メンタルを病む若手社員が増えている
「適応障害」に悩む若手社員が増えている
昔から心の病であるうつ病は存在していました。しかし、最近の若手社員でよく耳にするようになったのは「適応障害」という診断です。
適応障害とは、ある生活の変化や出来事がその人にとって重大で、普段の生活がおくれないほど抑うつ気分や不安・心配が強く、それが明らかに正常の範囲を逸脱している状態です。ICD-10(世界保健機構の診断ガイドライン)によると「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義されています。
つまり、働くという環境にうまく適応できず過度のストレスを感じることで、ドキドキや発汗、めまいなどの体の症状や、無断欠勤やケンカなどの攻撃的な特性があらわれてしまうということです。
適応障害の社員が増加した社会的背景
ベテラン社員の方には「昔は適応障害なんて聞いたことなかったのに」と感じた方も多いのではないでしょうか。これも、時代の流れの中で起こった社会構造の変化が背景にあると考えられます。ひとつの要因には、力不足の社員を許容することが難しくなった企業側の環境変化があります。企業活動がグローバル化し、海外企業と熾烈な競争をしなければいけなくなった結果、即戦力以外の社員を受け入れる余裕が企業サイドになくなったのです。
一昔前は、新入社員は見習いと称して、さまざまな経験を積む環境がどこの企業にもありました。しかし今は、ビジネスのスピードも、扱う情報量も、仕事の質も劇的に高度化しています。その結果、若手社員には語学・プレゼン・企画・営業など、なんでもこなせるスキルがデフォルトのスペックとして要求され、入社直後から一線級の活躍が期待されます。求められるスキルセットや期待が高くなった結果、企業が求める要求と実際のギャップが、大きなストレスとなって若手社員を苦しめているのです。
もうひとつの要因には、若手社員が未熟なまま社会に出てしまっているという面もあります。メンタルを病んでしまう若手社員の傾向として、「他責的な思考」「社会的な未熟さ」があります。何らかの適応できない環境に遭遇した場合、「上司がやり方を教えてくれない」「企画の仕事がしたいのに、活躍できる環境を会社が与えてくれない」といった具合に、できない原因を自分ではなく他人にあると他責にするのです。
また、敬語が使えない・時間が守れない・挨拶ができないなど、社会人としての基本的な要素が身についていない人が多いのも特徴です。そのような人は、コミュニケーションが自分本位である傾向が強く、組織で求められる報連相(報告・連絡・相談)も苦手な傾向にあります。
こういった若手社員の未熟さの背景には、両親との関係性の変化があります。絶対的な主従の関係があった一昔前の親子関係がパートナーとして友達化すると、先述のような社会人としての心構えが身につかないこともあります。その結果、適応障害やパーソナリティ障害と診断される若手社員が増えてしまうのです。
改善のためには、環境を変えるべきか?自分を変えるべきか?
適応障害を改善するためには、「環境を変える」「自分を変える」のふたつの選択肢しかありません。「環境を変える」はストレス要因を取り除くアプローチです。ストレスの原因となっているのが職場にあるのであれば、働く環境を変えることで症状が改善する可能性があります。人間関係が変わったり、希望の職種で働くことができたりと、“自分の外側”のストレス要因を取り除くことができるのです。
「自分を変える」は本人の適応力を高めるアプローチです。物ごとに対する自分の受け止め方や考え方、スキルそのものを見つめなおすことで、自分自身が変わり、環境への適応力を高めるという方法です。
旧来からあるうつ病のような、ハイパフォーマンスな社員が職場の過重性が高いことが原因で心が限界状態に達してしまうようなケースでは、環境が改善されれば問題が解消されることが多いです。このようなケースでは本人の意思を尊重し、環境を変えるという判断も妥当な選択肢だと思います。
一方で、現代型若手社員のメンタルの場合、まずは自分を変えるアプローチを選択することをおすすめしています。というのも、環境を変えることでうつ病になるなどの重症化は止められますが、本人の環境適応力が低いため、次の環境で同様に適応障害を再発するケースが極めて多いのです。若手社員のメンタル無限ループを打破するためにも、本人の適応力を高めるアプローチに取り組むことが肝要です。
若手社員の適応力を高める方法
それでは、適応力を高める具体的な方法についてお伝えしたいと思います。変えるべきは、仕事の「スキル」と「スタンス」です。メンタルを病んでしまう若手はそのどちらか、あるいは両方が不足しているケースがほとんどです。
スキルとはまさに仕事に直結するビジネススキルのことです。これが足りないことで、周囲からはローパフォーマーと認識されてしまいます。
一方スタンスとは仕事に対するマインドのことです。スタンスが悪い社員は、ルールを守りません。時間にルーズだったり、約束をやぶったり社会人として基本的なところができていません。
これらを少しずつ改善させてあげるようにフォローしてあげることが、周囲には求められています。そのための3つのステップをご紹介しましょう。
- 本人に事実を認識させる
先ほど述べたように、メンタルを病んでしまう若手社員は他責的な思考をもちやすいため、自分の仕事のスキルが求められるレベルに達していないことをそもそも認識していないケースがほとんどです。周囲からローパフォーマーだと思われていても、本人の自己評価は異なります。これでは一向に改善がみられません。
このような場合の効果的な対処法としては、会社側が本人に対して求める期待値を明確に伝え、それを元に現在の自分の持ち合わせるスキルとのギャップを認識させる必要があります。自分のスキル不足に対して、気づきのきっかけを事実ベース(数値や行動)で伝えることは、改善に向けた大きな一歩となります。本人が事実に気づくということで、現状打破の必要性を自らが感じ取ることができ、行動変化へと結びつきやすくなります。
- 具体的な行動目標を定める
次のステップとしては、「いかに期待値と現状のギャップを狭めていくか」です。達成までの過程の中で、まずは今からでも出来るような「小さく具体的な行動」を目標設定してみましょう。仕事で成果を出すといった抽象的な目標ではなく、「出社したら●●さんに挨拶する」といったぐらい具体的な目標に落とし込むことが大切です。目標をひとつひとつクリアしていくことで、徐々にステップアップを図っていきます。
人は常に認められたいという承認欲求を持っています。本人の改善や努力を認め、できたことを褒めるということを忘れてはなりません。
- 期限を設ける
具体的な行動をいつまで続けるか?を決めておきましょう。ここまでに目標が達成できなかった場合は環境を変える、などと明確な期限を設定してみてください。まず2週間やってみて、どんな変化があるのか振り返ってみましょう。そしてそのまま3ヶ月この目標をやってみて下さい。期限があることで、ここまでだったらがんばれるとモチベーションになるケースもあります。期限を決めないと、本人もそして周囲もどんどん疲れていってしまいます。
時代とともに変化し続ける心の病。働くひとの社会問題として、今後も注目され続けることと思います。これらの問題解決には本人と社会の双方の理解と歩み寄りが必要です。心の病の背景、原因にも目を向けながら、効果的なアプローチを実践していきましょう。
■参考
みんなのメンタルヘルス(厚生労働省)
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