【Pick of the Month JUNE】
ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯
6月6日~22日=シアタークリエ

『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古取材にて。左から演出・岸谷五朗さん、知念里奈さん、柿澤勇人さん、平間壮一さん、松下洸平さん。(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古取材にて。左から演出・岸谷五朗さん、知念里奈さん、柿澤勇人さん、平間壮一さん、松下洸平さん。(C)Marino Matsushima

【見どころ】

1980年代に一世を風靡しながら、AIDSのため31歳の若さで亡くなったアーティスト、キース・へリング。彼の“駆け抜けた人生”を描いた03年初演のオフ・ブロードウェイが、このたび日本に上陸。アメリカ以外での公演は今回が初となります。

ヒップホップやクラブ音楽等、多彩な音楽に彩られた物語を演出するのは、93年から行っているチャリティ活動Act Against AIDSのTシャツにキースのイラストを使用以来、キースに対して強い思い入れがあるという岸谷五朗さん。キース役に柿澤勇人さん、友人のカメラマン、ツェン・クワン・チー役に平間壮一さん、アシスタントのアマンダ訳に知念里奈さん、恋人でDJのカルロス役に松下洸平さんという魅力的な布陣で、キースの凝縮された“生”がパワフルに描かれそうです。

【稽古場レポート】
『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古(C)Marino Matsushima

まず披露されたのは冒頭のシーン。3人の子供たちが歌う背後で、主人公キースが失踪したため途方に暮れる、アマンダとツェン・クワン・チーの姿が描かれます。一般向けミュージカルで子供たちが水先案内を勤める趣向は非常に珍しく、これはキースのイノセントな魂の表現なのか、あるいは別の何かだろうかと、イマジネーションを刺激されるスタート。人物アイコンのようなキースの代表的絵柄をダンサーたちが体現する振付もユニークです。
『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古(C)Marino Matsushima

続いてはキースがツウェン・クワン・チーと訪れたディスコで、DJカルロスと出会うシーン。ディーバウーマン(エリアンナさん)、ディーバマン(Spiさん)のパワフルな歌声が響き、激しく踊る若者たちの渦の中でカルロスはキースを見染め、「彼をものにする」とアプローチしてゆきます。自分を場違いと感じていたキースはカルロスに吸い寄せられ……。高揚感の中で展開する二人のセクシーな一挙手一投足に、観ている側も釘づけです。
『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古(C)Marino Matsushima

そして最後に披露されたのが、キースの“もう少しこの世界にいたい”という思いがほとばしるナンバー「Stay」の歌唱披露。劇世界を離れて子供たちとメインキャストたちが一列になり、歌います。キースとツェン・クワン・チー、アマンダ、カルロス。それぞれの思いが交錯しながら切々と歌われるこのナンバー、本番ではどんな演出で歌われ、どんなラストへと繋がってゆくのかと興味がいや増します。
『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古(C)Marino Matsushima

その後の囲み取材では、岸谷さんが「稽古は今、2幕目に差し掛かったところで……いい感じで遅れています」と笑わせながらも「“生きるために”駆け抜けた青年のこの物語は、きっと(観客に)元気を与えられると思います」と太鼓判。カンパニーの雰囲気づくりに定評のある岸谷さんの現場は今回も充実しているらしく、柿澤さんは「まだ皆で探している部分もあるけれど、今回は声の色もダンス(・スタイル)も違う、でも熱い人たちが集まっているので、いろんなものが混在した80年代という時代を描けるのではないかと思う」、知念さんは「(出演者は)みんな色が違う中で、作品がこんなふうに演出されてゆくんだと(発見の連続で)すごく楽しい」、平間さんは「岸谷さんは(役者の)チームワークから出てくるパワーを大事にする方なので、きっと作品にもそれが表れてくると思う」、松下さんは「物凄くスピード感のある作品だけど、岸谷さんは僕らをすごく褒めて、モチベーションを下げないようにしながらケツをたたいてくれる。僕らもそれに応えたい」と語ります。
『ラディアント・ベイビーundefinedキース・ヘリングの生涯』稽古(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』稽古(C)Marino Matsushima

