もし家族が心の病気になったら……
ご家族が患者さんの病気を知る事は病気が生み出す問題に対処するための第1歩です。同時に患者さんの再発リスクを減じるための第1歩にもなります
身体の病気と同じく、病気から回復して無事に乗り越えるためには、まず家族が病気について充分に理解することがたいへん重要です。
今回は、夫や妻などのパートナー、兄弟、子供などの身近な人が心の病気になってしまった場合、家族は何を知っておくべきなのか、また、その理由や目的について詳しく解説します。
心の病気からの回復の妨げになる誤解や偏見
心の病気は、脳内に問題が生じることが原因で起こります。そして治療がかなり効果的になってきたことも、近年ではよく知られ始めたと思います。しかし、心の病気に対する誤解は依然として少なくありません。そもそも心の病気を医学的な問題とはみなさず、本人の性格や生活に何らかの落ち度があったのではないか、といった考え方などは、根強い誤解の一つかもしれません。
また、病気になる前の時点で、患者さん自身やそのご家族が、その病気に対して悪いイメージを持っている可能性もあります。もっとも、これらの誤解は実際に病気を発症した患者さんを目の当たりにすれば、ご家族の方ならば誤りだったとすぐに気付けるかもしれません。
しかし、もし誤解が偏見のレベルになっている場合は少し大変です。場合によっては病気に苦しんでいる家族を嫌な目で見てしまう、といったことが起きる可能性もあるかもしれません。それは患者さんの自尊心を著しく傷つけてしまう恐れがあります。こうしたことが万が一にも起きないためにも、病気に何か誤解や偏見があれば、まずそれを正しい知識に置き換える必要があります。
病気を正しく知れば、かなりのストレスが取り除ける
家族の誰かが突然深刻な病気を発症するということは、家族全員が一生を通じて体験する出来事の中でも、もっとも辛い体験になる可能性があります。ご家族が患者さんの療養をしっかり支えるためには、まずそれぞれが心身の健康を守り、家族が1つの家族として機能することが重要です。
家族みんなが心身の健康を損なわないようにし、病気が生み出す苦悩や問題をできるだけ緩和させる必要があります。そのためにも患者さんの病状を理解することは重要です。患者さんに何が起きているのか、これからどのような経過になっていくのかの目安がつき、回復のイメージが見えてくれば、病気が生み出すストレスはかなり減らせるはずです。
例えば、統合失調症の発症時には幻聴や妄想が現われ、現実と非現実を見失ったような状態になります。こうした症状が患者さんにまさに現われている状態では、家族はかなり動揺してしまうかもしれません。
もし幻聴の症状があり、患者さんが大声で幻聴に言い返しているような時があれば、それは脳内の問題で現われた症状であること、治療薬で効果的に対処できる問題であることをまわりの人が知っていれば、その受け止め方はかなり変わってくるでしょう。
ご家族が病気の理解を深めていくためには、病院で主治医などから受けられる説明やアドバイスはたいへん重要です。その際、もし他のご家族を院内で見かけるようなことがあれば、なるべく声をかけておきたいものです。もし情報交換ができるような間柄になれば心強いですし、そうした情報交換を通じて病気の理解を深めることもできます。
発症前の様子も整理しておきたいもの
精神疾患は実は再発のリスクが少なくなく、ご家族が再発防止のために知っておきたいことも幾つかあります。まず、再発の兆候が現われた時、それを見逃さないために、ご家族は再発の予兆をあらかじめ知っておきたいものです。しかし、再発の予兆は同じ疾患であっても個人差が大きく、一概にどんな予兆になるかは、はっきり言えません。それでも、同一の個人に関しては、その病気の発症前に現われていた問題が再発の直前に繰り返されやすい傾向があります。
具体的には統合失調症の発症前に、夜眠れなくなった、独り言が多くなったといった症状があった場合、再発前にも同様の症状が現われる可能性があります。
もし家族の誰かが初めて心の病気を発症した時は、その直前に患者さんにどのような問題が現われていたか、しっかりメモなどを取っておけば、初診の際、治療する側にとって重要な情報になるだけでなく、ご家族が再発に備えるための有用な情報にもなります。
治療の順守を見守ることも大切な家族の役目
病気の再発は患者さんの回復を大きく妨げるため、何としても防ぎたい問題です。病気の再発リスクはまわりの人が理解しておきたい、病気の重要な知識です。再発リスクは病気ごとに相違はありますが、一般に生活環境のストレス、治療内容の不順守が重要なリスク要因です。
実は、精神疾患はその回復過程で治療内容を守らないために再発してしまう事が少なくありません。具体的には治療薬を飲まなくなる、心理療法の治療課題をこなさなくなるなどです。
もし患者さんが治療薬を飲んでいないと気づいたら、家族はそれとなく尋ねてみる。もし外来通院の日を忘れているような場合も、それとなくリマインドしてみることは大事です。ただその際、「監視されている」といった誤解を患者さんに与えない配慮は大切です。
以上、今回は心の病気の発症時に、家族も病気の知識を深めることの大切さを解説しました。正しい知識を持てば病気が生み出すストレスも軽減できますし、再発リスクを減ずることにもつながります。家族や親しい友人は、患者さんが病気から回復される過程で心の拠り所にもなる大切な存在です。身近な方が病気の知識を深めていく事が、患者さんの回復をより励ますことになるということを、ぜひ知っておいてください。