100万と1000万のグランドピアノ、価格差のワケとは?

アップライトピアノ、電子ピアノなど、一口に“ピアノ”と言ってもさまざまな種類があるのはご存知の通りですが、そのなかでもグランドピアノは少し特別な存在でしょう。一番手頃なものでも100万円程度、上級モデルになると数千万円になることも少なくありません。

この価格の差はいったいどこにあるのでしょうか?その答えを探るべく、直接メーカーにお話をうかがうことにしました。

ご協力いただいたのは、約120年前に初めて国産ピアノの製造に成功したヤマハ。歴史あるヨーロッパの一流ピアノと並んで世界的にトップクラスの評価を受け、さまざまなシーンで愛用されている日本を代表するブランドです。
グランドピアノの値段の違い

ヤマハ銀座店にはグランドピアノ以外にもさまざまなピアノが置かれています。

ヤマハが作っているグランドピアノだけでも10種類以上のモデルがあり、価格にも大きな差があります。今回の取材では、すべての自社製グランドピアノが展示されている(コンサートホール用の上位2モデルは除く)ヤマハ銀座店で、もっとも安い約100万円のグランドピアノと、もっとも高価な約1000万円のグランドピアノを実際に見せてもらいつつ、価格差のナゾを聞いて……さらに聴いてみました。
こちらが希望小売価格115万円(税抜)のコンパクトグランドピアノ「GB1K」。名前の通り、比較的狭いスペースにも置くことができるグランドピアノです。

こちらが希望小売価格115万円(税抜)のコンパクトグランドピアノ「GB1K」。名前の通り、比較的狭いスペースにも置くことができるグランドピアノです。

「CF4」の希望小売価格は1090万円(税抜) 。コンサートホールでの演奏などを目的に作られているものです。

「CF4」の希望小売価格は1090万円(税抜) 。コンサートホールでの演奏などを目的に作られているものです。
 

<Index>

グランドピアノの値段の差1:生産国、素材の違い

ヤマハには静岡県浜松市掛川とインドネシアにピアノ製造工場があり、最も安価な115万円のグランドピアノはインドネシアの工場で作られ逆輸入されています。一方、1000万円クラスのものは前述した静岡県の工場で国内生産。まず、ここが100万円と1000万円のピアノの違いのひとつとして挙げられます。

ただし、インドネシア製だから「質が悪い」というわけではありません。現地の職人達はいずれもヤマハの技術をマスターしていますから、ヤマハブランドの高い品質基準はしっかりとクリアしています。

もうひとつの違いは、使われている素材。グランドピアノの部品の総数8000個あります。ピアノに限らず楽器は小さな部品ひとつを替えただけでも響きに変化が生じる繊細なもの。より良い響きを追求していくと、素材のクオリティーも上がり価格に反映されるわけですね
こちらは1000万円クラスのピアノ内部。パッと見ではわからないかもしれませんが、ひとつひとつの部品が最高級品です。

こちらは1000万円クラスのピアノ内部。パッと見ではわからないかもしれませんが、ひとつひとつの部品が最高級品です。


特に木の材質は音の響きに大きく影響するので、値段に関係なく慎重に選別されていますが、1000万円を超えるグレードのピアノでは、最も共鳴性に優れたヨーロッパスプルースと呼ばれる高価な材木が使われています。

この他、音色を決める重要な役割をもつ「ハンマー」や「ミュージックワイヤー(ピアノ線)」、20トンもの弦の張力を支える「フレーム」など、高価なピアノは細部にわたり最上級レベルの贅を尽くした素材が使われているのです。
店内にはハンマーの機構を解説するスペースも。

店内にはハンマーの機構を解説するスペースも。

 

グランドピアノの値段の差2:塗装の違い

一見するとどれも同じに思えるグランドピアノですが、じっくり見れば価格によって外装にも様々な違いが施されています。その中でも特にこだわりのあるポイントをふたつご紹介しましょう。

<白鍵と黒鍵の違い>
100万円代のグランドピアノの多くは、白鍵、黒鍵ともに合成樹脂が使われていますが、1000万円を超えるピアノでは、吸湿性に富んだアイボライトと呼ばれる人工象牙が白鍵に、そして高級天然素材として有名な黒檀(こくたん)が黒鍵に使われています。見た目に高級感があるというだけでなく、手触りがいい、汗をかいてもすべりにくいという点で優れています。
鍵盤も値段によって差が出るポイント。こちらは1000万クラスの鍵盤。写真ではわかりづらいですが、実際に触るとその違いに気が付くはず。

