お隣の木が越境してきたら、どうしますか?
◇「マンション住まいのお悩み相談室」に相談したい方は、こちらのリンクからご応募ください。(相談は無料です)
■相談者
泰史さん
男性/55歳/東京都
既婚/夫婦2人暮らし
■相談内容
隣のマンションの木が成長し、私のマンションの敷地内に枝が伸びてきて通行の邪魔になっています。このような場合、こちらのマンションの管理組合で勝手に切ってもいいものでしょうか。
■お住まいのマンション
東京都/築25年/総戸数:約60戸
越境したからといって無断で切るのはダメ
民法では、以下のような規定があります。<第233条1項>
隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
つまり、敷地境界線や塀を越えて伸びた木の枝を切るよう請求することはできますが、自分が無断で切るのはNGです。そのような行為は、刑法上の器物損壊罪に当たる可能性もあります。
これは、枝になっている「果実」を取る場合でも同様です。無断でこれを採ると違法となり、損害賠償請求の対象になるだけでなく場合によっては窃盗罪(刑法)にもなります。
それでは、越境した枝の切除を要求するなら必ず条文通りできるのかといえば、そうとも言えないようです。過去の判例では、枝の切除を請求できる要件として、単なる越境の事実のみならず、それによって落葉被害が生じているなど何らかの被害を被っているか、その虞(おそれ)があることを求めています。
本件の場合には、越境した木の枝で「歩行者の通行に支障がある」という状況が発生しているので、正当な権利として切除を請求できると考えられます。
なお、枝の切除を請求する相手方は「木の所有者」です。本件のようにお隣りがマンションならそのオーナー(大家)、もしくは管理組合となります。
一方、請求する主体は、共用部分に関する問題なので相談者が属する管理組合となります。理事長もしくは理事会を通じて先方に要請してもらうのがよいでしょう。
越境したのが「木の根っこ」なら切ってもよい?
本テーマに類似する事例として、たとえば越境してきたのが木の枝ではなく「根っこ」だったらどうなのでしょう?民法の条項には、以下のような定めがあります。
<第233条2項>
隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
これによると、竹木の根が土中から越境してきた場合には、勝手に切ってもよいことになります。さらにはそこから筍が生えてきた場合には、それを勝手に採ってもよいと解釈できます。ただ、この場合も留意すべき点があります。
たとえば、根を切除したことでその竹木自体が枯れてしまうケースも想定されます。そのような場合、その根が原因でこちらが具体的な被害を被っている事実があるか、あるいはその虞(おそれ)がないと権利の濫用に当たるとされ、所有者から損害賠償を請求される可能性もあります。
したがって、まずは竹木の所有者に対し、竹木を植え替えてくれるよう申し入れるなどしたほうが無難でしょう。
法律とは、受忍限度を越えた権利侵害に対してはじめて法的措置を発動するという基本コンセプトがあります。まだ何も被害がないのに、法を形式的に適用して一方的に権利のみを主張する人を助けることを想定していないのです。
<民法1条3項>
権利の濫用は、これを許さない。
お隣りさん同士ならば、本来はお互いの協力・受忍関係のもとで円満に物事を解決していくよう努めることが大切です。民法もそのような関係を前提に条文が定められていることを理解するようにしてください。
◇「マンション住まいのお悩み相談室」へのご相談は、こちらのリンクからご応募ください。(相談は無料です)