東京文化会館を会場に、3キャストで3日間に渡り上演されます。大舞台の初日ということで、緊張感もひとしおでは?
三木>前回の『眠れる森の美女』のときのように、まっすぐ歩けないというのはさすがにないですね。ただ、僕は必ず舞台に出る前に一回吐き気をもよおします。発表会でもバレエ以外の舞台でもいつもそう。本番前に頭の中で舞台を映像化して見るんですけど、それを全て終えてからでならないと出て行けないんです。舞台を俯瞰で見るというか、このシーンで彼らはここにいて、照明がこうあたって、お客さまの目線がこう重なって……と、イメージを全て描きます。そこで考えすぎて、結果吐き気をもよおすんです(笑)。永橋>私は本番前はとにかく静かに集中します。考えすぎないように、あえて舞台を意識しすぎず、普通のことをして、気持ちを落ちつかせます。その上で、踊ることができて幸せだと感謝の気持ちを忘れずにいると、本当に幸せに踊れます。あとは舞台の中心に立って、舞台全体を見渡して、舞台にキスします。
三木>僕は舞台を殴ります(笑)。特に去年の『海賊』は冒頭からものすごいアドレナリンを出さなければいけなかったので、余計そうでしたね。舞台って無機質なものだけど命があると思っていて、だから“ついて来いよ!”という意味でガッと殴ってから出て行きます。ただ、初日というのはあまり意識はしないですね。もちろんファーストキャストということで、二日目、三日目の彼らにとってお手本でいたいという気持ちはあります。なかでも山科諒馬君(三日目のデジレ王子役)のことは彼が小学校の頃から知っている間柄。僕が関西にいたとき諒馬君はまだバレエ教室の生徒として踊っていて、バリエーションを教えてあげたり、コンクールについて行ってあげたこともあります。だけど今は、兄のような存在であり、良き同僚ですね。
(C) TOKIKO FURUTA
永橋>私も初日に対するこだわりはあまりないけれど、エルダー版を日本で最初に踊ることができるのは幸せだなって思います。それに、東京文化会館は舞台の中で一番好きなので踊ることができて嬉しいですね。舞台も空間も広いし、あの空気感は気持ち良い。大きいからこそ立体的につくることができるし、そこで小さくまとまらないように踊る必要がある。お客さまと一体化して同じ空気感に浸れたときが一番心地良いので、自然と引き込まれるような舞台を目指したい。心を落ち着かせて踊り、結果としてお客さまも自然と同じ空間にいるというのが理想です。
三木>僕が谷桃子バレエ団でデビューしたのも東京文化会館で、ブロンズ・アイドル役でした。東京文化会館のバックステージって、柱にもう書く場所がないくらいサインがあったり、天井にはロイヤル・バレエ団やボリショイ・バレエ、ABTなど、世界中のバレエ団のツアーポスターが貼ってある。素晴らしいダンサーがここで、同じ場所に立っていたんだと思うと嬉しいですよね。これまで何度も東京文化会館には立ってきましたけど、恐れ多くてサインはまだしてません。どうせするなら自分からではなく、求められて書くようになりたい。でもまだまだ自分がそこまでいけていないので、もっともっとがんばらないといけないですね。
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舞台に向けて、意気込みをお願いいたします。
永橋>『眠れる森の美女』自体夢のある作品なので、終わった後にみなさんに幸せな気持ちになってもらえるのが何より一番だし、そのために自分に何ができるかというと、主役としてオーロラ姫を演じ切ること。一幕、二幕、三幕とオーロラ姫の成長の過程も含めて、女性としての幸せな空間を提供できるようにがんばりたいと思います。三木>観終わったとき大きなため息をついて、“キレイだった”と言ってもらえる舞台にしたいです。衣裳装置もヨーロッパのものを揃えているので、お客さまが劇場入りしたときから全てが『眠れる森の美女』であって欲しい。 もちろん踊りに関して一切妥協はしないけど、“自分のここを観てください”というよりも、今回は自分自身この舞台に対する期待がすごく大きくて。今の気持ちとしては、“わくわくしてます!”と言うのが一番ぴったりくる気がします。
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