ほめすぎて“勇気”をくじいてませんか?
「ありがとう」「うれしい」という気持ちを部下に伝えていますか?
人は、大量のほめ言葉を受ければ、ほめられない状況に不満や不安を感じます。ほめ言葉によって操作されていることに気づけば、ほめた相手を信頼できなくなります。そして、表面的な価値だけをほられめていると、むなしさが残ります。したがって、意図的にほめ言葉を使うことには、大きなリスクが伴うのです。
心理学者のアルフレッド・アドラーは、「ほめることは“勇気”をくじくこと」だと言いました。人はほめられると、自然に上下関係を意識します。「えらいね」と“上から目線”でほめられれば、相手の優越性を意識しますし、「すごいね」と“下から目線”でほめられれば、自分の優越性を手放すことに恐怖を覚えてしまいます。
「えらいね」ではなく「ありがとう」の一言を
では、ほめることをやめたとき、どのような言葉かけができるでしょう? アドラー心理学では、「ありがとう」や「うれしい」といった言葉が「勇気づけ」につながると説明されています。「えらいね」「すごいね」とほめることは、“上から目線”“下から目線”で評価づけをしていること。一方で、「ありがとう」や「うれしい」は、自分が感じた素直な気持ちを相手に寄り添いながら伝えることです。人は、他者からこうしたメッセージを受けとることで、こころに内在する“勇気”、すなわち「私は、自分の力で建設的に生きていける」という意識が強化されるのです。
普段、子どもや部下に「ありがとう」や「うれしい」と感じる瞬間は、どのくらいありますか? 利益になる行為をしたときだけ、自分自身が尊重されたときだけ「ありがとう」や「うれしい」という気持ちを感じるなら、こころが固くなっているのかもしれません。
「ありがとう」や「うれしい」という気持ちをたくさん感じられる人は、日常に起こるささいなことに感謝や喜びを覚えているものです。今日も一日無事に生きられたことをありがたく感じ、家族や仲間がそばにいてくれることにうれしさを感じる。すると、子どもや部下のささいな行動にも、「ありがとう」や「うれしい」という気持ちを素直に向けられます。成果を出したときだけ、あるいは表面的な価値だけに反応してはいないのです。
ありふれたことに感謝や喜びを感じる感覚が大切
子どもや部下と共に生活・活動するなかで、「ありがとう」「うれしい」と感じる瞬間にもっと敏感になってみましょう。子どもが元気に育ってくれることこそ、親にとってはうれしいこと。部下がチームの一員となって働いてくれることこそ、上司にとってありがたいことなのではないでしょうか?みな、こころの中ではそうした気持ちが生じているはずです。しかし、その素直な気持ちを伝えず、作為的なほめ言葉にばかり繰り返してしまうから、お互いの気持ちがずれていくのです。
人は、ありふれた自分の存在や自分の行動に感謝や喜びの気持ちを向けられると、それだけで生きる“勇気”、頑張る“勇気”がみなぎります。その勇気を持って、人は自分自身の力で前に向かって歩み始めるのです。