アドバイス1 まずは再就職を優先、実家とアパートはその後で
ご相談者の場合、実家とアパートをそれぞれどうするか。これを早めに明確にする、つまりはこのまま所有するか、売却して手放すかのどちらかに決める必要があります。ただし、現在求職中とのこと。であれば、実家とアパートは住まいと収入の両方に関わることですから、再就職と深く関連してきます。たとえば、自宅から通えない範囲まで就職エリアを広げないと、待遇面で希望する就職先が見つからないというケースも考えられます。その結果、地元から離れてしまうと、実家とアパート、少なくとも共に所有するということはコスト的にも無駄が出てしまいます。したがって、まずは就職を優先させ、実家とアパートについてはその後、2年以内くらいに決めていけばいいかと思います。
実家とアパートについては、もうひとつ大きなポイントがあります。それはともに築年数が相当に古いということ。今後も所有し続けるならリフォームが必要になりますし、固定資産税も発生し続けます。それらをどの程度ならコストをかけて所有すべきか。
とくにアパートの場合、家賃収入を生まないと所有する意味がありません。具体的な家賃や間取り、立地等は不明ですが、築年数は38年、部屋数は半分が空いている、さらにローンがないにもかかわらず収入が月10万円ほど。これらを勘案すると、今後も家賃収入を維持するには、早々にリフォームの必要性が出てきます。
さらに言えば、なぜ5部屋も空いているのか。この理由も明確にしておくべき。アパート経営において高い稼働率を長年維持するのは、相当に大変なことです。単に老朽化や地域に借り手の絶対数が足りないのか。それとも、他に理由があるのか。今後も継続して経営し続けるべきかどうかの判断材料になるはずです。
また、老後生活に向けて、できれば「荷物」は少ない方がいいと言えます。「荷物」とは余計なコストを生むなどの資産的リスクのこと。実家やアパートは、まさにそれに該当します。その意味で、どういう状況でもどちらか一方、あるいは一生独身という前提で言えば、両方手放すことも選択肢としてはあると思います。加えて、リフォーム等で新たにローンを組むのは避けたいところ。それもまた、老後に向けては大きな荷物になってしまうからです。
アドバイス2 再就職は老後においては大きなプラス
老後資金についてはどうでしょうか。ただし、今後、いろいろなパターンが考えられます。ここでは地元で就職をし、収入は手取りで月15万円、厚生年金はあるが、ボーナスはなし。アパート経営は1年間続け、その後売却。実家を1000万円かけてリフォーム(ローンなし)し、自宅とした場合を想定します。
まず、公的年金支給が開始となる65歳以降から試算してみますと、再就職によって公的年金が現在予定されている年額114万円から若干増えて130万円とします。生活費は保険料の支払い等がなくなりますから、16万5000円(他の支出は現在と同じとする)。これに各種税金や社会保険料がざっと年間25万円とすれば、年間の総支出は223万円。つまりは、年間の不足額は93万円。90歳まで生きられたとして、トータル2325万円の必要となります。プラス予備費として1000万~1500万円とすれば、きびしく見て65歳の時点で4000万円用意できていれば、とりあえずは安心と考えていいでしょう。
現在の金融資産は6640万円ほど。これに個人年金保険の年金と企業年金の総額を加えると1260万円。さらに終身保険の解約返戻金が1200万円。これでトータル約9100万円。さらにアパートの収入1年分と売却益、これに売却手数料等のコストや税金を差し引いて、1700万円の利益があったとすれば、合計1億800万円。さらに65歳以降に必要な4000万円を差し引けば、6800万円は65歳までの生活費等に使える計算となります。ここから自宅リフォーム代金1000万円を捻出すると、残金は5800万円となります。
65歳まで19年間の生活費が現在と同じ生活水準とするとざっと5000万円ですから、計算上は今後働かなくても足りることになります。ただし、これで安心と言える金額ではないことも事実。したがって、就職して何らかの収入を得ていくことは重要であり、再就職は今後のマネープランにおいては大きなプラスとなるのです。
また、生活費を抑えるため「友人との食事や旅行なら削れると思います」とありますが、これは賛成しかねます。生活費を節約するために人や社会とのつながりも削ってしまうのでは、意味がありません。豊かな老後を過ごすためには、資金と同様にそういうつながりも不可欠。ぜひ大切してください。
アドバイス3 具体的な節税効果は税務署で確認を
最後に、実家やアパートを売却した場合の税金の控除制度ですが、ご相談者の場合、該当するものがいくつかあります。「譲渡所得の特別控除の特例」は居住用財産を売却した際に、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3000万円まで控除できる特例ですが、あくまで居住用に限ります。相談者のアパートの場合、対象となるのは相談者自身が暮らしている1室のみ(居住用部分)で、それが仮に全体の面積の10%なら控除対象なるのも譲渡額の10%だけとなります。
また、この特例については2016年から「相続した空き家」も含まれることになりましたので、実家も対象となりそうです。ただし、注意すべきはいくつかある適用条件のひとつ「建物を取り壊すか新耐震基準に改修して売却しなくてはならない」という点。そのコストがどの程度発生するかがポイントです(解体費用に対する補助金制度がある自治体もあります)。
アパート全体が対象となる制度となるのは「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」となります。これは相続した土地や建物、株式などの財産を相続税の申告から3年以内に売却した場合、取得費に相続税などから算出した一定額を加算できる制度です。譲渡所得から取得費と譲渡経費(仲介手数料など)を差し引いて譲渡所得税は算出するため、結果的に税額が軽減されるわけです。
ともあれ、実際どの程度の節税効果があるのかは、最寄りの税務署あるいは税理士に実際に相談されることをおススメします。
教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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