目指したのはビスポークシューズと同様の快適性!
真上から見た写真です。これまでのルームスリッパからは想像できない、物凄い「内振り」の造形であることがお解かりいただけましょう。このスリッパのためだけに木型を作ってしまうなんて…… 相変わらず妥協しなさ過ぎです。
脱ぎ履きはし易いのに、着用中は脱げ難い
と言う二律背反の克服です。柳町氏曰く「言われてみればスリッパは、踵の付かない究極のスリッポンな訳で、足へのまとわり付きがタイト過ぎてもだめですが、ルース過ぎてもだめなのです」脱ぎ履きの容易さと着用時のホールドの良さとのバランスは、通常のビスポークの靴とは一味異なる難題だったようで、結果として何とこのルームスリッパのためだけに、専用の木型を左右別々に作成するに至りました。上から見た写真からも、従来のスリッパでは考えられないような複雑なシルエットになっていることがお分かりいただけるでしょう。
二つ目の山は
クッション材を封入するが故の、「ズレる」履き心地の克服
でした。この構造のスリッパでは、インソールとアウトソールの間に一種のスポンジを封入し、ちょうどウェルテッド式の製法で用いるコルクのような役割をさせます。ところが一般的なものはこれとインソールとの間に隙間が起こり易く、その影響で足底にフニャフニャ・モゾモゾとした感覚が生じ剛性感・安心感が著しく乏しくなるのです。読者の皆さんも多かれ少なかれこれ、経験がありますよね! しかしそこはビスポークメゾンたるHIRO YANAGIMACHI Workshop。硬い革ではなく柔らかなスポンジを土台にするのは至難の業で細かな工夫が必要ですが、ここの誂え靴と同様にアッパーや底周りの釣り込みを手で丁寧に行うことで、パシッとしたハリが長続きするインソールを実現しています。
もちろん使っている素材についても妥協はありません。インソールの下に封入するスポンジは低反発系のもので、それこそ幾多の種類の幾多の厚みのものを比較検討・試作した上で採用を決めています。その下に付くミッドソールは、スニーカーのそれですっかりお馴染みのEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)で、軽さと強度の両立を図りました。そしてアッパーと底面を構成する革は、このルームスリッパのためにだけに用意されたもの。敢えて起毛系のもののみとしていますが、肌触りの良さとお手入れの容易さを考慮したもので、合計3種類14色と選択肢は豊富ですよ。ライニングは柔らかで密着力に優れたホースレザー(馬革)、タッセルやソックシートにはここの誂え靴のアッパーに用いるカーフを使用し、贅沢さをさりげなく演出しています。
さて、肝心の履き心地は? 最後のページで解説します!