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加藤みや子『Voice from Monochrome』インタビュー!(4ページ目)

東日本大震災をテーマに創作し、注目を集めた加藤みや子振付作『Voice from Monochrome』。2013年の初演から3年の時を経て、この春再演を果たします。ここでは、オリジナルキャストであり作品の核を担う、石井かほる、武内靖彦、加藤みや子の3者にインタビュー! 作品への想いをお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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みなさんダンス界の第一線で長く活躍し、今なお精力的に踊り続けています。長い間ひとつの道を信じて歩んで来られた理由、ブレずにいられる訳とは?

武内>僕はもともと自己流で始めましたが、当時は舞踏ブームの最初だったので、いわゆるダンス体験のないひとがほとんどでした。途中3年間だけ大野一雄先生のところへ行きましたけど、大野先生は“ああしろ、こうしろ”と手足を取って教えるひとではないですから。とにかく“はい、即興”と言う。一時間半即興で踊って、終わっても何も言われない。先生の想像というか妄想みたいな話はいろいろするけれど、具体的に手足がどうのということは一切言われなかったですね。ただ良ければいいんだと。身体の表現ということでいえば、いいものはいいとしか言えないということだと思います。

最初にリサイタルを開催したのが1971年で、24歳のとき。それからカンパニーには一切入らず、ソロでリサイタルを続けてきました。最初の舞台から次の公演まで1年くらい間があいて、舞台をやるたび当然失敗する。腹が立つし、悔しいし、自主公演でお金を注ぎ込んでしまってるからすごい赤字になる。最初は高円寺会館でしたけど、あとは厚生年金会館とか草月ホールを借りたりしてた。そうするとハンパな額ではない訳です。博打でどんどん注ぎ込んでるみたいで、辞められなくなっちゃう。土方さんには、“武内はあれだな、リサイタルボーイの悲哀だな”と言われました。徒党を組まずにきたのでお金はずいぶんかかりましたけど、ここまで来ちゃったらもうやらなきゃという気持ち。後には引けないぞと、損を取り戻そうとしている感じです(笑)。

pH

 

石井>私は表現できるものがダンスだけなんです。いろいろ探してきたけれど、他にはやっぱりなかった。私も若いときはよく高い会場を借りてリサイタルをしてました。今の若者はできる場所がいっぱいあるのに、何でみんなやらないのかなって思う。私たちの頃は限られていて、すごく高いところを借りなければやっていけませんでした。それでも作曲家を3人集めたり、みや子さんにダンサーとして出てもらったり、自分の弟子ではなく、いいダンサー、好きなダンサーを集めて公演してた。リサイタルのたび酷評を得るけれど、それも別にどうってことなくて、また懲りずにやる。自分でもよくやってたなと思います。そうやって続けてきて、やっぱり自分はダンスで表現するしかないんだなと思った。

でもよほどダンスが好きなのかいうと、そうでもない感じなんですよね。他にもいろいろなことをやってみたいと思うけど、やっぱりダンスが表現する手段としては一番いい。今も野外でゲリラダンスをやっています。カセットを持って行って、じゃんじゃんって鈴を鳴らしてひとを集めて踊るんです。とりあえず見てくれるひとがいればどこでもいい。去年ブラジルに行ったときもゲリラダンスをしてきたし、ギャラリーで画家とコラボレーションをしたりと、面白がって勝手なことをやってます(笑)。

pH

(C)staff tes


加藤>私は3歳から踊っていて、いつから踊り始めたのか自分でも覚えてないくらい。教えるのも自分から教えようと思って始めたのではなく、森嘉子さんがアメリカに行くことになって、代理を頼まれたのがそのままになったもの。16歳から自然な流れで教えてきたので、教えるということがどういうことか未だにわからないまま。

ただコミュニティをつくりたいという気持ちはすごくあって、そういう場があったら何が起こるんだろうということに興味があった。メンバーも生徒というより、それぞれが何かをつくりあっていく形で代々続けてきました。でもスタジオを持っていても投入していかなければいけないし、それは結構大変なこと。今だったら別の方法が見つけられたと思うけど、困難な時期に始めてしまったというのもありました。日本はできたばかりのカンパニーには助成がついても、古いカンパニーには出ないんです。結成15年以上経つと対象ではないなどの縛りがあって、ヨーロッパとは成り立ち方が違う。

大変なこともあったけど、てんでばらばらにひとが育っていくのはすごく面白いし、創造的だなって思います。ただ、ずっと一緒にということはないし、ひとつの通過点ですよね。一緒に何かやるときは、“えい!”って大声を出さないと集まらないくらいばらばらでやってる。それが集まることで、何かエネルギーになればと思うんですけど。

pH

 (C)staff tes

 

初演時の反響を踏まえ、今回作品に臨まれる想いをお聞かせください。

加藤>作品の出演者には震災の当事者も沢山関わっていたので、いろいろ意見がありましたね。これは続けていかなければいけない、という声も多くいただきました。初演のときに感じた怖さが、今また同じようにあります。でも前よりも時間が経って、静かに身体に沈んだものを出せるような気がします。

全体の流れはほぼ変わりませんが、今回は45~50分くらいに縮小しようと考えています。初演の後にこの作品を持ってドミニカ共和国に行きました。現地では縮小バージョンで上演しましたが、その時おふたりは行かれず、今回また加わっていただく形です。会場のアサヒ・アートスクエアも3月末に閉まるということで、最後の月を飾る舞台になります。こういう多目的なスペースはもっとあって欲しいですよね。閉館はすごく残念ですけど、いろいろな想いを込めた舞台になりそうです。

武内>僕はもう前回のことは全て忘れるようにしています(笑)。身体はこの時間を生きてきたから、前に戻るということはない。どういうことを再現というか。作品の骨格は壊さずに、空間は併用していくようなことは当然起こってくると思っています。

石井>反響といえば、この作品に出たおかげでニムラ舞踊賞をいただきました。ただどの舞台もそうですが、私自身は反省点ばかり沢山あります。賞をもらったことは嬉しくはあるけれど、他の方より自分が一番よくわかってますよね。

おそらく初演のときとはまた変わると思います。たぶん同じことは繰り返さない。前回の映像を見ていても、変えたいところがいくつかありました。“ああこれはちょっと嘘っぽいな”とか、自分のなかで変えるべき部分を選択しながら、“じゃあ今度はどういう風にする?”と問いかけていく。とてもいい機会を下さったと感謝しています。

pH

 




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