取材日はちょうど演出家・蜷川幸雄さんが亡くなった翌日とあって、『海辺のカフカ』で蜷川演出を受けた柿澤さんは「初演の時には稽古で“やめちまえ”とか散々言われたけれど、何とか食らいついて、再演の時に“お前ほんとにいい役者になったな”と言ってくれた。あっちの世界で“つまんない芝居してるな”とおっしゃっているかもしれないけれど……ぜひ(今回のキース役を天から)観てほしいです」と涙声で思いを吐露。“限られた命”への思いもいっそう重なり、“迫真のキース”のドラマが生まれそうです。

『ラディアント・ベイビー』観劇レポート
それぞれの“SPACE”でどう生き切るかを問う
若き天才の壮絶な“生”の記録

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

22歳で描き始めたチョーク・アートで一躍、名声を得たポップ・アーティスト、キース・ヘリング。本作はその彼が自分を見失いかけた29歳の頃を軸に、過去の様々な場面をフラッシュバックさせつつ、壮絶な晩年へと突き進むさまを描いて行きます。
『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

絵を描くこと以外に居場所のなかった少年キース(柿澤勇人さん)はNYに移り、アート・スクールに入学。そこで親友となったツェン・クワン・チー(平間壮一さん)とディスコ「パラダイス」を訪れ、DJカルロス(松下洸平さん)に見初められます。ディーバたちの迫力の歌声とアンサンブルの激しいダンスが絡み合う中、舞台中央で運命のように互いに引き寄せられる二人。キースの“生”がほとばしり、場内全体が恍惚感に覆われる、前半最大の見どころです。
『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

アーティストとしての地位を確立し、アマンダ(知念里奈さん)という有能なアシスタントも得るものの、“一億円のアートを少数のコレクターに売るのではなく、1ドルのアートを1億人に所有してほしい”とオープンしたPOP SHOPは“搾取だ”と批判され、カルロスとの仲も変化(松下さん、抱えるものの大きなキースについていけない心情をリアルに表現)。さらには発症していたエイズの症状も悪化し、空間的にも時間的にも、自分には描くべき「SPACE(間)」が残されていないと感じるキース。彼が文字通り床をのたうちまわりながら歌う絶望と焦燥のナンバー「Draw Me a Door」、そして一通の手紙をきっかけに「ただ、進もう」と再起し、驚異的なスピードで作品を仕上げてゆく「Faster Than the Speed of Life」での柿澤さんには鬼気迫るものがあり、キースが“降りてきた”としか思えないその姿に心揺さぶられずにはいられません。
『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

そして狂騒と色の洪水にまみれた世界から一転、何もない舞台には白い衣裳を纏って立ち尽くす、キースとツェンの姿が。一人は光、もう一人はその影として生きた意図を語り合い、友情を確かめあう二人(本心を吐露するツェン、平間さんの切なくもあたたかな表情が印象的)。そこにアマンダ(清潔で聡明な役柄が嫌味なくはまる知念さん、適役)、カルロスが加わり、切々と“もう少し(ここに)いて”と歌います(「Stay」。)
『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

『ラディアント・ベイビー~キース・ヘリングの生涯~』(C)Marino Matsushima

舞台を観ていてふと筆者の脳裏によぎったのが、90年代のベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間』(本川達雄著)。体の大きなゾウの心臓はゆっくり、小さなネズミの心臓は早く動くけれど、生まれてから寿命を迎えるまでに動く回数はだいたい同じ、と説く教養書です。31歳という若さでこの世を去ったキースですが、誰よりも濃密に生き、数は少なくともかけがえのない友を得、仕事においても普通のアーティスト一生分に匹敵する量の作品を残したその人生は、儚むべきものではないのかもしれない。生きるスピードは人それぞれであって、肝心なのはそれをいかに“生き切るか”なのかもしれません。岸谷五朗さん演出作品ならではのカンパニーの一体感で、目まぐるしい展開もスムーズに、熱量を落とすことなく見せてゆく本作。観る者を悲嘆に沈ませるのではなく、逆に今、自分に与えられた“SPACE”で精一杯生きようと改めて思わせる、“パワー”と“思い”に溢れた舞台と言えます。

*次頁で『ブラック メリーポピンズ』以降の作品をご紹介します!*