世界遺産/世界遺産関連ニュース

2016年新登録の世界遺産(4ページ目)

2016年7月、トルコのイスタンブールで開催された第40回世界遺産委員会はクーデターの影響を受け、夏と秋の分散開催となった。7月の審議では新たに21件の世界遺産が誕生し、世界遺産総数は1052件となった。日本関連では「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産として国立西洋美術館本館が登録された。今回は新登録の世界遺産全リスト、危機遺産リストの変更点をはじめ、世界遺産委員会の概要をお伝えする。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

2016年新登録の世界遺産全リスト 文化遺産

世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」、ノートルダム・デュ・オー礼拝堂

ル・コルビュジエ晩年の傑作、フランス・ロンシャンのノートルダム・デュ・オー礼拝堂。世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品」構成資産

それでは2016年に新たに登録された世界遺産をすべて紹介しよう。

リストは文化遺産→自然遺産→複合遺産の順番で、各遺産内はヨーロッパ→アジア→オセアニア→北アメリカ→南アメリカ→アフリカ、さらにその内部は国名五十音順で記載した。

なお、世界遺産の日本語名はガイドによる適当な訳なので参考程度のもの。世界遺産とは世界遺産リストに記載された物件を示し、そのリストは英語とフランス語で書かれている。併記した英語名が正式名称だ。

<文化遺産12件>

■ゴーラム洞窟複合地帯
世界遺産「ジブラルタルのネアンデルタール人の洞窟群と環境」があるロック・オブ・ジブラルタル

欧州とアフリカを隔てるジブラルタル海峡に位置するロック・オブ・ジブラルタル (C) Steve

Gorham's Cave Complex
イギリス、文化遺産(iii)
イギリスの海外領土であるイベリア半島の小島ジブラルタルの物件。ロック・オブ・ジブラルタルと呼ばれる峻険な岩には200ほどの洞窟が穿たれているが、ゴーラム、ヴァンガード、ハイエナ、ベネットの4洞窟からは12万5千年以上前に遡ると見られるネアンデルタール人の生活跡が発掘されており、当時の生活をいまに伝えている。 

■フィリッピの古代遺跡
Archaeological Site of Philippi
ギリシア、文化遺産(iii)(iv)
フィリッピはアレクサンドロス大王の父フィリッポス2世が紀元前4世紀に築いた古代都市。ローマとビザンチウム(現在のイスタンブール)を結ぶエグナティア街道上に位置し、欧州とアジアを結ぶ要衝として繁栄した。カエサルを暗殺したブルートゥスが自殺に追い込まれたフィリッピの戦いの舞台でもあり、1世紀以後はキリスト教布教の拠点となった。

 

■中世の墓碑ステチュツィの墓所群
ボスニア・ヘルツェゴビナ、ネウムのステチュツィ

ボスニア・ヘルツェゴビナ、ネウムのステチュツィ (C) Anto

Stecci Medieval Tombstones Graveyards
クロアチア/セルビア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/モンテネグロ共通、文化遺産(iii)(vi)
ステチュツィは12~16世紀に築かれた墓碑で、バルカン半島で7万点以上が発見されており、このうち4か国30点が世界遺産に登録された。石灰岩でできた墓碑には文字や幾何学図形、太陽・月・動植物等のシンボル、狩猟やダンスの様子などが彫り込まれており、当時の人々の思想や宗教・生活の様子が描き出されている。

 

■アンテケラのドルメン遺跡
Antequera Dolmens Site
スペイン、文化遺産(i)(iii)(iv)
アンダルシアのマラガに残されたメンガ、ヴィエラの両ドルメン(支石墓)と、エル・ロメラルの円形墳墓、2つの山域を構成資産とする世界遺産。紀元前4000年頃に築かれたメンガは25の支石と5つの天上石、3つの柱かなるドルメンで、総計835tに達する31の巨石によって27.5×6mの内部空間を作り出している。

■ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献
The Architectural Work of Le Corbusier, an Outstanding Contribution to the Modern Movement
スイス/ドイツ/フランス/ベルギー/インド/日本/アルゼンチン共通、文化遺産(i)(ii)(vi)
第2頁参照。

