2014年8月1日に施行された「改正都市再生特別措置法」に基づいて、全国の自治体で「立地適正化計画」の作成が進められています。まだ一般にはあまり馴染みがないかもしれませんが、それぞれの地域における「将来的な住宅のあり方」を大きく左右することになりそうです。
すでにいくつかの都市で立地適正化計画が作成・公表されているほか、いずれは多くの人が直面する問題ですから、「何がどう変わるのか」を中心に制度の主なポイントをまとめておくことにしましょう。
立地適正化計画の作成は2016年度に大きく進んだ
「立地適正化計画とは何か」という話の前に、まずは現在の進捗状況を確認しておきましょう。2017年3月31日現在で立地適正化計画について具体的な取り組みをしているのは、全国で348市町にのぼり、1年前より72市町の増加でした。都市をどう持続させていくのかは、これからの大きな課題
このうち2017年4月30日時点で立地適正化計画を作成・公表済みなのは106市町です。
1年前の2016年4月時点では、大阪府箕面市(2016年2月15日公表)と熊本市(2016年4月1日公表)の2市にとどまっていましたから、2016年度中に大きく進んだといえるでしょう。
他の市町でも2017年度以降に立地適正化計画の作成が進められるほか、348市町以外にもこれから新たに取り組みを始めるところが数多くありそうです。
立地適正化計画とは何か
今後のまちづくりにおいて大きな障害となるのが、急激な人口減少と高齢化です。東京都心部など一部の地域を除いて全国的に人口減少が本格化していきますが、高齢者人口の増加はまだしばらく続く見込みです。市町村の税収が減るのにもかかわらず福祉予算などは増大し、市町村の財政を圧迫します。それと同時に高度成長期に整備されたインフラ設備が更新の時期を迎えているものの、財政が厳しい状況ではなかなか手が回りません。
また、都市郊外部ではわずかな世帯が住む地区のために、年間数千万円あるいは数億円といったインフラ整備予算が使われることもありますが、財政難のなかで現在の都市の姿をこのまま将来も持続していくことは、多くの市町村にとって困難な状況でしょう。
そのため、人々の住まいや公共施設、医療施設、商業施設などを一定の範囲内に収めて「コンパクトなまちづくり」をするのと同時に、市街地の空洞化を防止しようとするのが「立地適正化計画」です。
公共交通なども含めて都市全体の構造を見直そうとするもので、都市計画法に基づく「市町村マスタープラン」の一部として位置づけられます。
なお、コンパクトシティなどの取り組みは以前から一部の都市で実施されていましたが、改正都市再生特別措置法では「コンパクトなまちづくり」と「公共交通によるネットワーク」の連携を具体的に定めるとともに、都市全体の将来像への「誘導」を図るものとしています。
都市計画区域の「一部」に「居住誘導区域」を設ける
立地適正化計画の内容はそれぞれの市町村で異なりますが、それぞれの地域の実情を反映したものになるでしょう。そのため例外が生じる場合もありますが、原則として現行の都市計画区域全体を「立地適正化計画区域」とします。そのため、これまで都市計画が定められていなかった町村は、立地適正化計画の対象外だと考えて構いません。
都市計画区域が市街化区域と市街化調整区域に分かれている場合には市街化区域、これが分かれていない場合(非線引き区域)にはその全体を対象としたうえで、その一部に「居住誘導区域」を設けます。
居住誘導区域は一つの市町村内に複数が設定される場合もありますが、それぞれの居住誘導区域のなかにはさらに「都市機能誘導区域」が設定されることになります。
主要な鉄道駅、既存の中心市街地などを核にして都市機能を集め、その周りに居住エリアを配置すると考えれば分かりやすいでしょう。
さらに、居住誘導区域の外側(市街化区域内、非線引き区域の場合は都市計画区域内)には「居住調整区域」を配置することができます。
居住調整区域の設定は任意ですが、市街化調整区域と同様にみなすことで居住の集積や新たな住宅地化を防止し、将来的なインフラ投資を抑制しようとするものです。
また、今後の人口増加が見込まれるような地域であっても、土砂災害の危険性が高いところなどは居住誘導区域に含まないようにする措置がとられるほか、任意で「跡地等管理区域」「駐車場配置適正化区域」などが設定される場合もあります。
立地適正化計画は、今後も一定の人口密度を維持して生活サービスやコミュニティを持続的に確保しようとする区域(居住誘導区域)と、それ以外の区域の線引きです。
極論すれば「維持する区域と見捨てる区域の仕分け」といえるかもしれません。行政側は決してそのような表現はしないはずですが……。
居住誘導区域外でも住宅の建て替えなどは可能
立地適正化計画によって「居住誘導区域に指定されなかったエリア」では、3戸以上の住宅建築や1,000平方メートル以上の宅地開発など、一定規模以上の行為を届出対象とすることで、住宅の集積が抑制されます。また、居住誘導区域外でも個人宅の建て替えや、所有する敷地への自宅新築などが制限されるわけではないため、用途地域の指定は維持されます。ただし、必要に応じて用途地域の見直しはされるでしょう。
「個人の住宅は建築可能」だとはいえ、居住誘導区域外で土地や既存住宅を購入する際には、将来的なことをしっかりと考えなければなりません。周りの公共施設や医療・福祉施設が移転し、商業施設が撤退することで、次第に暮らしにくくなることが予想されるのです。
居住誘導区域外になるのは、原則として人口減少の深刻化が予測されているエリアですから、加速度的に衰退が進むこともあるでしょう。「流通性の面で考えた住宅の資産価値」は急激に落ち込み、将来的に売れない、貸せない、処分できないといった「負の資産」になりかねません。
居住誘導区域外の家が相続されることによって、放置空き家の仲間入りをする可能性が高まることもありそうです。
住宅購入の際には立地適正化計画の確認を
これから住宅や土地を購入する際には、市町村における立地適正化計画の内容、あるいは作成に向けた動きなどを確認しておくことが必要です。まだ具体的な取り組みを始めていない市町村でも、一定の注意は欠かせません。
さらに留意しておきたいのは、立地適正化計画がその達成状況などを見極めたうえで「都市計画や居住誘導区域を不断に見直す」としていることです。いったん作成された計画が、数年で改定されることもあるのです。
立地適正化計画を作成したからといって市町村内の人口が増加に転じるわけではなく、たいていは人口減少が進むなかでの見直しとなりますから、そのたびに「居住誘導区域を徐々に縮小していく」という流れになるでしょう。
また、立地適正化計画やコンパクトシティ化の推進にあたってはさまざまな支援措置が設けられているほか、国土交通省を事務局にして内閣官房、復興庁、総務省、財務省、金融庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省の10省庁が構成する「コンパクトシティ形成支援チーム」が2015年3月に設置されています。
このチームは「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2014年12月27日閣議決定)によって設置され、コンパクトシティ化に取り組む市町村を支援するためのものですが、それだけ国も本腰で動き出しているといえそうです。
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