌う姿を見て、両親はそのころから“この子はこういう世界に行きたいんだな”と思ったそうです。帰国後、アマチュアで8歳の時にミュージカルに参加して、プロに近づきたいと思って劇団に入り、歌やダンスやお芝居を勉強しました」

――(『レ・ミゼラブル』の)リトル・コゼットを目指していた、とか?

「でも私、大きかったんです。小6にして既に今と同じ身長で、(子役がたくさん出てくる)『アニー』も一番大きい子の役でもギリギリで、なかなかチャンスがありませんでした。でもいろんなお仕事をさせていただいて、それぞれの現場で培った技術を今、ミュージカルのお仕事で使うことができて、結果的にはこれでよかったと思います。小さい頃は(チャンスをもらっても)もしかしたらできなかったかもしれない、と」
『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

『モーツァルト!』写真提供:東宝演劇部

――子役から、まずは声優への扉が開けたのですね。

「はじめはCMのお仕事が多くて、それからアイドルユニットもやっていました。子役としてドラマの語りのお仕事をいただいた時に、“声が面白いからアニメやったら?”と言っていただき、オーディションを受けるようになったんです」

声優という“匠の世界”で技術を磨く

――06年にTVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』でヒロインを担当、一躍声優としてブレイクしたのですね。声優のお仕事の面白さとは?

「二次元の世界に(自分の声で)立体感を出せるし、時代も性別も全部超えられる。共演者の皆さんが匠のような技術を駆使されていて、本当に面白い世界だなと感じます。今、2.5次元ミュージカルが人気があったり、“クール・ジャパン”として海外でも日本のアニメが人気だったりしますが、基本的に、声優の皆さんは“匠”なんです」

――声優さんは声色もいろいろ使い分けますよね。自分でどんどん開発されていくのですか?

「私は特に声優の専門学校に通っていたわけではないので、とにかく先輩たちの様子を見て、学んで、その技術を盗ませていただいていました。

逆に声優の難しいところというと、“キャラクター以上”になってはいけない、というところ。そこにちょっとでも三次元が露出すると、世界の均衡が崩れてしまうんです。平面だけどすごく奥行きのある、絶妙な世界なんですよね」

――最近、声優の方がミュージカルに続々進出されていますが、そこにはどんな理由があると思いますか?

「先日も歌稽古で“今、声優の技術使ったでしょう?”と中川さんに指摘されたのですが、声優をやっていると、細かな心理描写を声で説明できるんです。それがマイナスになることもありますけれど、ちょっとしたニュアンスを出すのは、声優さんはすごく巧い。一言一言にこだわって表現している点が評価していただけているのかな、と思います」

――平野さんにとっての初ミュージカルは、11年の『嵐が丘』。ヒロインのキャサリン役でした。

「あの時はそれこそ体当たりで、今できることをせいいっぱいやろうと必死でした。エミリー・ブロンテの原作が大好きだったのですが、私の出演したミュージカル版はキャサリンが亡くなるところまでだったので、その後の展開も想像していただけるといいなあと思いながら、ラストシーンを演じていました。でも技術的な課題がいっぱい露呈して、次は頑張るぞ!というところで千秋楽を迎えました」

――先日、(やはり声優でもある)入野自由さんにインタビューした際、自分たちは台詞では勝負できるけど、そこにどう体をつけていくかが課題、とおっしゃっていましたが…。

「そうなんです、声優は(マイクに向かってしゃべるので)一歩も動いちゃいけないので、舞台に立つと体が……ということになってしまう(笑)。入野君も、宮野(真守)さんも長い付き合いで、芸歴も私よりずっと先輩。すごく尊敬する仲間です。声優でもある私たちにとっては、どう自分を崩して開放するか、心だけでなく動きも伴ってそれを見せていくか、というのが課題です」

憧れの“レ・ミゼ”に出演!

――そして次のミュージカルが13年の『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役。名作中の名作、その大役です。
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

「そうなんです……。『嵐が丘』で山崎育三郎さんと共演していた時に“綾ちゃん、レミゼ出なよ”と言われたことがありまして。『レ・ミゼラブル』のオーディションの時期だったのでエントリーしたら、事務所にコゼット役で受けるように言われたんです。私の中では(コゼットは)柄じゃないなと思いつつ“可憐にやるぞ!”と思ってオーディションに臨んだら、演出家に“君はエポニーヌでしょ。ちょっと『オン・マイ・オウン』歌ってみて”と言われて(笑)。そこで歌ったら合格、ということで、あまりにもとんとん拍子で自分でも信じられませんでした。

この時の『レ・ミゼラブル』は新演出になって初めての公演で、カンパニーのみんなで “生みの苦しみ”がありました。日本で根付いている“レ・ミゼ”の印象というものをリスペクトしつつも、いい意味でそれを崩して、新しいものを打ち出していく最初の公演に関わらせていただいたのは、すごくありがたいことでした。結果的にはこれが今の『レ・ミゼラブル』なんだなと思えましたね。先日、NYで観たら、演出は一緒なのに捉え方が全然違うところがあったりして、(国民性の違いが)面白かったです」

『レディ・べス』で経験した、“涙が出るほどの喜び”

