15 歳で親元を離れ、英国ロイヤル・バレエスクールへ留学。ご両親は留学費用を捻出するため、実家や車を売るなど大きなサポートをしています。15歳の少女にとって、その責任の重さは大変なものだったのでは?

麻衣子>両親のサポートは大変なものだったと思います。弟や妹、祖父母もいるなかで、自分の夢のために留学させてもらった。私自身“絶対に途中で帰って来ることはできない”“失敗は許されない”といつも言ってましたね。でも、やはりプレッシャーは大きかったです。

15歳って、少女から女性になる複雑な年齢じゃないですか。英語が話せない歯がゆさと、自分の想いを伝えられないもどかしさがある。お友達をつくりたいとは思うけど、どうつくっていいかわからない。シャイなタイプではないので、ボディランゲージはしていたけれど、複雑な気持ちまでは伝え切れない。家が恋しいだけではなくて、自分の戸惑っている気持ちをシェアしたかった。それができないということで、やはりホームシックになりました。

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出産を経て、バレエに対する意識に変化はありましたか?

麻衣子>アイリフを抱いて家に帰ってきて、今までより何か意味深いというか、これからは彼のために“ママは頑張ってきたんだよ”という姿を残したいと思いました。彼にとって自慢のママでいたい。ダンサーとしてだけの麻衣子ではなく、ママとしても輝きたかった。

中途半端なことは大嫌いなので、決めたら150パーセントやる。だから復帰作を『白鳥の湖』にしようと決意しました。でも周りには、“麻衣子、いくら何でも『白鳥の湖』はないでしょう”と言われましたけど。でもみんなも私がこういう性格だと知っているので、最後は“まぁ、麻衣子だからしょうがないね”と諦めてサポートしてくれました(笑)。

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『白鳥の湖』で復帰するにあたり、苦労した点は?

麻衣子>『白鳥の湖』は何回も踊っているので改めて振りを習うようなことはないけれど、やはり“白鳥”にならなければいけないので、他の作品より腕のトレーニングをする必要がある。だから本番まで要する時間も長くて、だいたい6~8週間くらいかかりました。それに妊娠していたときに出ていたお腹がなくなったせいでバランスがすごく変わってしまって、それが自分のなかでもショックだったし、怖かった。バランス感覚が以前とは全く違ってしまったので、いつもよりかなりスタートが遅れた部分はありました。本当にクラシック作品のなかで一番難しい『白鳥の湖』を踊ることができるんだろうか、という不安は大きかったです。

特に大変だったのはフェッテでした。日本のダンサーはみんなくるくる回るけど、私は背が高いということあり、もともと回転ものは得意じゃなくて。身長は172cmで、ノルウェーでも高い方。今バレエ団にいる日本人ダンサーは男性一名と女性二名ですが、やはりみんな小柄ですね。
バランス感覚の面では最後まで苦労しました。出産後早い段階で現場に復帰したからかもしれませんが、ギリギリまで自分の芯がつかめず悩みました。

ダブルを入れてフェッテをしたいという想いが強くあったけど、いくら練習してもなかなか上手くいかない。私にとっては意地もある。でもそんなとき、トレーナーのリチャードに“麻衣子、ダブルだけが全てじゃないよ”と言われて。“今までの状態で白鳥を踊っているんじゃない、子どもを産んでカムバックしたんだ。もっと広い視野を持って”と……。リチャードは11年間一緒に踊っていたかつてのパートナーで、私のことをよく知り尽くしてる。彼に“32回のフェッテはもちろん黒鳥の見せ場。でもダブルを入れるかシングルかというだけじゃない。どれだけ麻衣子が白鳥・黒鳥を踊り切るかというトータルのパフォーマンスが大切だから、舞台はシングルで踊りなさい”と言われて、私も考えを改めました。

復帰にあたり、緊張感はなかったですね。十何年間このバレエ団で踊ってきたので、私のことをフォローしてくれているお客さまも沢山いる。映画にも映っていますが、白鳥の衣裳を着て舞台袖に立ったとき、“あぁ、私は踊るべきなんだな。ここが私の家なんだ”と改めて思いました。

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今後のキャリアで成し遂げたいことは?

麻衣子>もうほとんど全てのレパートリーを踊りきっていると思います。今チャレンジしたいのは、これまで踊ってきた舞台をママとしてもう一度踊ること。今度『ジゼル』を踊りますけど、今までとはまた違うジゼルが踊れると思います。もう一回やり直しです。ママになって、本当に変わったと思います。すごくエモーショナルになって、泣き虫になりました。主人にも“最近よく泣くようになったね”って言われます(笑)。ママになった私、年齢も含めて、自分がまた違った意味で輝けるのではと思っています。


どんな方にこの映画を観てもらいたいですか?

麻衣子>バレエをしている方だけではなく、いろいろなジャンルの方に観て欲しい。若い子たちも含めて、いろいろな年齢の女性にこの映画を観ていただきたいなと思います。そして、夢を持って生きて欲しい。日本とノルウェーのカルチャーの差という意味では、日本の男性にも観てもらいたい。ノルウェーはとてもほがらかで、ふんわりした国。私は日本とノルウェーをミキサーに入れて混ぜたら絶対に最高の国になると思っているんです(笑)。

ただ日本を出てもう20年になるので、どんどん日本人離れしていって、日本の方からどう見えるか少し心配です(笑)。日本語は母としか話さないので、ちょっと言葉がヘンかもしれません……。バレエの映画ですけど、母や家族との関係、サポートも描かれている。ぜひいろいろな方に観ていただきたいです。
 
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