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熟年離婚は家計的に得なのか、損なのか【ガイドが音声・動画で解説】

「熟年離婚」という言葉が話題になったのが2007年~2008年。あれから15年以上が過ぎた今、はたして熟年離婚は経済的には損なのか、得なのか。一筋縄でいかないアダルトな男女関係の清算を「お金」という側面から検証してみましょう。

清水 京武

執筆者:清水 京武

マネープラン・節約ガイド

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夫の老齢厚生年金の2分の1が自分の年金に

まずは「熟年離婚」という言葉が話題になった背景から考えてみます。キッカケは2007年4月に施行された「合意分割(または離婚分割)」と、その1年後に施行された「3号分割」という、2つの「年金分割制度」。これにより、現在もしくは過去に会社員または公務員だった夫と離婚する際(※)、妻は夫が受け取る老齢厚生年金について、分割対象となる年金額の最大2分の1を受け取ることができるようになりました。

結果、それまで、自身の年金額は少ないため、離婚をあきらめていた妻たちも、この制度のおかげで、そのハードルが低くなったわけです。

【マネーガイドが音声・動画で解説】



この2つの制度の大きな違いは、分割を決める手続きと分割の仕方にあります。

「合意分割」は、分割の割合(按分割合)の決定について夫婦の合意が必要とされ、もし、合意に至らなければ、家庭裁判所に申し立てをしなくてはなりません。
分割の割合は、先に「最大2分の1」と述べましたが、これは「分割の結果、当事者双方が分割対象の年金について同額の年金になる」という意味です。たとえば、分割対象となる老齢厚生年金の月額が夫8万円、妻4万円とすると、夫の年金から2万円が妻に分割され、夫婦とも6万円ずつとなるのが「同額」であり、このケースの「最大の分割」となります。仮に「妻0円」ならば、夫の年金の最大2分の1が妻に分割されるわけです。

対して、「3号分割」は、対象が専業主婦などの第3号保険者に限られますが、当事者の合意は必要なく、年金事務所に必要書類を提出すれば、老齢厚生年金の分割対象期間分の2分の1を受け取ることができます。対象となる夫の年金額が8万円なら、無条件に4万円が妻に分割されるということです。

ただし、対象期間は「合意分割」が婚姻中の全期間なのに対して、「3号分割」は2008年4月1日以降の婚姻期間に限られます。

したがって、2008年3月31日以前に婚姻している場合は、婚姻日~2008年3月31日までは合意分割を、同年4月1日以降で3号分割の対象となる期間は3号分割(その間、分割を受ける側が3号保険者でない期間は合意分割)を、それぞれ制度として利用することになります。
 
その他、注意点としては、どちらの制度も原則、離婚日の翌日から2年以内が請求期限となります。また、分割される側の年金支給が開始されていても、分割を受ける側は年金支給の年齢に達していなければ分割分を受給することはできません(表参照・日本年金機構HPを参考に筆者作成)。
 
(※)ここでは、便宜上「夫婦」「離婚」と表現していますが、一定条件おいて事実婚であった二人が事実婚関係を解消する場合も対象となります。また、分割される側が妻、分割を受ける側が夫という場合も対象です。

 
▲「合意分割」「3号分割」ともに要件となる離婚日と分割対象期間が異なります
 

実際の増加分は月額3万円ほど

それを踏まえて、年金分割がマネー的に得なのか。具体的に見ていきましょう。
 
厚生労働省が発表した「2023年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、合意分割(合わせて、3号分割を行った場合はそれも含む)により分割を受けた側の年金額は、平均で3万1112円の増加となっています。2019年度から5 年間の推移を見ても、各年度とも3万1000円前後と、ほぼ横ばいの金額です。
 
このとき、分割された側の分割前の年金額は14万4951円。このうち、老齢厚生年金(比例報酬部分)に該当するのは、概算で8万円前後でしょうか。そう考えれば、分割される側に多少でも老齢厚生年金があることを想定すれば、分割額の3万1000円は、多くのケースで、最大に近い割合だと言えるでしょう。
 
 ちなみに、分割による受給額等は、最寄りの年金事務所で試算してくれます。実際の手続き方法の問合せも可能ですから、詳しく知りたい方は足を運んでみるといいでしょう。
 

泥沼化しても財産分与は有効な手段!?

さて、そもそも年金分割は離婚を後押しするほど有効な制度なのでしょうか。前提として離婚ありきで、分割の額など二の次というのであれば、なおかつ年金額が増えるなら有益といえます。資金的にも、先に示したように、合意分割でアップした平均額は約3万円。10年で360万円、30年なら1000万円を超えます。これは老後資金として決して小さな額ではありません。
 
しかし、年金額が分割でアップしても、先の調査では、増加後の支給額が平均8万5394円。資金的に生活は依然苦しいというケースもあります。そうなると、何の愛情もなく、同じ空間で息をするのさえ嫌な相手でも、高齢かつ一人で背負う経済的負担を考えると、大いなる妥協の産物として離婚を選択しない妻がいても不思議ではないでしょう。
 
では、それでも離婚に踏み切るにはどうすればいいか。可能性のある対処法として3つを挙げてみます。

(1)老後の生活費を抑える
毎月の生活費を抑え、赤字幅(年金による不足分)をできるだけ小さくする。ただし、1日1食にするとか、冷暖房を使わないという無茶な節約はNG。あくまで無理なく、工夫で補うような生活費の削減を目指します。とくに額の大きな住居費は、もし実家に戻るという選択肢があるなら、それは有効な経費削減策となります。
 
(2)離婚後に働く
(1)との合わせ技で、実践してほしいのが離婚後の収入アップです。ズバリ、働くということ。パートで構いません。早めに離婚した人が年齢的にも期間的にも有利ですが、65歳以上で働くことも当たり前の時代。そのためにも体力維持、健康管理は欠かせません。
 
(3)財産も分与してもらう
(1)(2)とともに、実行する価値があるものとして、離婚による財産分与があります。原則、結婚から別居までに築いた共有財産は、その総額(評価額)の50%を受け取る権利があります。共有財産とは預貯金、有価証券、不動産、家財、生命保険、退職金など。さらに離婚原因が浮気やDV等なら、慰謝料請求も可能です。もし、裁判になれば弁護士費用(着手金、報奨金それぞれ30万円程度、加算部分として財産分与の10%が目安)が発生しますが、財産によっては支払う価値はあるでしょう。

最後に、2023年度の離婚件数は18万727組。うち、離婚等にともなう年金分割が実施されたのは3万4135件。これは全体の18.9%に過ぎません。制度を知らないのか、あんな男の年金をもらうくらいなら借金した方がマシと思っているのか。もちろん、双方の年金受給額に差がなかったり、夫が国民年金のみ加入というケースもあります。ともあれ、年金が減らされず助かっている、そんな熟年男性が一定数いることだけは確かなようです。

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