■アニの考古遺跡
Archaeological Site of Ani
トルコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)
アニは古代からシルクロードの要衝で、10世紀頃にはアルメニア王国バグラト朝の首都として繁栄した。アルメニア王国は世界ではじめてキリスト教を国教化したが、時にキリスト教の大国・ビザンツ帝国やイスラム教の大国・アッバース朝やセルジューク朝などの支配を受け、両宗教の影響を受けた複雑な文化を残している。

■ペルシアのカナート
The Persian Qanat
イラン、文化遺産(iii)(iv)
カナートとは、山中の地下水脈から田畑や街まで地下水路を引いたペルシア(イラン)の水利施設のこと。砂漠やステップが広がるペルシアでは比較的降水量が多い山地の地下水を活用し、地中に水路を通すことで蒸発を防いだ。11のカナートを構成資産としているが、長いものになると全長29km、深さ300mに達する。

■ビハール州ナーランダにあるナーランダ・マハーヴィハーラ[ナーランダ大学]の考古遺跡
Archaeological Site of Nalanda Mahavihara [Nalanda University] at Nalanda, Bihar
インド、文化遺産(iv)(vi)
ナーランダはブッダが訪れて説法を行った地で、5世紀には学術的に仏教を教えるナーランダ大学(僧院)が建設された。数千を数える学僧の中には三蔵法師の名で知られる玄奘や義浄らも含まれていた。遺跡は紀元前3~後13世紀にまたがるもので、ストゥーパ(仏塔)・チャイティヤ(祠堂)・ヴィハーラ(僧院)等で構成されている。

■左江花山のロックアートの文化的景観
Zuojiang Huashan Rock Art Cultural Landscape
中国、文化遺産(iii)(vi)
左江と岷江によって削られた断崖に描かれた色彩豊かな38の岩絵群で、チワン族の一派である駱越人によって紀元前5~後2世紀に描かれた。人々は断崖の上から吊り下げられ、あるいは断崖を登って足場を造り、命懸けでこれらの岩絵を描いたと見られている。そのほとんどが人物像で、舞踊や儀式から性行為の様子を描いたものまで存在する。

■ナン・マトール:東ミクロネシアの祭祀遺跡
「ナン・マトール:東ミクロネシアの祭祀遺跡」

海上に建設されたナン・マトールの遺跡 (C) CT Snow

Nan Madol: Ceremonial Centre of Eastern Micronesia
ミクロネシア、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi)
ミクロネシア初の世界遺産で、登録と同時に危機遺産リストに掲載された。13~16世紀にかけてポンペイ島に建築された石造遺跡で、サンゴ礁の上に築かれた99の人工島に宮殿・寺院・墓・住居などが配置されており、その周囲を城壁が囲っている。主として玄武岩が用いられており、最大で25tにもなる石材を毎年2000tも用いて築かれたと考えられているが、運搬手段や採石場等は謎に包まれている。

 

■アンティグア海軍造船所と関連の考古遺跡群
Antigua Naval Dockyard and Related Archaeological Sites
アンティグア・バーブーダ、文化遺産(ii)(iv)
アンティグア・バーブーダ初の世界遺産。周囲を山地に囲まれたアンティグア島の入り江に築かれた17~19世紀の海軍造船所と城砦等の施設群で、イギリスはここを拠点にカリブ海全域に睨みを利かせていた。造船所の内部にはオフィスや商店が立ち並び、当時から営業を続けるパン屋や住居として利用されている商店等々、稼働中の建物も少なくない。

■パンプーリャの近代建築群
サン・フランシスコ・デ・アシス教会

オスカー・ニーマイヤー設計のサン・フランシスコ・デ・アシス教会 (C) Bernardo Gouvea

Pampulha Modern Ensemble
ブラジル、文化遺産(i)(ii)(iv)
ベロオリゾンテの人工湖パンプーリャの周囲に築かれたオスカー・ニーマイヤー設計の近代建築群。湖畔の水や緑がニーマイヤーの特徴である曲線美と見事に調和しており、人工美によって自然美を際立たせている。構成資産はサン・フランシスコ・デ・アシス教会、カジノ、ヨット・ゴルフ・クラブ、ボール・ルームの4作を中心とした湖畔一帯。

 

  • 前のページへ
  • 1
  • 3
  • 4
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます