マネジメント/マネジメント事例

五輪エンブレム問題に学ぶ、危機管理広報のポイント

東京五輪エンブレムの盗作デザイン騒動に端を発した問題は、結局デザイナー佐野研二郎氏によるデザイン取り下げで白紙撤回という結末になってしまいました。誰もが膨大なネット情報を手にできることで加速度的にエスカレートした世論の批判的論調が、当事者の危機管理広報対応の瑕疵を突いて、撤回に追い込んだ形とも見て取れました。今回の件から、ネット時代の危機管理広報のあり方を考えてみたいと思います。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

五輪エンブレム問題、広報対応の焦点

海外デザインの盗作か否かで騒ぎとなった東京五輪エンブレム問題は、途中からデザイナーである佐野氏の他の作品におけるトレースや無断使用に焦点があたり、本来議論すべき五輪エンブレムとは無関係の周辺問題ばかりが議論の中心となっていきました。一方で本題の議論は進むことなく、その周辺問題の盛り上がりにより取り下げに追い込まれるという、何とも後味の悪い結末となったように思われます。

ではなぜそうなってしまったのか、まず時系列を追って問題とその対応を検証してみます。

まずはじめにエンブレム発表後に、ネットを起点として「ベルギーの劇場のロゴマークに似ている」という情報が流されました。この段階ではあくまで問題はエンブレムのデザインでした。そして佐野氏は、この問題に関してオリンピック組織委員会と共に会見を開き、「盗作では絶対にない。これまでデザインのパクリをしたことは一度もない」と明言。ひとまず事なきを得たかに見えたのでした。

ところがこの会見の後、ネットを騒がせたのは五輪エンブレムとは関係のない、これまでの佐野氏の仕事に対する、デザイン盗用の疑義を投げかける多数の投稿でした。その中で最もインパクトのあったものが、佐野氏デザインによるサントリーのキャンペーン景品、トートバックを巡る複数のデザイン流用問題だったのです。

この問題では元デザインとの酷似から数点を景品から取り下げるに至り、佐野氏は個人事務所のWEBページでコメントを出しました。それは、事務所スタッフによる無断トレースがあったこと、自身の作業ではないものの管理責任は認めること、五輪エンブレムは個人の作品でありこの問題とは無関係であること、を記したものでした。

さらにこの間、氏の講演先でコメントを求めるメディアに対して取材拒否を貫き、写真撮影を拒否。事務所の広報担当である佐野夫人からは、「ひとつダメなら全部ダメなのか」との発言が飛び出しました。

この後、佐野氏バッシングは前にも増して強烈なものになっていきます。次々とネット上には新たな盗作疑惑が流され、遂には組織委員会がエンブレムデザインの正当性を主張した際に提示された当初デザインや展示例パースにも盗作や無断流用の疑義がかけられ、遂にデザイン取り下げに至ってしまったのです。
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