世界遺産/世界遺産関連ニュース

2016年新登録の世界遺産(2ページ目)

2016年7月、トルコのイスタンブールで開催された第40回世界遺産委員会はクーデターの影響を受け、夏と秋の分散開催となった。7月の審議では新たに21件の世界遺産が誕生し、世界遺産総数は1052件となった。日本関連では「ル・コルビュジエの建築作品」の構成資産として国立西洋美術館本館が登録された。今回は新登録の世界遺産全リスト、危機遺産リストの変更点をはじめ、世界遺産委員会の概要をお伝えする。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

三度目の正直! 「ル・コルビュジエの建築作品」悲願の世界遺産登録!!

国立西洋美術館本館

国立西洋美術館本館。近代建築の五原則(ただし連続水平窓は少ない)に加え、観覧者の導線と増築を考慮に入れた渦巻動線=無限成長を特徴としている

2009年に6か国22件、2011年には6か国19件で世界遺産登録を目指した建築家ル・コルビュジエの作品群だが、いずれも失敗に終わっていた。今回、7か国17件に絞った三度目の挑戦でついに世界遺産リスト入りが実現した。

17件の中には東京上野の国立西洋美術館本館が含まれており、東京都としては「小笠原諸島」に続く2件目、日本としては20件目の世界遺産となった。

以下に世界遺産「ル・コルビュジエの建築作品 - 近代建築運動への顕著な貢献」の顕著な普遍的価値と構成資産のすべてを紹介しよう。

<顕著な普遍的価値>
  • 7カ国・3つの大陸に所在する資産は、建築の歴史において初めての、半世紀以上にわたる、地球規模での国際的な取組みを示すものである。17の構成資産は全体として、20世紀の社会・建築における根本的な問題の幾つかに対して傑出した回答を示した。全ての構成資産が新たなコンセプトを革新的な形で示し、地域を超えて顕著な影響を与え、全体として世界中に近代建築運動を広めた。近代建築運動は、多様さを内包しつつ、20世紀における重要かつ必要不可欠な社会文化的/歴史的な存在であり、21世紀の建築文化の広範にわたる基盤をなしている。近代建築運動は、1910年代から1960年代にかけて、現代社会の課題に答え、国際的な思想に関する場を与え、新たな建築のあり方を考案し、建築技術を近代化させて現代人の社会的・人間的に対して回答を示した。(以上、文化庁報道資料より抜粋)
<構成資産>

■フランス
  • ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸(パリ)
  • ぺサックの集合住宅(ペサック)
  • サヴォワ邸と庭のロッジ(ポワシー)
  • ナンジェセール・エ・コリ通りのアパート(ブローニュ・ビヤンクール)
  • ユニテ・ダビタシオン(マルセイユ)
  • サン・ディエの工場(サン・ディエ、ヴォージュ)
  • ノートルダム・デュ・オー礼拝堂/ロンシャン礼拝堂(ロンシャン)
  • ル・コルビュジエの小屋/カップ・マルタンの小屋(ロクブリュヌ・カップ・マルタン)
  • ラ・トゥーレットの聖マリア修道院(エヴー)
  • フィルミニの文化センター(フィルミニ)
■スイス
  • レマン湖畔の小さな家(コルソー)
  • イムーブル・クラルテ(ジュネーブ)
■ドイツ
  • ヴァイセンホフ=ジードルングの住宅(シュトゥットガルト)
■ベルギー
  • ギエット邸(アントワープ)
■アルゼンチン
  • クルチェット博士邸(ブエノスアイレスのラ・プラタ)
■インド
  • キャピトール・コンプレックス(チャンディーガル)
■日本
  • 国立西洋美術館本館(東京・台東区)
なお、ル・コルビュジエと並んで近代建築の三大巨匠に数えられるフランク・ロイド・ライトの「フランク・ロイド・ライトによる近代建築の主要作品」は登録に至らなかった。三大巨匠の残りのひとり、ミース・ファン・デル・ローエについてはすでに「ブルノのトゥーゲントハート邸」がチェコの世界遺産に登録されている。


「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」は推薦取り下げ

「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」大浦天主堂

世界遺産候補地「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」構成資産のひとつ、大浦天主堂

実は第40回世界遺産委員会には「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が推薦されていたが、政府は今年2月に推薦の取り下げを決定している。理由はイコモスによる中間報告の結果がよくなかったためだ。

この物件は「キリスト教の伝達と繁栄」「キリスト教の禁止と鎖国」「開国とキリスト教の解禁」という3時代450年以上に及ぶ14の資産で構成されていたが、イコモスは「禁教・潜伏に重点を置くべき」という強い指摘を行った。キリスト教の伝達・繁栄の証は欧米の植民地のほぼすべてで見られるのに対し、禁教・潜伏を示す文化遺産はきわめて貴重で、ここにこそ顕著な普遍的価値があると捉えられたようだ。

2008年の「平泉 - 浄土思想を基調とする文化的景観」のように逆転登録を狙ってロビー活動を進めることもできたが、世界遺産としての価値に直接関わる重要な件であることから政府は推薦の取り下げを決定し、関係自治体としてもなるべく早い段階で修正を行って最短での再挑戦を目指すことになった。

そして長崎・熊本両県は2018年の世界遺産登録を目指して文化庁に推薦書を提出し、禁教・潜伏と関連性の低い日野江城跡、田平天主堂の2件を除外して12の構成資産で再挑戦することになった。構成資産は以下。

■「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」構成資産
  • 原城跡(南島原市)
  • 平戸の聖地と集落[春日集落と安満岳](平戸市)
  • 平戸の聖地と集落[中江ノ島](平戸市)
  • 天草の崎津集落(天草市)
  • 大浦天主堂と関連施設(長崎市)
  • 出津教会堂と関連遺跡(長崎市)
  • 大野教会堂(長崎市)
  • 黒島天主堂(佐世保市)
  • 旧野首教会堂と関連遺跡(小値賀町)
  • 頭ケ島天主堂(新上五島町)
  • 旧五輪教会堂(五島市)
  • 江上天主堂(五島市)
なお、2017年にポーランドのクラクフで開催される第41回世界遺産委員会では「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が世界遺産登録を目指す。

[関連サイト]
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 5
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます