医療情報・ニュース

麻疹(はしか)流行の兆し…感染力の強さ・症状・対策法

【医師が解説】【症例画像あり】麻疹(はしか)は非常に強い感染力を持る感染症です。日本国内では「排除状態」と言われていましたが、近年再び感染者の報告が続いています。なぜ今日本で麻疹の流行の兆しがあるのか、原因と、麻疹の症状、今取るべき対策法について解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

2024年も危惧される麻疹(はしか)感染…2016年には大阪・千葉での報告も

感染力の強い麻疹

麻疹は空気感染するため、非常に強い感染力を持ちます。今、流行の兆しが見られる原因は?


日本は2015年3月27日に世界保健機構(WHO)から麻疹(はしか)の土着株が存在しない「排除状態」であると認定されました。排除状態とは、国内に由来するはしかウイルスによる感染が3年間確認されなかった場合に認定されるものです。

しかし近年では、2016年9月に、関西国際空港の職員、幕張メッセのコンサートの参加者、関西国際空港の近くのアウトレットショッピングセンターで、麻疹(はしか)の感染者が報告され昨年2023年にも、インドからの帰国者の感染が報告されました。今年2024年3月現在も、再び東京や大阪など、全国で感染者が報告されています。

なぜ、今になって日本国内で麻疹(はしか)が流行しているのでしょうか? 現時点で考えられているのは、アジアやアフリカを中心に流行している麻疹(はしか)の株が、日本国内にも輸入されてしまった可能性です。

また、流行している原因の1つに、MR(麻疹、風疹)ワクチン接種回数が関係しています。MRワクチンは2006年から「2回接種」になりました。これは2007年~2008年に10歳から20歳代を中心に麻疹が流行したのを受けての変更です。ここから5年間に限って、中学1年生(第3期)と高校3年生(第4期)に1回接種し、さらにそれまで1回だったMRワクチンを、1から2歳までに1回、5歳から6歳までに1回の2回接種に行われることになったのです。この5年間限定の中学1年生(第3期)と高校3年生(第4期)の接種率があまり高くなかったこと、さらに、20代後半の人は1回のみしか接種していない可能性が高いことが関与していると思われます。ワクチンについて詳しくは「MRワクチン(麻疹・風疹)の接種・時期・副作用」をご覧ください。

麻疹については、1966年にワクチンが開始され、1978年からは「1回接種」が定期接種になりましたが、現在の「2回接種」になったのは前述通り2006年からです。さらにこの頃はまだ日本でも流行を繰り返していたこともあり、予防接種を受けても罹ってしまう状態でした。

つまり、今後も海外からの渡航者が増えると、麻疹が輸入されてしまう可能性が常にあります。

<目次>  

1人で12~18人に感染?非常に強い麻疹(はしか)の感染力

1人の感染者が周囲の免疫を持たない人に感染させる人数は、麻疹(はしか)の場合12人から18人にも上ると考えられています。毎年流行して注意喚起されるインフルエンザですら2~3人ですから、いかに麻疹(はしか)の感染力が強いかが判るかと思います。さらに、麻疹(はしか)は、空気感染します。したがって、同じ部屋にいた場合、距離に関係なく、感染する可能性があるわけです。

このように感染力が強いために、麻疹(はしか)は流行する危険が高い病気といえます。集団における感染を防ぐためには、集団免疫をしておくことが重要なのです。麻疹(はしか)の場合、90~95%の人が麻疹(はしか)に対する抗体を十分に持っていれば、流行が防げます。
 

予防接種をしていれば大丈夫? 麻疹感染に有効な抗体の数値

では、どの程度の麻疹(はしか)の抗体があればよいのでしょうか?

日本環境感染学会が医療従事者に求めている抗体は、EIA法と呼ばれる方法で測定され、16.0以上であれば、望ましいとされています。

私は、幼少のころに麻疹ワクチンをして、麻疹(はしか)にかかりました。小児科になって何人も麻疹(はしか)の診療しましたが、現在まで感染したことはありません。抗体も24.1という値でした。もし、一般の方で昔に予防接種を受けたかが思い出せない、あるいは抗体が残っているのかを知りたいという方は血液検査で麻疹(はしか)に対するIgG抗体を測定するという方法があります。費用は、抗体検査だけなら保険診療ではありませんので、自費になります。参考までに東京医科歯科大学付属病院の妊婦健診での麻疹抗体検査は3000円でしたので、おおむね3000円から5000円程度が目安です。
 

麻疹の症状・症例画像

麻疹

麻疹(はしか)の湿疹で、細かい赤い湿疹が特徴です(出典:国立感染症研究所感染症情報センターホームページ)

麻疹(はしか)は、麻疹ウイルスによって起こる全身の病気です。感染してから発症までの潜伏期間は10~12日で、感染力を持つ時期が発症1日前から発疹出現後4日後まであります。症状としては38度以上の高熱、鼻水、咳、結膜充血、目やにがみられ、発熱してから数日後に、耳の後ろや首から赤いやや盛り上がった湿疹が見られ、だんだん赤くなり、湿疹同志がくっついて、大きくなり、最後は暗い赤色が残った湿疹になります。

麻疹(はしか)で問題になるのは、合併症です。中耳炎、気管支炎、肺炎、ノドが腫れてしまうクループ症候群、脳炎、角膜の炎症です。特に問題になるのは、麻疹肺炎、100例に1例ある麻疹脳炎、麻疹が慢性的に脳炎を起こす亜急性硬化性全脳炎で、麻疹脳炎の死亡率は10~20%で、生存できても重篤な後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺といった神経的な問題)が20~40%も残ってしまうことがあります。亜急性硬化性全脳炎は進行性の病気でもあります。詳しくは「麻疹(はしか)の症状・合併症・診断法」をご覧ください。そして、麻疹(はしか)に対しては有効な治療方法はありません。
合わせて「麻疹(はしか)の治療・予防」もご参照ください。

つまり、麻疹(はしか)は感染力が非常に強い上に、感染・発症してしまった場合は、治療方法がなく、最悪の場合は死亡する可能性や、重篤な後遺症が残ることがある怖い病気なのです。
 

麻疹(はしか)の予防法・対策法

まずは自分の予防接種歴を確認しましょう。麻疹ワクチンまたはMRワクチンを2回接種していると、感染する可能性が低くなります。昔、はしかにかかったかどうかですが、よく似た病気で実際は違ったというケースもありますので、ワクチンをしたかどうかの方が重要です。余裕があれば、一度、私のように抗体検査をしておくとよいかもしれません。抗体検査は血液検査で結果が出るまで数日かかります。

もし、抗体が不明でワクチン歴も不明で麻疹(はしか)の人に接触したかもしれないようなときには、接触から72時間以内のワクチン接種、あるいは4日以上6日以内のガンマグロブリンという免疫の血液製剤を筋肉注射する方法があります。ガンマグロブリンは血液製剤なので、その使用については、メリットとデメリットを考えた上での使用が望ましいです。

麻疹に限らず、感染力の強い感染症に対しては、ワクチンがあるものについては、今回のような流行が起きてから慌てるのではなく、常日頃からワクチンをしておくことが重要です。できれば2回接種を行うなど、個人ができる限りの予防を行って、社会全体で感染拡大を食い止めていくことが大切なのです。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます