セクシュアルマイノリティ・同性愛/LGBT

映画『人生は小説よりも奇なり』に見る幸せのかたち(4ページ目)

3月は卒業シーズンですね。過去を振り返り、総決算し、未来へと向かって歩き出す…今月は、そんなイメージのコラムを3本、お届けします。イチ押しは、現在公開中の映画『人生は小説よりも奇なり』です。愛する人と一緒に暮らせなくなることのせつなさが胸に沁みつつ、一方で新たに生まれた愛に希望を見出せます。ぜひご覧いただきたい名作です。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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サム・スミスの失敗に学ぶ ~歴史を知ることの大切さ

サム・スミス

 

2月28日(現地時間)に行われた第88回アカデミー授賞式で、サム・スミスが映画『007 スペクター』の主題歌「Writing's On The Wall」でアカデミー歌曲賞を受賞しました。昨年のグラミー4冠達成に続き、今度はオスカーも獲得しました(おめでとうございます!)

サム・スミスは「イアン・マッケランが数ヵ月前にオープンリー・ゲイでオスカーを受賞した人はいないと言っている記事を読みました。もしそうでも、そうでなかったとしてもこの賞を世界のLGBTのコミュニティに捧げます。僕は今夜、ゲイの男性として誇りを持ってここに立っています。いつの日かみんな全員が、お互いに平等な立場で一緒に立てるといいと思います」とスピーチしました。

受賞した自分のことよりも、LGBTコミュニティのために語っていたサム。これを観ていた世界中の10代・20代のゲイたちは(その中には、学校でいじめられたり、家を追い出されたり、自殺未遂を図ったことのある子たちが本当にたくさんいます)、本当に勇気づけられたはず。素晴らしい! とゴトウは思いました。

しかし、このスピーチは、多くの人やメディアから批判を受けることになりました。

2009年に映画「ミルク」でアカデミー賞脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラックはこのスピーチのあと、自身の受賞時のスピーチの動画をTwitterにアップして「LGBTの歴史を知ることは大切」「僕のフィアンセ(「飛び込み王子」トム・デイリー)にメールしないでくれるかな」とコメントしました。これに対して、サムは「ぼくは2番目か、3番目か…100番目かもしれない。でも大切なのはそこではないんだ」「僕が愛するLGBTコミュニティに光を当てたかったっていうのが重要なんだ」「混乱させてしまったことに謝罪します。あなたの映画をチェックするようにします。遅くなりましたが、オスカーおめでとう」とリプライしました。ダスティンはあとで、サムへのコメントはジョークだよ、とフォローを入れています(もともとサムとトム・デイリーは友達だそうです)。

ちなみにこれまでオスカーを獲得したオープンリーLGBTとしては、ダスティン・ランス・ブラック(脚本賞)のほか、アラン・ボール(脚本賞)、ビル・コンドン(脚色賞)、ペドロ・アルモドバル(外国語映画賞)、スティーブン・ソンドハイム(歌曲賞)、メリッサ・エスリッジ(歌曲賞)、エルトン・ジョン(歌曲賞)らがいます。たしかに俳優でオープンリー・ゲイの俳優でオスカー獲った人はまだいません。イアン・マッケランは『ゴッド&モンスター』で主演男優賞にノミネート、『ロード・オブ・ザ・リング』で助演男優賞にノミネートされてますが、未だ無冠です。でも実は、オープンリー・レズビアンとしては、リンダ・ハントが1982年の『危険な年』でアカデミー助演女優賞を受賞しているそうです。受賞当時カミングアウトしていなかったけど今はしてるという人たちも含めると、ジョディ・フォスターが主演女優賞、ジョエル・グレイ、ジョン・ギールグッドが助演男優賞を受賞しています。

ゴトウは失敗することは1ミリも恥ずかしいことではないと思っています。恥ずかしいのは、チャレンジもせず、失敗した人をバカにする行為です。サムはまだ23歳です。別に活動家でもなんでもなく、ずっと音楽一筋でやってきた人。たまたまゲイだってことをフィーチャーされがちなので、ロールモデルとしての意気込みがあったのでしょう。

意外だったのは、『タイム』のような一般メディアが手厳しくサムを批判したことでした。「サム・スミスはLGBTオスカー獲得者の長い歴史を知ることを疎かにした」「彼はアカデミー賞という全世界が注目するステージに立つときに、ちょっとでも調べようという気にはならなかったのだろうか?」「LGBTコミュニティの若いメンバーが自分たちをLGBTの権利擁護のために闘う先駆者と自負するのは、とても気高い間違いで、彼らは過去のことを学んだうえでそうすべきだ」…厳しいですね(汗)。

日本でもたまに、先行事例を知らず、「まだ日本には○○がない」とか、「自分が初めて○○した」と言う方をお見かけします。でも、それも仕方ないかな…と。だって、LGBTの歴史をきちんと詳細に記述した本とかWeb上のアーカイブって無いですもん…。ゴトウは長年ゲイライターをやってきて、(「ゲイの考古学」を書いていた伏見憲明さんの影響もあり)歴史を伝えるということの重要性は意識していました。お金と時間に余裕があれば、そういうまとめの作業もやってみたいと思っています。そういう気持ちで、とりあえず、拙著『職場のLGBT読本』では、ざっくりではありますが、世界の歴史、日本の歴史を盛り込みました。よかったら読んでみてください。

今回の件がよほどショックだったのか、サムは未だにTwitterを休止しています…早く戻ってきてね、という気持ちです。これからも失敗にめげず、どんどん活躍して、エルトン・ジョンを超えるような、立派なゲイアイコンになってほしいと思います。
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