キッチンは洋服を選ぶように
キッチンのことを考えるときに何を大切にしたらいいのでしょう?私がキッチンをデザインするとき、常に頭に置いていることは「風景」と「所作」と「シーン」の3点です。「風景」とはキッチンの中から見える風景とキッチンを外から見た時の風景の両方を考えます。多くの方はダイニングテーブルやカップボードはインテリアとの相性を重視して選んでいるのに、ことキッチンに関しては使い勝手を優先していることがほとんどのようです。
今や『LDK』として、キッチンはリビングやダイニングと同じ一つの空間の中に存在しているのが当たり前です。しかも、キッチンの中にいる時間はせいぜい3時間程度であり、圧倒的にキッチンの外にいる時間の方が長いはずです。つまり、ダイニングテーブルやAVボードといっしょにキッチンを外から眺めることが多いわけです。
なのに、使い勝手だけで選ぶのっておかしくないですか?私は「キッチンは洋服と同じ感覚で選んでほしい」と常々言っています。つまり、自分(の体型や色など)に似合っているかどうか、自分たちの生活スタイルに合致しているかどうかがポイントなのです。
キッチンの使い勝手は本体以外も重要
もちろんキッチンは「料理をする」ところですから、使い勝手をまったく無視するわけにはいきません。また水や火、刃物を使う場所ですから、極めて安全でなければなりません。それらは決してキッチン本体だけの問題ではなくて、素材や色、照明計画、動線などを含めて総合的に判断されなければなりません。では使い勝手とはなんでしょう。レイアウト?大きさ?設備機器?もちろんそれらも重要なポイントです。レイアウトを考える事は動線計画につながりますので、調理作業がスムーズに行えるか、途中で邪魔者が入らないかなどにつながります。また、昨今では多くの住まいでLDK(リビングダイニングキッチン)として、キッチンはリビング・ダイニングと一つの空間を共有してますから、空間の中での存在感は大事です。
これらの事も含めて、私はキッチンデザインで最も重視しているのは「所作」だと言っています。ここでいう『所作』とは立ち居振る舞いのことを指し、キッチンの中で行われるひとつひとつの作業、動きという意味で捉えます。
美しい「所作」をデザインするということ
キッチンのなかでの「所作」とは、どんなことがあるでしょう。水を使う、火を使う、包丁を使う、洗い物、片付け……様々な所作がキッチンの中では行われています。そのひとつひとつが美しい姿勢で作業できていること。スムーズに次の作業へと移行できていることなど、キッチンでの所作が美しく(もしくはかっこよく)見えることを意識します。
所作が美しく見えるということは、正しい姿勢で、かつ無駄がなく作業ができているということです。適切な高さと奥行き、照明計画、食生活に合った設備機器で構成されたキッチンは確実に使いやすいはずです。使いやすいということは料理の腕が上がるということに繋がります。
また、最近のキッチンは対面式が多いので、リビング・ダイニング側から見たときに、料理している人の背景として、壁面側も意識する必要があります。つまり色や素材だけでなく、収納計画(扉割り)が重要なことが分かります。
キッチンを取り巻く背景をデザインすること
最初にも書いたように、キッチンのことだけを考えてはいけません。リビングやダイニングをまとめてデザインする必要があると言ったのはそういう理由からです。そこで大事になってくるのが「シーン」です。
たとえばミニマルなすっきりした空間にベストマッチなキッチンが実現できたとします。そこで使われるフライパンが通販で見かけるようなカラフルなものだったらどうでしょう?一気に興ざめしてしまいますよね(ま、そんなことは絶対にないでしょうけど)。ここはWMFあたりの磨き上げたステンレスフライパンを合わせたいところです。
キッチンはあくまでもインテリアの一部ですから、そこにヒトが入り、生活が始まってはじめて完成するものです。どんな調理道具を使っているのか?何を使ってコーヒーを入れているのか?飲んでいるお酒の種類は?食器の色や柄は?置かれているオブジェはどんなのだろう?そんな生活スタイルから始まって、そのための色使い、素材の組み合わせ方、照明計画など、キッチンとその周辺に存在するすべてのモノとコトに対して繊細に気を配られなければならないのです。
そうはいっても肩肘を張る必要はありません。あくまで自然体で、少しだけ背伸びしたライフスタイルを意識すればいいのです。オーダーキッチンはゼロから組上げていくキッチンですから、デザイナーとの相性も大事です。数多くのオーダーキッチン屋さん、キッチンデザイナー、キッチンマイスター、キッチンが得意な工務店がいますから、ホームページなどで特徴や雰囲気を感じ取って、自分スタイルにぴったりのデザイナーを見つけてください。
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