鏡

自分が思う気分の状態と他人の目に映る感情の状態は、いつも一致するとは限らないものです。時にはあたかも仮面をかぶったように見える時もあるかもしれません

自分が思う自分と他人の目に映る自分は、時にあまり一致していないかもしれません。

例えば、いつも怒っているように見える人は、たとえ内心は気分が良くても、他人には不快そうに見えてしまっているかもしれません。

日常生活では混同されがちですが、精神医学的には、気分と感情が不一致な場合もあると認められています。この表現が変でないためには、精神医学的な用語としての違いをはっきり認識する必要があるでしょう。また、そうすることで心の病気だけでなく、日常の精神状態をよりシャープに認識するのにも役立つはずです。

今回は、気分と感情という2つの言葉の違いをテーマに、関連する精神症状や心の病気を詳しく解説します。

自分が感じるのが「気分」、他人の目に映るのが「感情」

気分(ムード、mood)と感情(アフェクト、affect)という、2つの語は日常用語としては同じような言葉かもしれません。しかし、この2つの語が精神医学の用語として用いられる場合は、はっきりと分けられます。

気分(ムード)という語は、自身の気持ちの状態を自身が評価した時の言葉です。一方、感情(アフェクト)という語は、気持ちの状態を評価するのは自分ではなく他人、すなわち、他人の目に映る自分の気持ちの状態を表わします。

例えば、「今日の気分はどうですか?」と患者さんに尋ねたとき、もし「最高です!」という答えが返れば、患者さんは自身の気分をとても良いと認識しています。患者さんの「気分」はとても良いことになります。そしてその時、もし、患者さんの答える声が、その答え通りに明るく、顔の表情も明るければ、他者の目に映る患者さんの「感情」もたいへん良好です。

なんだか単純な事をわざと複雑に述べているように思われるかもしれませんが、心の病気では患者さんの気分と感情とが噛み合わず、しばしば深刻な問題が現われることがあるのです。

もし悲しいはずの時に、顔に笑みが浮かんでいたら?

友人同士集まって、みんなで映画を見ていたとき、最後に主人公が不幸な最期をとげたとします。なかには目に涙が浮かぶ人もいるかもしれませんが、もし1人だけ、顔ににこやかな笑みが浮かんでいたら、まわりからどう思われてしまうでしょう?

このように、その場のなかで自分だけまわりと反応が異なっていたら、なかなか気まずいものです。

もっとも、その人はテレビに顔は向いていたものの、何か他のことでも考えていたのかもしれません。もしかしたら、ちょうどその時、何か良いアイディアが頭に浮かんだのでしょう。そうであれば、まわりの目に映ったその人のにこやかな笑みには、精神医学的な問題はありません。

しかし、時に気分と感情は一致しないこともあります。この例で述べますと、その当人は主人公が不幸な最期をとげたとき、たいへん悲しかったにもかかわらず、その気分が顔の表情に反映されず、あたかも気分が良いかのように顔の表情は明るいまま……といったことも精神症状として起きることがあります。

そうした場合、もしまわりの人が、それは病気の症状だという認識を持っていなかったら、悪い方向に誤解されてしまうかもしれません。こうした気分と感情の不一致は、精神病様症状を呈する統合失調症などの心の病気で時に現われる可能性があります。

感情の量が変化した時は脳内に不調が生じている可能性も

アフェクトとムード

強いショックを受けたときには、能面のように顔から表情が消失してしまうかもしれません

喜怒哀楽がはっきり顔に出る人も、反対にいつもクールな人も、どちらも個性といって済むことですが、もしそれが標準的なレンジから外れれば誤解されることもあるでしょう。

もし感情の量が多過ぎれば大げさな人、少なすぎれば冷たい人になってしまうかもしれません。しかし、一見冷たそうな人でも、実はたいへん心の優しい人だったりします。

ただし、場合によっては何らかの精神医学的な要因で感情の量が減少する場合もあります。例えば、頭が真っ白になるほど強いショックを受けた時には、能面をかぶったかのように顔から表情が消失してしまうかもしれません。通常は一時的ですが、もしこれが長期化するようならば、脳内に何か医学的な問題が現われている可能性もあります。

例えば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)では、その原因になっているショック体験は脳内の神経生理学的な機能に深刻なダメージを与える可能性もあります。そのため感情の減少が長期化してしまうと同時に、本人が感じる気分も慢性的に冴えなくなってしまうことがあるのです。

統合失調症など精神病様症状を呈する疾患では、その症状のタイプとして、外面に現われる感情の量がかなり減少することもあります。もし顔に表情があまりなく、話す声は単調、身振り、手振りなどのジェスチャーもあまりない……となれば、「冷たそうな人」といった誤解をまわりに与えやすいかもしれません。

もし感情の減少がこうした心の病気の症状として現われた場合、まわりの人は、なかなか症状だとは分からないものですが、その原因が脳内の医学的な問題にあることは是非知っておきたいことです。

今回は気分と感情の違いをテーマにしましたが、日常でも、自分の気分は自分では良く分かると思いますが、他者の目に映る自身の感情は、あまり分からないものだと思います。

もし、鏡に映る自分をふと見た時、「この人だれ?」と驚くようなことがあれば、その時の気分と感情はあまり一致していないかもしれません。そうした時は他人に誤解を与えやすい時かもしれません。自分の感情(アフェクト)がいかなる状態にあるか、ぜひ時々意識してみておいて下さい。


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