――その次が『レディ・べス』。タイトルロールのエリザベス(後の1世)役です。
『レディ・べス』写真提供:東宝演劇部

『レディ・べス』写真提供:東宝演劇部

「エポニーヌからいきなり女王という位に行ってしまったので、稽古では下から見上げるのではなく“上から見る人間なんだよ”と言われ、根本を変えなきゃ、と必死でした。

オーディションでは課題曲が『モーツァルト!』の「ダンスはやめられない」でした。当時はまだ『レディ・べス』の楽曲に訳詞がついていなかったのもありますが、そこで(同じ作品でも男爵夫人が歌う)「星から降る金」ではなく(コンスタンツェの)「ダンスはやめられない」が課題曲というところに、意味があるんだろうと思いました。作者のリーヴァイさん、クンツェさんの生み出した、自立して意思を持った女性を意識して歌ったのですが、そうしたら、『レディ・べス』のオーディション結果が出る前にご連絡がありまして、そのあと上演される『モーツァルト!』のコンスタンツェ役に決まりました、というのです。まったく予期していなかったので、とてもびっくりしました」

――『レディ・べス』のべスは少女から大人への転換期の切ないお話ですが、ダブルキャストの花總まりさんが大人の女性の視点、そして平野さんは逆の視点から演じていらっしゃったのかなと想像します。

「千秋楽の時に共演者の方に言われて驚いたのが、本番が始まったころの私と花(總)さんのべス像が、千秋楽では真逆になっていたそうなんです。私は高校生の頃から花さんの大ファンで、そんな大好きな方とダブルでやらせていただけたのみならず、役のご相談をさせていただいているうち、花さんから“私たち、すごくいい感じでお互いが影響し合ってるね”と言っていただけて…。泣きそうに嬉しかったです」

――お二人が溶け合った、という感じなのでしょうね。ダブルキャストの良さですね。来年再演がありますが、抱負はありますか?

「前回は初の主演が帝劇ということで、わけもわからず、必死にやっていましたが、場数を踏んで少しは余裕が出てきたと思うので、これからはもう少し客観的にみられるようにしたいです。私は演じる役に入り込んでしまう傾向にあるので、もう少し俯瞰から見られるように。あの時の年齢では表現できなかったものだとか、女王としての貫禄をもっと出せたら、と思っています」

――そして平野さんと言えば“福田雄一さん作品”女優でもあります。どんな球が来ても返せる凄い方、というイメージが(笑)。
『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇部

『エドウィン・ドルードの謎』写真提供:東宝演劇部

「ありがとうございます(笑)。福田さん作品には映像にも出演させていただいているのですが、福田さんが“こんな感じで”とおっしゃると、福田カンパニーの皆さんは簡単に応えられるんですよ。はじめは何をやったらいいのかさっぱりわからなくて、とりあえず必死にやっていたら爆笑していただけるようになりました」

――舞台ではいたって“余裕”に見えますが……。

「『モンティ・パイソンのSPAMALOT』の時は、歌担当的な役回りもあってできることが限られていましたが、『エドウィン・ドルードの謎』の時にはちょっと遊んでしまいましたね。あの時は、福田さん作品へのご出演が初めての方が多くて、“福田組”としては率先して遊ばないと、と思いまして。

福田さんはドラマだと、アドリブでどなたかが言ったことにみんなが思わず吹き出すような瞬間をそのまま使うのがお好きで、舞台でもそういう雰囲気を出したいんです。だから舞台も毎回がプレゼンのように、お互いにいろいろなものを出し合って、“この人何を持って来るかな?”“おお、これ来た~!”みたいな感じで、みんな楽しみながらやっていました」

ルールに縛られず、自由に、けれど着実に前進してゆきたい

――何作品か出演された今、改めてミュージカルのどんなところに魅力を感じますか?

「ミュージカルは小さいころからの夢で、本当に今でも夢の世界です。ほんの一瞬でも夢を観させてくれるし、自分の世界と錯覚させてくれるし、自分が現実には経験できないようなことを登場人物がやってくれて、そこに自分を投影できる。そして溢れそうな、言葉にできない感情を歌によって表現してくれるのがミュージカルなのかな、と思います」

――今後、どんな表現者にと思っていらっしゃいますか?

「いろんなジャンルのお仕事をさせていただく中で、“日本で全部できるのは平野綾だけだよね”と言われるような存在を目指したいです。それぞれのジャンルで極めつつ、クオリティを残しつつも、オールジャンルいけるよう、いろいろ打ち出していけたら。そのために今年、4か月留学したという部分もあります。

NYでは、そもそもの自分の在り方を改めて考えることができました。『マーダー・バラッド』のサラともちょっとかぶるのですが、今までは自分で自分の範囲を決めていた部分があって、 “平野綾はこうしなくちゃいけないんだ”と知らず知らずできていたルールに縛られていたけれど、それにとらわれずに生きていいんだ、と。今は、よりエネルギーを前向きな方向に向けられるようになってきました。

NYでは同じ人間と思えないような(笑)、歌もダンスも演技も全てに秀でた俳優さんばかり見てきて、彼らはオーディションでは分厚い譜面を持参して“この中のどれでも歌えます”と言えると聞き、私もそれまで歌ったことのなかったジャズやR&Bを勉強するようになりました。もっともっと自分を広げていきたいですね」

*****
お会いしてすぐ、筆者の持ち物に注目、ごくさりげない口調で褒めてくれた平野さん。優しい方であると同時に、インタビューも一つの“共同作業”であることを熟知し、雰囲気作りができる聡明な方であることがうかがえます。これまで数々の大役に体当たりし、成果を上げつつも、あえて若手のうちに休暇を取り、NYで自分を見つめ直した、思い切りの良さ。名うてのスターたちに囲まれ、これまでにない官能的な世界を演じる今回の『マーダー・バラッド』でも、きっと新たな魅力を見せてくれるのでは、そしてゆくゆく、“オールラウンダーの役者に”という大きな目標にも確実に近づいていってくれるのでは……。そんな期待がいや増すインタビューとなりました。

*公演情報*『ミュージカル★マーダー・バラッド』2016年11月11~27日=天王洲銀河劇場
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