学習・勉強法

意外と知られていない大学入試センター試験廃止の真相

文部科学省が進めている大学入試改革。単に大学入試のあり方が問われているだけでなく、大学のあり方や学びのあり方、果ては社会構造の変化までも意識した社会のあり方までもが問われる大改革なのです。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

大学入試センター試験の廃止。単純にマーク式の問題が記述式に変わるという形式の変更にとどまらず、もっと大きな変革を迎えているのです。意外と知られていないその真相とは?

センター試験廃止でどうなる大学入試?

2020年度から大学入試センター試験が廃止され、新たな試験「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が導入されることが決まっています。また、高校2、3年生を対象として実施される「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は、高校で習得した基礎的な内容を測るもので2019年度から導入の予定です。

前者は、東大や京大といった旧帝国大学、早稲田大や慶応義塾大といったいわゆる難関大学と呼ばれる大学の入学者を対象としたもので、後者は、高校を卒業する者を対象としていると考えられます。

こうした改革を行う背景にあるのは、まず、現在の大学入試制度の限界です。これからの時代、知識詰め込み型の勉強だけで対応できる入試ではなく、思考力を問う入試のあり方が問われます。しかし、現在のマーク式の大学入試センター試験ではそれに対応するのが難しいのです。

また、私立大学の学生の約半数が推薦入試と呼ばれる入試を経て入学していることも問題です。推薦というと優秀な学生ばかりが集まるようなイメージがありますが、実際は大学の定員を埋めるための方便として使われています。その結果、実質無試験でパスできてしまい、基礎基本の学力に課題のある学生がキャンパスにあふれている、そんな大学も珍しくなくなりました。

こうした入試の問題点もさることながら、実はもっと重要なことが背景にあります。

キーワードはGとL

まず、新しい大学入試の背景にあるのは、2020年度から施行される新しい学習指導要領です。そこでは、「社会に開かれた教育課程」を理念として大きく掲げられています。これは、学校を取り巻く様々な人や組織と連携して、社会とつながった教育のあり方を目指すことを意味します。ごく簡単に言ってしまえば、「受験のための勉強ではなく、社会とつながりの中で社会人になるための勉強を重視する」ということです。

そこで、まず文部科学省は、スーパーグローバル大学として、東京大学を始めトップ大学を指定しています。また、それに続く大学としてグローバル大学牽引型と呼ばれる大学も指定しています(リンク→スーパーグローバル大学創成支援)。

文科省がねらいとしているのは、大学の国際化を通して、GoogleやAppleのように世界で通用するグローバルリーダーの育成にあるのです。そこで、グローバルのGが一つのキーワードとなるでしょう。

では、そうでない大学はどうあるべきなのでしょうか。

日本経済を支えているのは大企業と思われがちですが、少なくとも製造業にとっては地方の町工場の技術なくしてモノづくりはありえません。また、現在、地方の産業の中心はサービス業ですが、これら地方経済の発展なくして日本経済の成長はありえないのです。

また、少子高齢化にともない人口減少社会や、地方の過疎化・都市部への集中という二極化の問題と、今後の日本の課題は山積みです。

こうした問題を解消するには、いかに地方を元気にするかが重要になってきます。この地方を活性化するのに欠かせないのが、もう一つのキーワードL=ローカルな視点です。

同じサービス業でもグローバルな視点とローカルな視点が必要

例えば、同じバス会社でも観光バスと地方の路線バスでは、戦略は異なります。観光バスは外国人観光客をいかに呼び寄せ、売り上げ増につなげるかがポイントです。そういう点でグローバルな視点が必要です。

一方で、地方の路線バスは、そのようなグローバルな視点はあまり重要ではありません。地域のインフラとして、地域に密着したサービスの提供が重要なのです。そういう意味でローカルな視点が重要となってきます。

こうした社会構造に合わせて、大学のあり方もグローバルな大学とローカルな大学に二分化する必要があるというのが文部科学省の考えのようです。

大学は研究者を養成する機関?

学校教育法によると、「大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする」とあります。一言で言ってしまえば、大学は学問を学び、研究する場なのです。

ところが、今や大学進学率は50%を超えています。2人に1人が研究者を目指すということはあり得ないでしょう。この点からも大学のあり方が時代に沿わなくなっていることがわかります。

そこで、グローバルな大学は、これまでと同じように学問的(アカデミック)志向が強いものに変わりありませんが、ローカルな大学は就職に直結する実学的な志向が強くなると考えられます。

実学志向とは、大学で学びながらも、地域や地元の企業と協働しながら、社会人として必要な素養(知識や技能)を身につけていくことです。例えば、プレゼンソフトや表計算ソフトが使えることはもちろん、ビジネスマナーから技術者としての最低限のスキルまで。これからの大学教育は、新卒であってもある程度、社会人として即戦力として働くことができる力を身につけることが重視されるのです。

折しも、2016年10月3日付の日経新聞では「ヤフー、新卒一括採用を廃止 30年未満は通年」という記事が掲載されました。これからは、新卒の学生が、今までどこかの企業で働いていた転職組と、同じレベルで就職活動をしなければならなくなることを意味しているでしょう。

受験生はどうすればよいのか?

学歴の経済学。どんな大学へ行っても将来の収入にほとんど変化がないように、今、教育投資が問題になっています。学歴を経済学的な視点でみると。

学歴の経済学。どんな大学へ行っても将来の収入にほとんど変化がないように、今、教育投資が問題になっています。学歴を経済学的な視点でみると。

では、受験生はこうした変化に対してどのように対応すればよいのでしょうか。まず、高卒よりは大卒の方がよい企業へ就職できるという幻想を捨て去ることが重要です。

そして、将来、自分がどんな分野で働きたいのか、そのためにどんなノウハウを身につけなければいけないのかを考えた上で、進路選びをすることが大切になってきます。仮に、それが高卒で十分可能な分野であれば、何も大学進学にこだわらなくてもよいのです。

逆に、特定の分野に関心や強みがある人は、例えば、建築業界で働きたいのなら物理や建築学を、IT業界で働きたいのならば統計学やプログラミングなどを、これらが学べる大学へ進学してその業界で働ける知識やスキルを在学中に身につける必要があります。

また、大学入試も画一的なペーパーテストから、各大学のアドミッションポリシーに基づく多面的な評価方法(面接や小論文など)へと変わります。これまでの詰め込み型の勉強ではとうてい太刀打ちできなくなります。

つまり、今まで以上に大学へ入るための勉強ではなく、大学に入って何をしたいのか、そして大学を出た後、「自分は何をしたいのか」「自分はどうありたいのか」という目的意識を持って学ぶことが重要になってくるのです。

そのためには何をすればよいか。教科書に載っていることはもちろん、自ら考えて自ら行動する力やコミュニケーション力など教科書に載っていないことを主体的に学ぶこと、まさにアクティブラーニングが重要になってきます。

■参考図書
「親なら知っておきたい学歴の経済学(西川純著、学陽書房)」
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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