蜷川幸雄氏に言われた一言
「俺の時間を返せ!」
横田文学座に入って2年目か3年目に、桐朋の演劇科で同期だった松本君から誘われてNINAGAWAスタジオの稽古場に行き、エチュードをやったのが蜷川さんとの出会いですね。
それで、スタジオの発表会があるという話になり、ハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』という男性二人の戯曲を稽古場で上演したんです……確か30分から40分くらいの内容だったと思うんですが。その時に蜷川さんにボロクソに言われまして……「俺の時間を返せ!」と(笑)。
――外部の人にボロクソに言ったということは、蜷川さんのスイッチが入ったということかと。
横田
かなり本気でやりましたから。小さい稽古場に料理昇降機を実際に作って、暗幕を張り、照明も吊って、後輩に音響も手伝って貰ったりして。
――インパクトのある出会いだったんですね。
横田
それから1年半くらい経って、真田広之さん主演で蜷川さんが『ハムレット』を演出することになったんですが、前回レアティーズを演じた俳優さんがスケジュールの都合で出演が難しいと。それでレアティーズを出来る俳優を探しているという話を聞いた文学座のマネージャーに蜷川さんの所に連れて行かれたんです。
僕としては、稽古場でボロクソに言われたことを思い出して「やべえ」と思ったんですが(笑)、まあ、覚えてないだろうと蜷川さんの前に出たらしっかり覚えて下さっていて、マネージャーに「コイツ、図々しいんだよ。人の稽古場に勝手に来て装置建てて長い芝居やりやがって(笑)。俺の時間返せ!でも俺、図々しい奴好きなんだよ。だからコイツに決まり」って。
――比べることではないのかもしれませんが、鵜山さんと蜷川さんの演出の一番の違いって何でしょう?
横田
シェイクスピア作品は、整合性のないところをどう繋げていくのかが難しいと思うのですが、鵜山さんはご自分なりのロジックを大切にされる方だと思います。蜷川さんは直感を大切にする……演出席で芝居を観ていて「なんか面白くねえ」って違和感みたいなものを持ったらそこを突き詰めて行く感じでしょうか。
お二人とも、最初の登り口は全く違うんですが、最終的に頂上で見ている風景は同じ……そんな気がします。
――今後、横田さんが挑戦してみたい事がありましたら教えて下さい。
横田
シェイクスピア作品に関しては、勿論これからも続けていきたいと思っています。あとは最近Barや居酒屋さん、カフェで朗読をさせて頂いているのですが、その時に井上ひさしさんの小説を良く読むんですね。本当は井上さんがお元気な時に作品に出させて頂きたかったのですが、それが叶わない今、井上戯曲にしっかり向き合い、演じる機会があればと思います。
(長塚)圭史ともまた一緒に何か作りたいですね。最初は役者同士として出会って、その後彼の演出作品にも出たりしましたが、本当に面白い奴です。吉田鋼太郎さんの劇団AUNの舞台にも立ちたいですし、うん、やりたいことの話になると止まりません(笑)。
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舞台『トロイラスとクレシダ』で、ギリシャの将軍・アキリーズを演じられる横田栄司さんにお話を伺いました。
ご自身は照れて否定していらっしゃいましたが、横田さんが舞台に現れると、それだけで作品世界がぐっと深まるような気がします……圧倒的な存在感と安定感。そのオーラのせいか、シェイクスピアをはじめとした古典の世界観がぴったりハマるのは勿論ですが、個人的には、普通のビジネスマンが通勤電車の中でふと恋に落ちてしまう……そんな恋愛物語もいつか拝見したいと思うのです。
『トロイラスとクレシダ』(撮影:細野晋司)
世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター
◆『トロイラスとクレシダ』
7月15日~8月2日 世田谷パブリックシアター
作 ウィリアム・シェイクスピア 翻訳 小田島雄志 演出 鵜山仁
浦井健治 ソニン 岡本健一 渡辺徹 今井朋彦 横田栄司 吉田栄作 江守徹 他
※東京公演終了後は石川・兵庫・岐阜・滋賀での公演有 → 公式HP
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