京都を拠点に活動を続けるモノクロームサーカス。関西きっての実力派カンパニーとして知られています。
坂本>拠点は京都の紫野というところに置いています。ただふたりとも京都出身ではなく、僕は福岡県出身、森さんは滋賀県出身。でも僕はもう京都で過ごしている時間の方が長くなってしまいました。京都はリハーサルも十分できるし、いろいろな意味で居心地がいいですね。モノクロームサーカスの設立は1990年で、結成して25年になります。とはいえ、当初はダンスカンパニーではありませんでした。若い写真家や陶芸家、建築を学んでいる学生たちが集まって、ちょっと実験的なことをやってみようとパフォーマンスをしていた、パフォーマンスグループという感じでした。僕自身は、大学で美学を勉強して、大学院では人類学を勉強した……ことになっています(笑)。
あるとき振付家のスーザン・バージュが日本の伝統芸能に取材して新しい芸能をつくるという日仏プロジェクトを立ち上げ、フランスのアーティストインレジデンス・ヴィラ九条山で創作活動をスタートさせた。僕はそのオーディションを受けて、振付アシスタントのような形で参加することになりました。同じくオーディションを受けて入ってきたのが森さんでした。
モノクロームサーカスのパフォーマーは寄せ集めの集団だったので、ダンス経験がないに等しい。森さんに僕らにダンスを教えてくれないかとお願いして、レッスンをしてもらう内に仲良くなっていった感じです。その後1996年頃にメンバーがごそっと抜けたこともあり、ダンスカンパニーとして再スタートを切りました。なので、ダンスカンパニーとしての活動はちょうど20年目くらいです。
森>私自身はジャズダンスから始めて、モダンダンス、コンテンポラリーダンスと続けてきました。モノクロームサーカスのオリジナルメンバーがすごく面白いひとたちで、これだけ足が上がるといういわゆるダンサーとは違い、特種なパフォーマーばかり。私としては、彼らにダンスを教えて矯正してしまっていいのかな、という気持ちもありましたね。
当初からコンタクト・インプロヴィゼーションを取り入れていたのでしょうか。
坂本>当時ヌーベルダンスと呼ばれていた振付家を関西の日仏学館が沢山呼んでいて、有名どころではレジーヌ・ショピノやジョセフ・ナジなどが京都に来てワークショップを開いていました。彼らのレッスンを受けていると、必ずコンタクト・インプロヴィゼーション的な要素がどこかに入ってくる。森さんと一緒に“一体コンタクト・インプロヴィゼーションって何なんだろう?”という話をするようになったのがそもそもの始まりでした。1996年から『京都の暑い夏』というダンスワークショップのフェスティバルを開いていますが、そこにコンタクト・インプロヴィゼーションの先生を本場のニューヨークから呼ぼうということで、毎年いろいろな方を招くようになりました。だけど招聘をはじめて三年くらい経ったあたりで、来るひとによってみんな教えることが違うということに気付いた。じゃあ一体何なんだと、あまりにも掴めないことが多すぎて、森さんとふたりで一ヶ月くらいスタジオにこもってコンタクト・インプロヴィゼーションの体系を模索しだした。それが1998年頃です。
コンタクト・インプロヴィゼーションに飛び込んだのは、僕らにとってはごくごく自然な流れだったような気がします。当時は訳もわからず森さんをぶんぶん振り回してた(笑)。まわりがそれを見て、“森さん大丈夫?”“ケガしない?”って心配してましたね。
森>考えてみると、私自身小さい頃従兄弟のお兄ちゃんに振り回されるのが大好きで、いまだに同じことやっているなと……(笑)。たぶん私たちふたりともバレエ経験がなく、大人になってからいわゆるダンステクニックを習い始めたので、コンタクト・インプロヴィゼーションの方が魅力的に見えたというか、追求し甲斐があるように感じたのかもしれません。
コンタクト・インプロヴィゼーションの訓練法とは? ワークショップやレッスンではどのようなトレーニングを行うのでしょう。
森>触れることから始めます。そこで知覚に気付いてゆく。これは特に私たちのメソッドという訳ではないけれど、コンタクト・インプロヴィゼーションはモノクロームサーカスの必修科目ではありますね。坂本>まずはスタジオだったらスタジオ、体育館だったら体育館とか、その空間を知るところから入っていき、よくよく目を凝らして見てみたり、どういうものが発見できるか歩いてみたり、歩いたことのないルートを辿ってみたり……。日常から知覚のフレームをちょっと剥がしていく、日常的な次元で知覚に気づき直していきます。
コンタクト・インプロヴィゼーションのダンサーに必要な身体、魅力を感じる要素とは?
坂本>身体と身体で面し合ったときに身体を知っていること、習熟度だと思います。相手の身体を使える、自分の身体を使える習熟度。構造としても身体ってリアルじゃないですか。例えば、肘は反対側には曲がらないし……。身体の構造や機能をよくわかっていて、それを動きに生かしていけるひとがいいですよね。森>自分の身体を聞けること、相手の身体を聞けること、身体で対話できること。でも誰でもみんなそうして生きているんじゃないかと思います。
コンタクト・インプロヴィゼーションを作品化する過程とは?
坂本>インプロを繰り返して面白いフレーズを定着させ、そこからまたインプロで動いてみて、何か面白い動きを見つけて固定化させていく……、という作業を繰り返します。僕らの場合、作品をつくるときはそれを緩いルールのもとで行い、コンタクト・インプロヴィゼーションという形にしていく感じ。セットされたインプロという言い方をしていますが、インプロなんだけど、ルールが決まっているような状態です。なかには完全に組み上げてしまうものもあるし、作品によっていろいろ使い分けています。相手もひととは限らず、建築とコンタクト・インプロヴィゼーションをテーマに行い、壁面や窓を使ってどういう作品ができるか試してみたり、ということもありますね。森>『緑のテーブル』ではテーブルを使ったし、ひと以外のものとのコンタクト・インプロヴィゼーションはこれまでもいろいろやってきました。『収穫祭』シリーズではパフォーマンスの出前をしていますが、そうなると劇場ではない空間、ひとの家だとか、環境に適応しながらパフォーマンスをすることになる。あとgrafのショールームでワークショップをしたことがあって、そのときはテーブルに乗ってみたり、椅子に足をかけてみたり、いろいろ身体で遊ぶようなコンタクト・インプロヴィゼーションを試しました。
服部>コンタクト・インプロヴィゼーションという考え自体がデザインのリサーチとしてすごく面白いんですよね。触れるという行為が自分に問うことであるにせよ、外に触れていくという作業がベーシックにあるのはモノクロームサーカスの面白さだと思います。