運動器って何?

学校医による健康診断に運動器が加わったの図

学校医による健康診断に運動器が加わった

運動器とは「運動に関する器官」のことを言い、体を動かすことに関わる筋肉や関節などを指します。運動器を専門にする医師は整形外科医です。WHO(世界保健機関)の「Bone and Joint Decade 2000-2010」に呼応し、日本でも「運動器の10年」という標語で啓発活動をされている団体がありますので、公益財団法人日本整形外科学会のHPと共に参考にして下さい。


運動器の疾患の代表は、外傷が主な原因である骨折、捻挫、肉離れなどです。その他にも加齢とともに多くなるのが、変性疾患と言われる変形性膝関節症、変形性脊椎症などがあります。肩関節周囲炎も四十から始まるという名前が示す通り、変性疾患の一種です。運動器の症状としては腰痛や肩こり、関節痛など国民の多くが悩んでいることが当てはまります。

実は多い運動器の専門家

運動器の障害としては、構造的に破綻をきたした状態と、構造的には問題ないが機能的に問題がある状態とがあります。機能的とは曲がるとか伸ばせるなどの「働き」を指します。

例えば、骨折は形が変わってしまう事ですので構造的障害です。対応としては外科的処置が適応となります。診断も画像診断が適しており、画像で見ているのは構造です。

それに対して、例えば手が上がらなくなったとします。画像で問題が見つからない場合は、構造の破綻ではありません。しかし、手を挙げるという「働き」は障害されていますから、このようの場合は機能障害ということになります。機能障害は画像では写りませんので、筋力検査や可動域検査などの機能的な検査が必要になります。機能障害はあるが構造的に変化がない場合には、運動療法や物理療法などの保存療法が適応となります。

医師の仕事は、構造に対して手術で処置をする外科と、機能に対して薬で処置をする内科に分けられますが、実は運動器の専門医に外科はありますが、内科はありません。消化器内科に消化器外科、神経内科に脳外科など多くの専門医が内科と外科が両方あるのに比べると意外です。

他の器官とは異なり、運動器の機能障害に関しては、薬で原因を取り除くことができないのです。痛み止め程度の対症療法が関の山です。そして、薬を処方しない保存療法は医師の仕事ではありませんので、手術をしない機能障害に対しては医療専門職である「理学療法士」という療法士(therapist)が対応します。


海外では、手術の必要な運動器疾患は整形外科クリニックや病院にかかり、手術の必要のない運動器疾患は理学療法士クリニックにかかるのが常識です。日本では、理学療法士に開業権がありませんのでクリニックはありませんが、関連職種として他に柔道整復師やはり師、きゅう師、あん摩マッサージ指圧師があります。これらの専門家も同じように資格化されかつ理学療法士とは違い開業権がありますので、一般の方にとっては身近かもしれません。

運動器に対する保存療法の担い手が多いという意味では、海外よりも日本の方が運動器の専門家は多いのかも知れません。最近では、アスレチックトレーナーの方々もトレーニングとして体の使い方を指導されているので、運動器の専門家として一役担っておられると思います。

なぜ今運動器検診が必要なのか?

最近では子供の運動能力に開きが出てきているの図

最近では子供の運動能力に開きが出てきている

学校では、真っ直ぐ立っていられない、和式トイレにしゃがめないとか、体育や部活動中に骨折するなどの児童が多発しているそうです。ある調査では児童の学校内での骨折の発生率は40年前の2.5倍だそうです。食生活や運動不足など様々な要因が重なって起こった結果だと思いますが、早期に学校健診で発見して対応しようというのが運動器を新たに導入した一つの狙いです。

また、スポーツ障害の多発も問題視されています。習い事として小さい頃から専門的な運動をする子どもが増え、それにより運動器の障害が発生しています。しかし、子どもは体の異変に自分で気づくことが難しかったり、自分の判断で我慢したりしてしまうため、早期にそのような問題を客観的にピックアップできるためにも運動器が学校健診に加わりました。

運動器検診は誰が実施するの?

学校健診は学校保健安全法施行規則第23条に規定されている「学校医」が担当します。学校医は、学校近隣の開業医が担当することが多く、学校内で多岐にわたる役割を担っています。主な5項目を以下に提示します。

  • 児童生徒等の健康診断
  • 就学時健康診断と教職員の健康診断
  • 学校保健安全計画の立案
  • 疾病の予防処置と保健指導
  • 保健管理に関する指導

学校医の専門科目は特に規定されていません。学校健診の項目は身長、体重測定から、皮膚、眼、栄養状態など多岐に渡ります。学校医の先生は専門の内容でなくても対応しなくてはならず、今回の運動器に関しても、整形外科を専門としていない内科や小児科の先生も担当することになります。

そのため、学校健診はあくまでスクリーニングの意味合いですので、この運動器検診で問題が見つかった場合は二次検診と言って、専門の医師へ受診を促す形になります。

運動器検診の流れと具体的内容

実際に運動器検診の大まかな流れを示します。

  1. 保護者による調査票の記入と養護教諭(いわゆる保健室の先生)への提出
  2. 養護教諭による整理。学校医に報告
  3. 学校医による検診の実施
  4. 学校医の検診で異常が認められた場合は整形外科医の受診を勧める

今までも、脊柱側弯や胸郭の変形の検診は行われていましたが、そこに今回「四肢の状態」が加わりました。四肢の状態とは具体的には主に以下の2つの観点から検査を実施します。専門医への二次検診の紹介対象は、体に1ヶ月以上続く痛みがあり、かつ医療機関を受診していない方が基本的に対象となります。

■運動不足による問題
  • 片脚立ちを5秒保持できない
  • 体を前屈、後屈できない
  • 膝や足に痛みがないがしゃがみこむことができない

■運動過多による問題:
  • 関節に痛みがある
  • 両腕を左右差や痛みなく完全に上まで上げることができない
  • 両肘を左右差や痛みなく完全に曲げ伸ばしすることができない
運動器は子どもの元気の基礎的役割の図

運動器は子どもの元気の基礎的役割


運動器検診の全体像は把握できたでしょうか。以下に参考となる資料や動画の情報を列挙します。新しい試みですから、現場やご家庭ではある程度の戸惑いは生じると思いますが、運動器への認知度、問題意識の向上が高まることで、運動器の障害が減ることを運動器の専門家の一員として祈っています。


【参考資料】
学校保健安全法施行規則の一部改定等について(通知) 
学校保健安全法 

【動画サイト】
・岩手西北医師会 「運動器検診マニュアル」
・運動器検診JCOA版アニメ運動器検診マニュアルビデオ 
一般社団法人栃木県医師会 
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