鍵盤も値段によって差が出るポイント。こちらは1000万クラスの鍵盤。写真ではわかりづらいですが、実際に触るとその違いに気が付くはず。


<塗装の違い>
ピアノは通常どれも黒の鏡面艶出し塗装。でもよく見ると、同じ黒でも1000万円を超えるピアノは黒に深みが感じられます。それは「黒を超えて黒く」を追求し、熟練した職人が時間と手間を惜しみなくかけて仕上げた漆黒!
余談になりますが、1000万クラスのピアノは黒の深さに加えてツヤもすばらしいため、写真撮影をするときは写り込みに注意です。

余談になりますが、1000万クラスのピアノは黒の深さに加えてツヤもすばらしいため、写真撮影をするときは写り込みに注意です。

 

グランドピアノの値段の差3:工程期間の違い

通常、グランドピアノ一台を完成させるためにかかる期間は1年半。それだけでも驚きですが、1000万円を超えるピアノはその倍の3年という年月をかけて作られています。それだけ職人の精緻な手作業による工程が多いということを意味し、その違いは確実に音にも反映されているのです。
世界最高峰の職人が3年もの時間をかけて作る「CF4」。1000万円はむしろ安いのかもしれません……。

世界最高峰の職人が3年もの時間をかけて作る「CF4」。1000万円はむしろ安いのかもしれません……。

 

グランドピアノの値段の差4:音の響き、音色の違い

値段の違いは、最終的にはピアノの響きや音色に最も顕著にあらわれます。そして、100万円のピアノと1000万円を超えるピアノとでは、表現できる音色の幅、種類、そしてクオリティに格段の差があります

それでは安価なピアノと高価なピアノの音は、誰でも聞き分けることができるのでしょうか? 売り場に展示されていた中で一番安価なグランドピアノ「GB1K」と、1000万円クラスのグランドピアノ「CF4」を弾き比べてみました。以下の動画は、その様子を撮影したもの。使用した機材の関係もあり録音状態が万全とは言い難いですが、まずは聴いてみてください(演奏曲:ショパン/ノクターン2番 Op.9-2)。
 

……もしかすると「違いがわからない」という人もいらっしゃるかもしれません。それは、最下位モデルでもヤマハのピアノは性能がいいということもありますが、感性の優劣だけではなく、ふだん聴いている音楽のジャンル、そして好みにも関係します

違いがわからなくても恥じることはありませんが、楽器の奏でる良い響きがわかるようになるには、スピーカーを通した音ではなく、生の楽器の音をたくさん聴いて耳を肥やすことが重要。そしてBGMのようにただ聞き流すのではなく、じっくり音に耳を傾けることが大切です。

 

グランドピアノの値段の差5: 求められる技量の違い

ヤマハ銀座店の担当者いわく、100万円と1000万円のピアノの差は「軽自動車」に「F1マシン」と例えられるかもとのこと。それは、単純に性能差があるという話ではありません。

ふつうのドライバーが急に「F1マシンを運転しろ」と言われてもうまく運転できないのと同様に、1000万円のピアノも性能をフルに活用し、素晴らしいパフォーマンスを披露するためには高度な技術を求められるのです。ピアニストにとっては技量を試される恐ろしいピアノとも言えるでしょう。

一方で、その恐ろしさこそがまさにヤマハが最高級ピアノの理念として掲げた「ピアニストの思い描いたままの音を表現することができるピアノ」の所以でもあるのです。
実際に弾けば、タッチの繊細さ、音色の深みや響きの伸びなどあらゆる点で違いは歴然。一方で、それがピアニストにとっては恐ろしくもあるのです。

実際に弾けば、タッチの繊細さ、音色の深みや響きの伸びなどあらゆる点で違いは歴然。一方で、それがピアニストにとっては恐ろしくもあるのです。

 

結論:グランドピアノは1000万円でも高くない!

一番安いモデルでも115万円というグランドピアノですが「決して高いとは思いません」とは販売スタッフの声。実際に工場へ行き、多くの職人たちが時間をかけ丹念に緻密な作業を施していく製造工程を見ると、価格への印象が変わると言います。

ピアノはメンテナンスさえしっかりすれば、とても長いお付き合いができる楽器。何十年にもわたり、美しい音色で多くの人々に癒しや感動をもたらしてくれることを考えると、たとえ1000万円でも高いどころかプライスレスな価値があると言っても過言ではないのかもしれません。


【関連サイト】
■ヤマハ銀座店公式サイト
今回取材をさせていただいた店舗。ピアノ以外にもさまざまな楽器が取り揃えられています。

■ヤマハ掛川工場:グランドピアノ製造工場見学のご案内
ヤマハの掛川工場では、グランドピアノの製造工程を見学することが可能。ピアノを弾かない人でも楽しめると好評です。

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