新橋演舞場の前は幅広い年齢層でいっぱい
見得、大立ち回りにスピーディな変身
タタン、タタンとツケは随所で使われる。見得は切る。ヒーローたちがひとりずつポーズをとりながら名乗りをあげる白浪五人男のような演出もある。大立ち回りもある。スピーディーな変身もある。一方で、下座音楽もない、CGでの映像処理もちりばめられ、ゴム人間にパンチをされた悪役のゆがんだ顔がスクリーンに大写しとなる。ゆずの音楽が鳴り響く。これは歌舞伎と言えるのだろうか? という疑問も湧いてきます。
また、花道のスッポンからの登場や退場もどんどん利用していますが、スッポンから出てくるのは妖怪変化というのが歌舞伎の中のお約束のはず。
「しかしルフィーだってゴム人間なのだもの。妖怪のようなもの。いや待てよ。ルフィーは人間のはず」
などと考えていたら、目の前の芝居がどんどん先に行ってしまいます。もうそんな「お決まり」を気にするのは意味のないことなのでしょう。
当初「『見得などの歌舞伎寄りの演出手法も入れた演劇』に近いのではないか」と思っていたガイドですが、徐々に印象は変わっていきました。
大掛かりな舞台演出はスーパー歌舞伎ならでは
さて、歌舞伎と言えるのか言えないのかすらわからないという読者のために、歌舞伎の新ジャンルである“スーパー歌舞伎”の定義を、確認してみましょう。「先人たちが、好きなようにやってくれたおかげで、自分たちも自由にできた」といったことを猿之助自身、テレビ取材の中で語っています。先人とは言うまでもなく、スーパー歌舞伎を始めた二代市川猿翁のことです。明治以降の近代の新歌舞伎があまり顧みようとしなかった江戸歌舞伎の演技・演出上の諸要素{踊り・立ち回り・ツケ・見得・ケレン・隈取・科白の合方としての音楽・正面芝居・誇張された豪華な衣装などなど}を意識的に取り入れ、なおかつ現代語で現代人に感動を与えるストーリーを持った芝居を創ろうと始めたもの」といいます(二代市川猿翁。ワンピースパンフレットより)
ワンピースパンフレット
今回の「ワンピース」は、「歌舞伎寄りの演出」どころか、「ヤマトタケル」「新・三国志」と続いてきた、スーパー歌舞伎の総決算と言えるのはまちがいありません。そして、三国志にも並ぶような壮大なストーリーが漫画にもある、それを歌舞伎で観せるとこうなるのだと、改めて知らしめる作品になったと思います。
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