マスコミとの接触を断っていたあなたが、映画出演を決めた経緯をお聞かせください。
アレクサンドロワ>共同監督のマークが私に電話をかけてきたのは事件が公になったときのことでした。しかもそれがボリショイの外側で起こった事件ではなく、劇場内部の争いだと公表された直後です。事件に巻き込まれたのがフィーリンであり、パーヴェルが関わっていることが公にされ始めた頃でした。マークは私にとって尊敬に値するひとです。マークと私の兄がもともと長い付き合いで、私は兄のことを信頼しているし、だからマークも信頼できるはずだという想いがありました。ただ私はどんなテーマだろうと自分が話したくない内容はいくらお金を積まれても絶対に話すつもりはないと考えていたし、マークにもそう伝えました。彼は私がなぜ沈黙を守っているか、私がなぜこういう態度に出ているかということをよく理解してくれました。またボリショイというのがどういう場所なのか、誰と話をすべきなのか、話す相手の気持ちを非常に大事にしてくれた。
けれど、パーヴェルが逮捕されたことにより、劇場が混乱してしばらく撮影を中断することになりました。マークが二度目の撮影を再開したのはそれから半年後のことです。その間に私は怪我をして、リハビリ期間を経て劇場に戻ってきたところでした。
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もちろん映画に出るということは危険もありました。これは芸術的な映画でもなければ、つくり上げられた美しいロマンティックなお話が展開される訳でもない。私たちの日常生活がそのまま映し出され、自分が言ったどんな言葉が使われてしまうかもわからない。台本もなければ、準備もできないし、撮り直しはない。もしかするとマークやスタッフ側には台本というものが存在していたかもしれないし、こういう見せ方をしようという意図があったのかもしれません。けれど、私たちにそれが知らされることはない。
ただマークは現実の掴み取り方に非常に優れていて、どんな人間にどんなテーマでどんな話をしてもらうか、その状況を作り出す能力に秀でているのを感じました。こういうひとがつくるルポルタージュなら私も安心して協力できると確信しました。
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