表現を意識した音量プランを練る
表現力豊かな演奏をするには、楽譜に書かれていることをしっかりと意識しながら弾くことが大切です。指を動かすことに精一杯になっていると、最初から最後まで同じ音量で弾いていたり、フォルテで弾いているつもりがいつの間にか音量が落ちていたり、逆にピアノで弾いているつもりがどんどん音量が膨らんでいたりということがよくあります。「なんとなく」や「いつの間にか」音量が変化している場合は、表現が曖昧で説得力に欠けた演奏、または文章を棒読みしているようなメリハリのないつまらない演奏になっていることが多いものです。
名優といわれる役者さん達は、さらっと聞き流してしまうような何気ないセリフの一語一語にも、声色や大きさ、抑揚や間の取り方など、細部に渡り緻密に計算しているのだという話を聞いたことがあります。
ピアノの演奏も、大根役者ならぬ大根ピアニストにならないように、ピアノに向かって指を動かすばかりの練習ではなく、楽譜を眺める時間を設けて、音量をどのように変化させると効果的な表現ができるかしっかりとプランを練っておくことが大切です。
音量のプランを立てる際にチェックすべきポイント
■楽譜の中に出てくる最強と最弱の表記を確認しておく曲の中に使われている一番強い音量と弱い音量の表記、そしてそれがどこにあるかを確認しておきましょう。最強と最弱の幅を知っておくことで、他の部分の音量をどのようにコントロールすべきかプランが立てやすくなります。
■設定した音量を維持する範囲を決める
フォルテで弾くべきところを、少し先に「p」が書かれているといつの間にか音量が下がっていたり、逆にピアノで弾いていたつもりなのに「f」の部分が近づいてくるとだんだん音量が上がっていることがあります。また、音が下に向かって動いていると音量も下がり、音が上がっていくと音量も上がるというように、音の動く向きによっても無意識に音量が変わってしまいがち。
音楽の流れに乗って音量が上がったり下がったりするのは自然なことで、一概に悪いというわけではありませんが、ある一定の音量をしっかりと維持しておいた方がいい場合もあります。音量の変化するタイミングが、音符ひとつ分だけ違っても演奏効果に差がでる場合もあるのです! 音量のプランを立てる際には、どこまで音量を維持して、どのように変化させていくのが一番しっくりくるか、何パターンか案を作って試してみましょう。
■音量のバランスを決める
音楽には、メロディーとそれを支えるハーモニーなど個々の音に役割があります。小節の中のすべての音を同じ音量で弾くのではなく、音符の役割によって音量に差をつけなければ整った演奏にはなりません。
たとえば、ピアノレパートリーの中でも人気の高いベートーヴェン、ピアノソナタ第8番「悲愴」の第2楽章。下図で示したように、メロディーにあたる一番上の音は他の音より浮き立たせ、それを支えるハーモニーのベースとなる左手の旋律はメロディーより少し控えめの音量で、そして中間部の16分音符は主張しすぎない音量で弾くなど、声部ごとに3つの音量に弾き分ける必要があります。
このように、音量に違いをつける場合は、音符を色分けするなどして、見てはっきり分かるようにしておくと練習時に役立ちます。1つの小節に、向きの違う音符が混在していたら、それは複数の声部が絡んでいるということ。横の流れを見ながら音量のバランスを考えましょう。
次回は、徐々に音量を変化させる<クレッシェンド>と<デクレッシェンド>の効果的な弾き方についてご紹介します。